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003


 スキル。それは、この世界で誰もが1つは持つ特別な力。


 神様の贈り物という意味でギフトとも呼ばれているが、目覚めなければ使えない。

 そして、それが目覚めることで人類は進化すると言ってもいい。


 たとえば、【腕力強化】というスキルがある。

 これは、単純に腕力が強くなるスキルだ。で、これがあるとどうなるか。

 まず、スキルを持っていない成人男性……腕が子供の胴くらいある筋肉モリモリマッチョマンを用意しよう。

 そこに【腕力強化】を開花させたか弱そうな女の子を呼んで、ちょっと腕相撲してもらう。

 するとどうしたことだろう、女の子が勝つ、とは言わないまでも、かなりギリギリの戦いをするじゃないか。


 無論、これが両方マッチョで片方に【腕力強化】があればスキル持ちの圧勝である。

 また、スキルには強度も存在し、同じ【腕力強化】でもより強いもの、というのもあるし、自分以外のパーティーメンバーの腕力を強化するような、範囲が広いものもある。


 と、これがスキルの力である。


 スキルは、冒険者として高ランクに行くには必須だ。

 同じ修練をしてもスキルがある方がよっぽど良い結果が出るわけだし、周囲をまとめて能力アップするスキルでもあれば軍の隊長にスカウトされて一生安泰なレベルで有用だ。

 各分野で名を残している有名人は大体スキルとの相性が良い。そういうことである。


 体術や魔法なんかとは違って、訓練しても身につかない力。それがスキルだ。


 ……で、だ。このスキルというのは曲者で、覚醒するまでは何か分からない。

 しかも、一生覚醒しないということもよくあるのだ。

 俺もこの歳になるまで覚醒していなかったので、(なか)ば諦めつつも、それでもやはり諦めきれずに機会があるごとに『鑑定』を頼んでいた――と、記憶が蘇ってきた。


「おうおう聞こえたぜルーカス。やったじゃないか! で、何てスキルだ?」

「親父さんは【俊敏】だったって話だったよな。それか?」

「いやいや、この歳までもったいぶってんだ、もしかしたらその上位の【韋駄天】かもしれねぇぞ!」

「死にかけて目覚めたんなら【防御】とか【自動回復】かもしれねぇな。で、どうなんだルーカス?」


 臨時パーティーの4人が興味深そうにやってきた。

 ……って、そうだ。スキルが覚醒したのはいいが、その内容は――


「――【人形使い】……?」


 んんー?

 ルーカス40年の記憶を掘り起こしても聞いたことの無いスキルだ。

 人形っていうと、アレだよな。女の子がおままごととかで使う、アレ。

 あまりに数が少ないスキルはユニークスキルと呼ばれるわけだが……


「……ええっと、聞いたことないスキルだな」

「あ、過去に1件、このスキルを持っていた人の記録がありました。この数だとユニークスキルと言って間違いないでしょう。えーっと、効果は……」


 ユニークスキル。俺はたらりと汗が垂れるのを感じた。

 ちなみに自分のステータスが『鑑定』しないと分からないように、スキルの使い方も自然とは分からないものだ。

 自動で発動(パッシブ)ならともかく、任意で発動(アクティブ)だと猶更だ。

 そして、数が少ないということはスキルの詳細もほとんど未解明であるということ。

 よほど強力なスキルでなければ使い物にならないだろう……


「えーっと……農家の娘さんがこれでお人形を動かして遊んでいたそうです。発動条件は、『人形に触れていること』、効果は『人形を動かせる』だそうです。あ、人形に触れてるのは糸で結んでもいいそうですよ」


