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032

 8体のカカシ(各指2本分)と2体のシュナイダー(戦闘用シュナイダーが鎧付きで3本分、シュナイダー改が1本分)を同時に起動させ、正面に回り込ませる。

 俺は両手両足の20本の指全てを使っており、糸を絡ませないだけでもかなり集中しなければならない。

 ちなみに足の指に括り付けた糸はズボンを経由して腰のベルトから出ている。


 先行してヒュドラの正面にカカシとシュナイダーを出し、気を引く。


「後ろからなら多少はマシそうだ! かかれ!」

「「「うおぉおおおおおおお!!!!」」」


 側面、後方からは前衛組として集められた冒険者達が一斉に襲い掛かる。

 正面からは俺の操るカカシとシュナイダー。


 俺の人形達にヒュドラは完全に気をとられていたが、雄叫びで気付かれてしまったようだ。が、それも想定内。むしろそれこそ予定通り。


「ほらほらよそ見してていいのかぁ!? とぅ!」


 俺は鎧を纏ったシュナイダーで思いっきり剣を突き刺した。ミルス製の鉄の剣が、シュナイダー(鎧込み)の質量で押し込むことで、緑色のウロコをバキリと割って首元に半分ほど突き刺さる。

 一番槍はシュナイダーがもらったぜ。

 頭が9つ、つまり首も9つあるわけだが、そのうちのひとつをいきなり使用不能にできた。これはデカい。


「ギギョウ! ビィイイイイ!!」


 防犯ブザーを重低音にしたような悲鳴が森に響いた。

 突き刺した剣を残してしゅたっと着地するシュナイダー。

 悲鳴を上げた頭は1つだけ。他の8つのうち、隣り合う2つがシュナイダーを睨み、目を赤くする。その攻撃はシュナイダーには効かない。――が、効いたふりをして、硬直させ、カカシを使って後ろに引っ張り戻す。フェイクだ。これをすることでヒュドラに『石化の視線』を無駄撃ちさせて隙にするのだ。あと、ついでに剣の補充もする。


 これまでのシュナイダーの欠点として、剣を持ちかえることができないというものがあった。しかしこれも過去の話。攻撃を「突き刺す」に限定することで、使い捨てのように剣を交換できるようにしたのだ。

 ミルスが一晩でやってくれました。ありがとうミルス。まぁ戦闘用シュナイダー1体分だけだけど。


「うぉおおお! ぬいぐるみに続けぇ!」

「一番手がぬいぐるみって、しまらねーな!」

「いいから切りつけろっ! ていっ!」


 前衛達がヒュドラの体を切りつける。同じく睨まれるが、こちらはフェイクを挟む余裕もない。むしろ極力頭を見ないようにしているやつが多い。

 闇属性の魔法で目隠しを試みたヤツも居たが、あっさり抵抗(レジスト)されてしまった。代わりに、スキルの【盲目】は頭の1つを目が見えない状態にできた様子だ。


 さらに後衛からも魔法が飛ぶ。火、水、風、土の塊が砲弾のように飛んで、ヒュドラに命中していく。さすがにデカい図体しているだけのことはあり、伏し目がちに撃っても当たるってなもんだ。フレンドリファイアが怖いけど、そこは高めに撃つことでどうにか。

 外れた魔法で火事とかになったとしても、今はコイツにダメージを与える方が重要なのでそれはそれでいいんだが。


 ヒュドラの傷口からは紫色の、毒っぽい血が流れていた。


「こいつの血は猛毒だ! 【毒消し】のスキル持ちも後衛にいるが十分注意してくれ!」

「おうよ、って、うわああっ!?」


 ヒュドラの頭の一つが、毒の血よりもさらに毒々しい紫の液を吐き出す。あからさまな毒液。前衛の一人が思いっきりその毒液をかぶっていた。


「あがっ、あががが……」

「くそっ、ヒュドラの毒ブレスか! こりゃ解毒ポーションじゃ治るまでにかなり時間かかるぞ、誰か後衛まで引っ張っていってやってくれ、【毒消し】スキルが待機してる!」


 と、そいつは後衛の方まで引っ張って行かれた。ブレスといいつつ毒液を痰のようにカーッペッと吐き出しているので予備動作は大きい。しっかり見れれば避けられないほどじゃない。しかし頭が見れないことで対応が遅れてしまう。厄介すぎる。


