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 カカシ3体、戦闘用シュナイダーにそれぞれ2つの頭が襲い掛かる。

 さっきより動かす数は減ったが、対応しなきゃならん頭は増えてる。


 吉と出るか凶と出るか――うん、カカシは抑えきれない。2体捨て身で反撃、シュナイダーに集中力を高めて、剣を突き刺す。


 ……首を1つとった。が、シュナイダーの剣がなくなってしまった。畜生め! 誰だ剣を突き刺して交換していく仕様にしたヤツは! 俺だ!


 時間はどれだけ稼げたのだろう。10秒? 10分? 体感だと1時間は稼いでるようにも感じるんだけどなぁ、まだかよぉ!



 最後のカカシがやられ、シュナイダー2匹が残る。


 やっぱり最後はお前らだよ、シュナイダー。と、ふとシュナイダーの基礎武装があることを思い出す。爪だ。爪ケースに入れられすっかり忘れていたが、あれはウルフの牙を研いだナイフだ。

 だがどうやって爪ケースを外す? 一旦俺のところまで戻すか? いやそれしかないけどそんなことしたらヒュドラがシュナイダーを追いかけてこっちまで来るってことだ。


 というか、シュナイダー改に至っては砂袋の入った手でぼこぼこ殴りつけてるけどほとんど影響がない。なんてこった、もっと早く気付くべきだった。

 俺の武器は戦闘用シュナイダーしか残されていないじゃないか。


 片目をあけて空を見る。


 木々の隙間から見える空は青く、なんというか……えっ、俺これから死ぬの? って感じがした。死亡フラグなセリフなんて言うんじゃなかった。畜生。

 【飛行】持ちがこっちに向かっていると信じて、最後まであがいて見せよう。


 と、ヒュドラと俺って今どういう位置関係なんだろう。シュナイダーで戦闘してて動きすぎて、ちょっと良くわからなくなっている――と、ぐいんと体が、いや指が引っ張られる感覚。


 ずざぁ! と、俺の体は木の陰から出てしまった。


 何が起きた。

 見ると、ヒュドラが、カカシを咥えて引っ張っていた。


 ――糸を手繰られたのだ。


 そして、気が付いたときにはヒュドラの赤く光るその眼を、俺は自分の目で見てしまった。


 びりりと痺れる手足。

 動かせない。1ミリたりとも。


 これが『石化の視線』。人形越しでは効果が無かったそれを、身を持って体感している。

 したくなかった、こんな体験。今の俺は、まさに蛇に睨まれたカエル。いや、ピクリとも動けないからカエルフィギュアか何かだ。あとはヒュドラにおいしく食べられるだけ――迫り来る頭。くちゃぁ、と毒色で血色の悪い口内がこちらを向いている。


 怖くても、ぎゅっと目をつぶることもできない。が、ここで視界が分かれていることに気付いた。

 シュナイダーだ。俺は、シュナイダーの視界をまだ見ることができている。そして、シュナイダーを動かすことは――できる!


 俺はシュナイダーを動かし、ヒュドラの顎にアッパーを決めた。

 それによりガチンと目の前で閉じる口。本当に目の前だ、いつキスしてもおかしくない。嫌だぞファーストキスがヒュドラとか! ファーストキスは毒の味とか!


 ……そういえば俺はまだキスもしたことがなかったのか。


 そう思い出し、死にたくないという気持ちが湧き上がってくる。

 なにか打開する手はないか。シュナイダーで時間を稼いだが、このままでは食われてしまう。何か動かせる手は? 人形は? 壊れたカカシ、シュナイダー2体、カエルフィギュア……じゃない、カエルじゃなくて俺? いや、俺。ちょっとまて。


 再び俺を食わんと口を開けるヒュドラ。やばい余計なことを考えてる時間はもうない。

 そう、人形。人形ってのは、人の形をしたもんだ。

 目があり、頭があり、胴体があり、手足もある――そんな、のが、都合よく俺の手の届くところに――


 はっ、と閃いた。


 直後、俺の体は後ろに跳び(・・・・・)、距離をとった。


 そうだ。人形ってのは、人の形をしたものだ。

 つまり、そう。



 それは人間でもいいってことじゃないか?



 むしろ人間こそ究極の人形と言えるだろう。なにせ人間なんだから、これ以上人間に近い形をしたものなんてありゃしない!

 俺は人形使いのスキルを自分の体に向けて発動した――いや、すでにもう発動し、距離をとっていたか。


 俺の体が、俺の思い通りに動く。

 ただそれだけのことに、ひどく感動すら覚える。


 ヒュドラが赤く光る瞳でこちらを見つめる。なぜ獲物が動いているのか理解できない顔だ。

 当然だ。俺は動いてるんじゃない、動かしてる(・・・・・)んだから。


 人間という人形は、完成度がとても高いので指1本分で自由自在に動かせる。

 これ、他人に糸くっつけたらどうなるかすごく気になるところだけど……まぁ今はそれは置いておこう。ともかく俺は今、指1本を使って全身を動かせる。


 奇妙な感覚だ。体は痺れて動けないのに、触った感覚すら麻痺しているのに、こうして俺の体は俺の意のままに動かせている。

 まるで他人の体に憑依したような――うん? なんだか怖い連想になりそうだ。このくらいでやめておこう。


 ともかく、俺はヒュドラを見る。先程シュナイダーが潰した1つを除いた8個の頭がこっちを興味深そうに見ている。赤く光る瞳で。

 なるほど、なるほど。

 その間に、俺は手を握ったり開いたりして、自分の体がどう動くか確かめる。


 これは、生き残れるかもしれない。


 ふと、ミルスと検証したことを思い出す。


 人形は、俺のスキルによって強力なパワーを発揮できる。

 そしてそのパワーは、使う指を増やすほど、強くなる。


 今、俺の体を動かしているのは、たったの指1本分。

 それで、普段の俺と同じくらいの動きができるのだ。


 もし。もしだ。俺の両手両足全てのパワーを俺という『人形』につぎ込んだら、どうなるのか?


 ミルスとの実験では――そもそも人間相手にやってないからどうなるか分かったもんじゃないが――別に、使う力を増やしたところで人形が強化されるだけだった。さすがに全部つぎ込んだのはやってないが、数本分で試した限りでは破裂したり不具合が出たりなんかはしなかったはずだ。


 よし、というわけで、やってみようか。


 俺は、一気に10本分の力を『俺』に注いだ。



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