 ……えーっと。つまりこれはあれか。


「……この歳のオッサンにおままごと遊びでもしろってか……?」


 俺はがっくりうなだれた。

 異世界転生して、若さもなく、ステータスも平凡。そして一発逆転を狙えるはずのスキルは子供のお遊びに使える程度のクソスキル。

 これはどんな呪いなのだろうか。前世の記憶を思い返してみても、そんな悪いことした記憶はないのだが。


「ひゃっははは、お前大道芸人になれるぜ、良かったなルーカス! もうくいっぱぐれないぞ!」

「大道芸人になってもたまにはギルドにも顔出してくれよな。おひねりは弾むぜ、懐があったかかったらだけど」

「バッカお前、子守の依頼で引っ張りだこに決まってんじゃねーか……ぷっくくく」

「ま、ま、なんにせよアレだ、おめでとうだな! ルーカスの新しい門出だ……!」

「うるせぇぞてめぇら! くそぉ、なんてこった……」


 俺はがっくりとうなだれた。


「……まぁ、ほらその、今日は奢るからよ。元気出せ。な?」

「そうそう。スキルが無くても冒険者はできるぞ」

「大成はしないけどな」

「俺達みたいにな」


 ちなみにこいつらはそれぞれ【敏捷向上】【運向上】【器用】【大声】と、低レベルながらも冒険者として使えるスキルを持っていたりする。……【大声】は微妙か? いや、戦闘中に合図を出したりする時に有用か。


 俺の【人形使い】は、うん、子守の依頼でもあれば使えるんじゃないかな。ハハハ。


「くそぉ、スキルなんてこの世に無ければ良かったのに……」


 泣きながら、奢りの酒をかっくらう。

 臨時パーティーの4人は、最初はバカにしたけど慰めてくれた。


「そうだ! 依頼とかでよその町に行ったとき、人形劇を見せれば宿代が稼げるぞ!」

「バカッ、お前、それ大道芸人と同じじゃねーか」

「あ、そっか……うーん、なんか使い道ねぇかなぁ」

「泣いてる子供をあやすのに使えるだろ。そして情報収集だ。子供の持ってる情報ってのは案外バカにならないもんだぞ? どーだ」

「情報持ってるのはスラムとかでスレたガキの話だろ。泣いてるようなガキンチョがどんな情報を持ってるもんかねぇ」


 と、そんな風に俺のスキルの使い道を一緒に考えてくれたりした。

 3人よれば文殊の知恵、ならオッサン5人集まればこのクソスキルを生かすアイディアなんていくらでも出るんじゃないか。そんな風に思ったが、残念。ここに居たのは全員頭のまわらない酔っ払いだ。


「だからぁ! 人形をな、んーっと、人形すればいいんだよ!」

「あっはっは、それ最高! 名案だぁ!」

「よかったなぁルーカス! ほら飲め飲め!」

「うぃー、おろろろろ」


 結局、ぐでんぐでんになって、ロクな案が出ることは無かった。





 ……どうやって帰ったか覚えていないが、気付いたら薄いベッドで寝転がっていた。

 ここはどこだ……


「……あー、そっか、俺の部屋だここ……」


 俺が住んでいる集合住宅の一室だった。

 記憶は曖昧でも、体が覚えていたのかな。それとも誰かに送ってもらったのか……同居人や恋人とかは居ないはずだから、たぶん自分で歩いて帰ってきたんだろう。


 はぁ。【人形使い】のスキルで二日酔いが治ったらいいのに。……ま、無理に決まってるけど。


 うぐ! 頭がガンガン痛い。二日酔いだ……。

 とりあえず、水を飲みたい。俺は、ベッドから起きて小さくクシャミすると、洗面所を探して――そういえば前世ならともかく今世にはそれほど上等なモンはなかったことを思い出し、外にある井戸へ向かった。

 この町には上水道なんてない。水が飲みたきゃ井戸か、魔法で出すかだ。魔道具なんてのもあるけど、高いし、動力源の魔石も金がかかる。


 ああ、風呂に入りたい。けど、風呂なんて贅沢だしなぁ。

 前世の記憶で便利な道具作って荒稼ぎできないもんか、と、ポンプ式井戸で水を汲み、顔を洗う。

 そういえば昨日酒を飲んだコップもガラス製だったな……


 この世界、割と技術力あるわ。俺のにわか知識じゃ敵いそうにねぇやコレ。


 俺はこの世界で何ができるんだろうか。……本気で大道芸人にでもなるかねぇ。




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