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031

「ルーカスに、ヒュドラの討伐に参加してもらいたい」


 ギルド長は改めてそう言った。どうやら聞き間違いじゃなかったらしい。


「おいおい、俺がそんなヒュドラ・バジリスク? の討伐の役に立つと思ってんのか? 自分で言うのもなんだが、この【臆病者】が」

「立つさ。立ちすぎるほどにな」


 と、ギルド長は続けた。


「ルーカス。これは強制ではないので断ってくれて構わない。しかし、お前の【人形使い】であれば『石化の視線』を潜り抜けて対峙することができる」


 えっ、そうなの? 初耳なんだけど。


「バジリスクの『石化の視線』は直接見なければ効果がない。【遠見】でも視界を遠くの位置へ飛ばすタイプであれば麻痺しないからな。ルーカス、お前の【人形使い】であれば問題ないはずだ」

「……なるほど。そういうことか」


 それであれば、確かに俺が討伐作戦に加わる意義がある。


「他にも対策が取れそうなスキル持ちには声をかけてるが、お前1人で複数の、それも『石化の視線』に対応した前衛を確保できる。戦力として使えるのはこの3日間前線で戦っていることからも明らかだ。故に、ルーカス次第でこの作戦の成功率が大きく変わる」


 聞いてるだけでも厄介な敵だ。毒に、麻痺に、多数の頭。

 だが確かに俺の人形なら毒も麻痺も関係ないし、多数の頭にもそれぞれぶつけられる。


「危険ですルーカスさん! 断りましょう!」


 ローラが俺の隣で叫んだ。だがしかし。


「いいぜ、引き受けよう」

「ルーカスさん!?」

「ローラ。どうせキーモンスターを倒さなきゃスタンピードは終わらねぇ。なら、俺が手伝って早く片付けた方がいいに決まってるだろ?」

「それは……確かに、そうです。ですが、ルーカスさんが危険すぎます! 壁の上から人形を動かして、ヒュドラのいる森の中まで向かわせるには遠すぎです! つまり――ルーカスさんも前線の、森へ行くってことなんですよ!?」


 ローラの言う通り、ヒュドラとの戦いでは俺もある程度前線に出ていく必要がある。

 だが、ヒュドラが壁の近くに来るまで待って、というわけにはいかない。そんなことになる状況はもはや被害甚大でこちらの負けと言ってもいいくらいだろう。


「他の後衛と同じように守ってくれるだろ?」

「ああ、もちろんだ。ルーカスの能力は射程もある。後衛組と一緒に行動してもらうことになるだろう」

「ならいいさ。な、むしろ安全なもんだよ」

「……」


 黙るローラを見て、納得してくれたか、と息をつく。が、そうではなかった。


「それなら、私も行きます」

「は? 何言ってんだローラ」

「私はルーカスさんの相棒ですよ! 人形を動かしてる最中の無防備なルーカスさんを誰よりもよく知っているのが私です、私のサポートなしに、人形動かしながら動けるんですか?」


 痛いところを突かれた。確かに、このオッサンの頭じゃ人形を動かすときは基本的に不動にならなきゃならなきゃ頭がこんがらがってそれどころじゃなくなる。

 せいぜいできるのはカカシに荷物を持たせて同行させるくらいで、戦闘なんてもっての外だった。


「分かった。ローラ、君の同行を許可する」

「ぎ、ギルド長……」

「ルーカス。お前が一人で人形を動かしながら戦えないのが悪い」


 うぐぐっ。正論過ぎて言い返せない。オッサンの隠された力が今目覚めて一人でも人形を操り放題になったりしないものか……無理か。


「一応、遺書は書いておけよ。使うかどうかは別としてだ」

「分かりました。ルーカスさん、一緒に生きましょうね」

「……ちっ、分かったよ」


 そうして、会議は終わった。


 決行は翌朝。

 俺達は、一応遺書をしたため、緊張で眠れぬ体を配られた睡眠薬で無理やり寝かしつけた。……俺が死んだら、まぁ、どうすっかねぇ。うーん、財産はミルスとドロシーあたりにでも寄付してやるか。そんな多くないけど。



