038
ふぉおおおお! 俺、完全回復!
復活! 俺、復活! ついでにシュナイダーも洗濯と乾燥が終わって完全復活だ!
というわけで筋肉痛も治り、冒険者ギルドへ顔を出した。
「うわぁああルーカスが化けて出たぁああ!」
「死んでねぇわ馬鹿野郎!」
なぜか俺が命と引き換えにヒュドラを倒したことになっていた。いや、分からんでもないけど勝手に殺すなよ。え? 追悼の酒盛りした分返せ? 知るかよお前らが勝手にやったんだろ。なんで俺を呼ばなかったんだ。筋肉痛で行けなかったけど。
で、ギルドから報奨金も貰うことができた。ヒュドラ討伐はやはり大手柄なもんで、かなりの金額をどっさりいただいた。袋にいっぱいの金貨金貨金貨。うほほい。
あ、でもこれキーモンスターを単独討伐したにしては少ないらしい。まぁチームの面々あっての手柄だったからな。そっちに払う分減るのは当然仕方ないことだ。
「これはルーカスさんの分ですから」
ローラと山分けしようかとも思ったんだが、そう言って受け取ってくれなかった。まぁそんなら仕方ない。
あぶく銭……というわけでもないが、これほど大量の金貨をどうしてくれよう。
と、俺は考える。ギルドでぱーっと奢る……いや、こいつら俺の死を肴に酒盛りしやがったんだし別にいいだろ。ヒュドラを倒した後の酒盛りはギルド持ちだったらしいし、俺はそれ参加しそびれたし。それなら自分のために使ってしまっていいのではなかろうか。いやむしろ自分のために使うべきである、自分の金なのだから!
……実は俺、欲しいものがある。
家だ。貸家やアパートではない、自分の家が欲しいのだ。
前世では俺はついぞマイホームというものを持つことができなかった。一人暮らしのアパート暮らし。今と同じだ。だが男としてはその、やっぱり自分の城っていうものに憧れがあるもので。
というわけで、俺は不動産屋に足を運んだ。
*
はい! 買っちゃいました! マイハウス!
「これが俺のハウスだ。どうよ」
新居を構えた俺は、早速美女3人を家に招待してみた。ローラ、ドロシー、ミルスの3人である。美女である。異論は認めてもらえない。
「なんかボロボロですね」
ローラにはお気に召さなかったようだ。味があるって言ってくれ。
「うちの村ならもっと安くいい家立ててあげたのに」
え? いやドロシーの村ってスタンピードに弱そうな立地じゃん。あと俺はシティボーイだからな、謹んで遠慮しておくよ。つーかドロシーいつまでミルスん家に居候してんの? スタンピード終わったんだし帰れよ。
「まぁこのくたびれ具合がルーカスさんらしいっていえばらしい、かな? ウチからはちょっと遠いけど、良いと思うよ」
おっ、ミルスは分かってるな。さすが美人。ビジン。び、びじんってなんだっけ?
……まぁなんだ。俺の新居は控えめに言ってボロボロだった。
立地としては外壁に近く、わりかし安め。だが、一軒家を土地込みで一括買いしてやった。もはやこの家、この土地は俺の所有物なのである。
「それにしても、不動産屋もよくまぁこんな家を紹介したね。ルーカスさんって今町を救った英雄でしょ? もっといい物件紹介してくれたんじゃないの」
「ふっふっふ。それには理由がある。確かに色々見せてもらったしもっと中心に近いところも格別に安くと紹介してくれた。だが、俺はあえてこの家を選んだのだ!」
ミルスの疑問に答えるように、俺はバンッとこの家の見取り図を取り出した。
「コイツを見てくれ、どう思う?」
「うん? ……小屋に物置部屋に……うーん、なんというか、増築に増築した変な感じの家だねぇ。これが何さ?」
「そこでこいつをこうだ」
俺は、物置小屋に『顔』を書き込む。するとどうだ。
「!! この家……頭、胴体、腕……ッ あ、足まで!?」
ミルスも分かったようだ。そう、この家はなんと上から見たときに人の形をしているのだ!