 まともに見て戦えるのは【麻痺無効】を持ったリーダーと俺の人形達くらいなもので、他は間接的に視界を確保しているためかかなり厳しい。うっかり視界に入ってしまって麻痺させられたらそれまでなので、ビクビク怯えつつ戦っているようなものなのだ。


 それでも、現状でヒュドラと十分渡り合えている。このままいけば、勝てる。そんな手ごたえがあった。



 *


「やった! 首4つ目!」

「っと、危ない! 油断するな!」


 4本目の首を切り裂いた冒険者に向かっていた毒液をリーダーが盾で受ける。


「すまねぇ、恩に着る!」

「これが仕事だ! 大丈夫、この調子で、あと5本だ!」


 ヒュドラの首は残り5つ。シュナイダーが最初に喉元へ剣を突き刺した1本目を含めて、4つの頭は戦闘不能なまでにボロボロだ。

 頭の数が減って、むしろ余裕すら出ていたのではないだろうか。


「う、ぐっ……!」

「リーダー、一旦下がってくれ! 毒の影響が出てる!」

「ッ、わかった、一旦離脱する。聞こえているか【人形使い】! 俺の穴を頼むぞ!」


 はいよ、任せろっと。俺はカカシの腕を上げて応える。あと俺の抜けた穴ってちゃんと言ってほしい。変な風に聞こえるから。


 リーダーが回復のため一旦退く。

 こうなると万全に戦えるのは俺の人形達くらいなもんだ。リーダーが回復のため離脱している間は俺がみんなの盾にならなきゃならん。

 5つの頭から吐き出される毒や噛みつき、振り向きによる体当たりといった攻撃を俺はそろそろ壊れそうなカカシで受け止める。

 リーダーの復帰に合わせて次のカカシの準備もした方がよさそうだ。


 と、シュナイダーに『石化の視線』が使われた。……もうそろそろフェイクはいいか。俺はそのまま正面の頭に剣を突き刺した。


「――――ッ!!」


 ここまで騙していた甲斐もあり、頭をひとつ潰すことに成功。脳天に鉄の剣を突き刺されたヒュドラの頭は、音にならない声で叫び、びく、びくっと震えながら動かなくなった。突き刺したままの剣を残し、シュナイダーは剣の交換に向かう。


 これで5つ、残りは4つ。ついに生存数が逆転したぞ。……っと、カカシで毒液ブレスをカバーだ。

 体全身に毒液がかかるが、カカシなので問題ない――あ、やべ。動けなくなった。どうやら損壊がスキルの限度を超えたらしい。新しいカカシを用意しないと。


「ローラ、左足のカカシ2番がやられた。交換してくれ」

「はい、ルーカスさん」


 俺がそう言うとローラは足指に結ばれている糸――俺のズボンを通って腰のベルトから出ている糸――を切り、そこに別の糸を結びなおしてくれる。補充用のカカシに繋がっている糸だ。


「カカシの在庫はあと3体です」

「結構きついか? まぁいい。とにかくやるだけだ」


 ローラの【裁縫】を有効活用した迅速な交換により、即座におかわりのカカシを前線へ送り込む。糸の付け替えを任せられるのが頼もしすぎる。

 ……ちなみにシュナイダーは『戦闘用』と『改』の2体だけだから消耗しないように気を付けないとな。シュナイダー自体はローラに戦隊が組めるくらい作ってもらっているが、今回は使い慣れたこの2体しか持ってきていない。

 使い潰す前提では持ってこれないからな、シュナイダーは。カカシは別にいいんだが。


 その後、リーダーが【毒消し】スキルの効果で回復し、戦線に復帰。

 駆け付けた勢いのままリーダーが6本目の頭を切り落とした。

 残りの頭は3本になり、このままいけば押し切れる――その、はずだった。



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