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033

 リーダーが6本目の頭を切り落とした時のことだった。


「! やばい、離れろ!」


 その一声で冒険者達が一斉に散る。当然俺の人形達も距離をとった。


「ビギャリィイイイイイイイ!!!」


 まるで金属をこすり合わせたかのような耳障りな叫び声。

 そして、ぽわ、と白い光がヒュドラを包む。


「おいおいおい、マジかよ……」


 光が納まった後、そこにいたのは無傷の(・・・)ヒュドラ。

 がらんがらん、と体に突き刺していたはずの剣すら地面に落ちる。


「……ははっ、マジかよ……」


 先程まで垂れ流していた紫の血が地面の草木を枯らして水たまりを作っていたが、その緑色のウロコには一切の傷が残っていない。それはまさしくヒュドラの超回復能力。

 ようやく残り3本まで削った頭が、また9本に戻ってしまった。


「どうしろってんだこんなの!」

「どうするリーダー、退くか?」

「……ッ」


 それはあまり長い時間ではなかった。このまま戦うか、一旦戻って体勢を立て直すか。急遽このチームのリーダーを押し付けられた男がその判断に迷うのは仕方のないこと。

 だがしかし、この時間は致命的な硬直だった。

 9つの首。その眼が、赤く光る。上から、下から、右から、左から。覗き込むように、見上げるように、舐め回すように。


「――ッ!」


 何人かがそれを見た。見てしまった。

 【プリズム】【目隠し】【即反応】――その3名が、直接見てしまった。

 麻痺する体。動かない。

 そして、ニヤリといやらしく笑うように口をあけるヒュドラ。

 3つの頭。牙。牙。牙。それは確実に、死の形として迫っていた。


 このままでは食われてしまうと誰もが思った。


 だがそうはならなかった。

 カカシだ。

 3体のカカシがそこに割り込み、3人を跳ね飛ばす。そして、身代わりとなった。


「ッ! て、撤退ぃいい!! 動けなくなった奴を置いてくな!!」


 リーダーの判断は適切だった。カカシに突き飛ばされ地面に転がった3名を近くにいた奴が肩に担ぐ。

 カカシをガリゴリと噛み砕く3つの頭。もはや誰もそれに目を向けず、背を向けて逃げる。背中を向けている限り目を合わせることは無い。

 走って戻ってくる前衛達と、後衛組が合流する。シュナイダーと残りのカカシも一緒だ。


「よくやってくれた【人形使い】! 一旦町に引いて体勢を立て直す!」

「了解だ。ローラ、右手の1、右足の1と2を交換してくれ。カカシが3体やられちまったが、まだ予備はあったよな?」

「はい。とはいっても丁度空になりますが……」


 言いつつ、ローラはさっくりと糸を付け替える。


 俺はまだ目をつぶっていた。人形の目を通して、俺はヒュドラが近づいてきていることを目視している。

 かなりの速度。そして、見る分にまだ速度が上がっている。このままでは追いつかれてしまうだろう。


「……しんがりを、俺が務めるべきかな」

「バカを言うな! 一人で犠牲になろうってか!? カッコつけるのもいい加減にしろよ【人形使い】!」

「そうは言ってない。アイディアがある」


 それは簡単な話だ。人形を使って足止めをする。倒すわけじゃない、足止めだけならカカシとシュナイダーのフルメンバーでできるだろう。

 そして、十分に時間を稼いだら、【飛行】持ちに迎えに来てもらい、そのまま空を飛んで逃げるのだ。


「さすがのあいつ(ヒュドラ)も空は飛べそうにないだろ?」

「……」

「足止めできるのは俺だけだ。これが一番生存率が高い選択、違うか?」

「ああ。その通りだ」


 リーダーの今度の決断は、十分早かった。俺は太目の木の陰に座り、シュナイダーとカカシ達に意識を集中する。


「なるべく早く【飛行】持ちをよこしてくれ」

「分かった、だが死ぬなよ」

「ルーカスさん! 私も残ります!」

「ばか言うな。ローラが残ったらその分【飛行】持ちが多く要る。さっさと逃げてくれ」


 少し嬉しかったが、実際ローラが残ってももはや足手まとい以外の何物でもないのだ。


「それより、シュナイダーを犠牲にしちまうかもしれん。すまんな、先に謝っとく」

「いいえ! いいんです、シュナイダーはまた作れます、でも、ルーカスさんは……!」

「リーダー、ローラを頼む」

「分かった。健闘を祈る」

「きゃぁ!? る、ルーカスさん、絶対ですよ、絶対死んじゃダメですからね……!」

「急ぐぞ。1秒でも早くここから俺達が早く離れて【飛行】持ちを送る。それが【人形使い】――ルーカスの生存確率を上げる唯一の手段だ!」

「は、走れます、自分で走れますからっ! ルーカスさん、絶対、絶対また会いましょう……生きて……!」


 ローラは、リーダーに抱えられて、浚われるように連れられて行った。


 と、そうこうしているうちに木を薙ぎ払い移動速度を上げつつあるヒュドラがやってくる。距離は10mくらい。そこで、まずカカシが1体飛び込んだ。


「グギョンッ!?」


 足元に飛び込まれ、移動が止まる。まずはこれでよし。カカシ1体は犠牲になったが、時間稼ぎとしては十二分の成果だ。

 ……そもそも全部を同時に動かして万全に動かしたりもできないからな。数は絞っても……問題ない。


 どくんどくんと自分の心臓の音が聞こえる。緊張してるのか、してるに決まってる。

 下手したら死ぬ――下手しなくても、普通でもダメだ。上手く行かなきゃ死ぬ。


 ……カッコつけすぎたかなぁ。いやまぁ、それでも可愛い女の子を守ってってんだから、男冥利に尽きるってやつなのかもしれない。もちろん、生き延びるに越したことは無いが。


 カカシ7体とシュナイダー2匹でヒュドラに対峙する。頭は9、こちらの人形と同数だ。

 ただし4体のカカシはボロボロでいつ壊れてもおかしくない――訂正。どの人形もヒュドラに噛みつかれたら一撃でお陀仏だ。あまり関係ないな。


「……別に、倒してしまっても構わんのだろう、ってな」


 有名な死亡フラグのセリフを口にして、状況を茶化してみようとするが別段ピンチに変わりない。集中しろ、俺。


 ヒュドラの頭が、9の人形に個別に襲い掛かる。初撃は躱す。全部躱した。追いかけてきたところで2体、カカシが食われた。1体は苦し紛れに目に剣を突き立てることに成功。が、激昂して頭を振り回し、それに巻き込まれてさらに2体のカカシが壊れた。


 残り、カカシ3体。シュナイダー2匹。敵の頭は9。はは、4個足りねぇや。

 頼むから、早く来てくれよ【飛行】持ち……そろそろ漏らすぞ俺は。



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