  *


 そして、決行日だ。


 今日はまず縄梯子を降ろし、前線の陣地を構築。そこからヒュドラ討伐グループを作り、ヒュドラのいる森へ向かう手筈となっている。


「やれやれ、俺の【プリズム】のスキルが曲がり角やタンスの裏を見るとき以外で役に立つ時が来るとはな」

「なぁに。俺の【視点移動】だって負けちゃいないぜ」


 そんな感じで対策重視で選ばれたメンバーの、特に前線側はスキルで見れば戦闘向けかどうか微妙なヤツが多い。

 道中向かうまでの護衛として攻撃力の高いスキルを持ったやつらも同行するが……ヒュドラ・バジリスク相手にはかなり不安が残るからな。仕方がない。

 これがただのバジリスクなら後ろから攻撃もできるが、多数の頭を持つヒュドラである。目を合わせるなというのも一苦労だろう。


 一応鏡を使えば『石化の視線』を回避できるらしいが……バジリスク狩りに慣れてるという【麻痺無効】スキル持ちも一人いるので、こいつには否が応にも期待しちゃうな。


「いくぞ、前進!」


 その【麻痺無効】――ヒュドラ討伐隊リーダーの掛け声に、俺達も続いて歩き出す。


「さ、行きますよルーカスさん」

「おう」


 そうして、スタンピードをかき分けて、俺達は進軍した。

 ゴブリン、コボルト、オーク。そしてたまにオーガ。昨日よりオーガの頻度が上がっている気がする。

 【飛行】スキル持ちの空からの案内を受けて、森の中、結構奥深くまで進んできた。普段俺達がゴブリンやオークを狩っていた場所よりさらに奥。正直、ここまで来るのは初めてだ。

 【モンスター避け】スキル持ちも居たおかげでだいぶ楽できたと思う。あ、こいつは他のところで縄梯子防衛作戦を成功させてた奴らしい。さすがに前線ほど密度が濃すぎると効果は鈍いのだが、無いよりきっとはるかに良い。


「そろそろヒュドラが見える。輸送部隊はここまでだ」

「ああ、音で分かるよ。なにか大きい奴が木をメキメキとかき分けて進んでいる音がするもんな」

「周囲のモンスターはこっちで担当する。ヒュドラは任せた」

「任されたぜ。ま、今日の晩飯は蛇のかば焼きだな。期待しとけ」

「ははは。……ヒュドラもバジリスクも毒抜きしなきゃ食えないぞ?」

「食えるのかよ。冗談のつもりだったんだが」


 そう軽口を交わし、ここまで送ってくれた連中は離れていく。


「【人形使い】、人形を先行させて偵察してもらえるか?」


 スキル名をコードネームのように呼ばれる。急造チームにはその方が分かりやすくていいね。俺もリーダーの名前を急に言われても分からんと思うし。


「一応『石化の視線』が効かないかも確かめておきたいが、接触してもいいか」

「許可する。ただし一応回り込んで接触してくれ」

「了解」


 俺は、目を閉じた。袋に入れていたカカシ――使い捨て用のをぴょこんと起動させ、先行させる。使い捨てといっても、今日のために昨晩ドロシーが作ってくれたカカシだ。今までの指5本分使ってた奴よりはるかに上等でああり、指1本で動かせる。


 前衛部隊よりもさらに前へ向かわせ、緑色のウロコを目視する。


「居たぞ。前方30mってところだ」


 少し回り込ませて、横から――ヒュドラにとっては正面から顔を出し、対峙した。


 蛇。それも大蛇。そして、子供サイズの使い捨てカカシからしてみたらはるか見上げるほどに大きな多頭蛇。持ち上げた9つの鎌首は、周囲の木の高さを若干超えている。

 ……というか、蛇のくせに怪獣みたいな足が生えてやがる。手や翼はさすがにないが。


 森の木に挟まっているのでは? と思わなくもないが、これはなぎ倒して進んできていることが良くわかる。ヒュドラの後ろには、道ができているほどだった。


 カカシとヒュドラの目が合う。

 その瞬間、ぎろり、とドス黒く燃える炎のようにヒュドラの目が赤く光った。可視化された魔力によって目に炎が灯っているかのよう。

 おそらく、これが話に聞いていた『石化の視線』。生物を硬直させるその視線は、しかしながらカカシには通用しなかった。本体である俺自身にも効いている気配はない。


「なるほど。確かに人形越しなら効かんようだ」

「おお! よし、作戦開始だ! 【人形使い】、人形を展開してくれ」

「任せろ」

「こっちに何か飛んできたりしたら私が引っ張りますから、ルーカスさんは全力でお願いします」

「任せた!」


 俺の体に手を添えるローラ。その暖かさを感じつつ目を閉じ、カカシに抱えさせていたシュナイダーや他のカカシを一斉に起動させた。



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