「これこそ【人形使い】である俺にふさわしい家だと思わないか?」
「うんうん思うよ! さすがルーカスさん、ぴったりな家だね!」
「……だいぶ無理ありません? 特にこの足とか」
「ローラ、ここは同意してあげよ? ね?」
うぐ、優しさがちょっと心に突き刺さる。
そしてミルスが純粋な目で俺に向かって言った。
「ねぇ、それでルーカスさん。これ、動くの?」
「え?」
どうなんだろう。ミルスのその一言に俺は想像を巡らせる。
家が立ち上がりファイティングポーズをとる。なんということだ。これはまさに男のロマン、変形ロボである。
――いける。俺はそう思った。思ってしまった。
後から考えれば行けるわけがなかった。むしろ行ってはいけないことだった。
立ち上がろうもんなら中身がシェイクされて大変なことになるのは間違いない。走ったりパンチしたり? とんでもない。家にトラックが激突するようなもんだわ。
だが俺はミルスの甘言に乗って、物置小屋の屋根に顔を描いた布をかぶせ、指20本分の糸を家の柱に括り付けて、「動けー!」としてしまった。
マイホーム・ハイとでも言うべき状態だったのだろう。俺は正常な判断ができていなかった。
結果。家が倒壊した。
屋根がびくっと「あ、ちょっと動いたかな」と思ったらそのまま上からずざざざーっと崩れて行った。ドミノ倒しのナイアガラのごとし。なんということでしょう……この解放感。匠の粋な計らいが、は、ははは……
「……ッ、ッ!」
俺は泣いた。バカだ。俺はバカだ……! カムバーーック! マイホーーームッ!
「まさか屋根が動くとはねぇ。中に蜘蛛の巣でも詰まってたのかな……いやーこれ、ルーカスさんどんだけ大きいモノ動かせるのか興味出てきちゃうね」
「ルーカスさん……どんまい!」
「こんちくしょぉ……」
俺は家だった残骸にすがりつく。ううう、ぐすん。表札も作ったのに。
「ま、まぁ、お金はまだあるんですよね? 建て直せばいいじゃないですか」
「……」
「ルーカスさん?」
「……土地買うのに使っちまって……もう残ってないんだ……」
「えっ。土地ってそんなに高いんですか?」
「その、税金100年分前払いしたから……」
うわぁ、という顔でローラが俺を見た。うんごめん、100年後とか俺140歳だよね、生きてるわけないよね。オジサンはっちゃけちゃったんだ……「っひゃあキリよく100年だぁー!」とか言って払っちゃったんだ……
「ま、また、稼ぎましょうね。ルーカスさん」
「うん……なんかその、ごめん。せっかく来てくれたのに家無くなっちゃって」
「大丈夫ですよ、ほら、土地はあるんですから上の家の分だけ稼げばいいんです」
うう。ローラの優しさが身に染みる。
「……あ、そーだ。ルーカスさん。こうなった責任ってアタシにもあるわけだし、家を建て直すまではアタシんちに居候してもいいよ? どう?」
「いやいや。ここはうちの村に引っ越そう。ねっ、ルーカスさん。ヒュドラを倒せるほどの冒険者ってなったらきっとみんな大歓迎だから!」
「ま、待ってください二人とも。ここはその、パーティーメンバーである私を頼ってくれてもいいと思うんです。ウチにだって空いてる部屋がありますし、妹のクララもルーカスさんの人形劇また見たいと思ってるはずです」
そう言って、3人は俺に手を差し伸べてくれた。……ありがとうみんな。俺、頑張るよ。俺は皆から元気をもらい、立ち上がった。家は無くなったが、気分は晴れやかだった。
「で、これからどうするんですか? ルーカスさん」
「これから……そうだなぁ」
とりあえず、シュナイダーで今日の飯代を稼ぎに行くかな。