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 各々の縄梯子防衛作戦は朝日が出る直前に決行された。


「ではいきますよルーカスさん。準備は良いですか?」

「ああ」


 補助として付いた魔術師に、俺は頷く。


「……ウィンドブラスト!」

「ていっ」


 魔法によって空いたスペースに、俺は壁の上からシュナイダー2体を落とす。さらにカカシを糸で吊るしながら降ろし、シュナイダーが体で受け止める。その時間、わずか10秒。

 そしてカカシを起動し、半円状に配置。少しずつ、人が下りられるくらいのスペースを確保する。


「OKだ! ローラ、縄梯子!」

「はいっ!」


 すぐさまそこにローラが縄梯子を投げる。先にクッキーズを結び付けて、縄梯子自体も俺の「糸」として強化した代物だ。気休めよりはマシな程度には頑丈になるだろう。実際、火の玉に耐えられるレベルにはなっている。

 縄梯子に向かって飛んでくるファイアボールは【軽業】スキルを持った奴が盾ではじいて防ぐ段取りにはなっているが、それでも防御力が高いに越したことは無い。


 縄梯子を降ろしたことは即座にコボルトやゴブリンに察知されたらしく、すぐさま寄ってくる。そもそも魔法で蹴散らした穴が埋まっただけなのかもしれないが――


「ったく、まだ薄暗いってのに元気な奴らだなぁ」


 俺はシュナイダーとカカシを操り、ゴブリンやコボルトを蹴散らした。

 さらに30秒。俺がしっかりと縄梯子を防衛できていることを確認したところで成功の合図を出す。

 壁の上で待機していた降下部隊が、俺達が降ろした縄梯子を伝って壁の外へ降りて行った。


 こうなれば、ここからはもう冒険者の戦いである。

 自ら前線で戦おうと志願しただけあって、彼らは冒険者の中でも近接で戦うことを前提とした戦闘のプロ達。ゴブリンやコボルトなぞ、鎧袖一触で倒せる連中なのだ。

 むしろ弓矢でしか攻撃させてもらえなかった鬱憤が溜まっていたのか、生き生きと死体の山を築いていく。


「まとめて吹っ飛びやがれー! 【貫通】パァアアンンチ!」

「ひゃっはぁああ! 汚物は消毒だー! 【火剣】!」

「この距離なら弓矢が無くても攻撃できらぁ! 【健脚】の蹴りを食らいやがれぇぇ!」


 そしてこのスキルを駆使して暴れまわる冒険者集団により、あっという間に付近を制圧。

 これにより見事陣地を構築し、俺達の区画は大成功という結果になった。

 俺は前線の維持を冒険者達に任せ、シュナイダー達を縄梯子前に待機させて休む。


 前線に息をつける場所があるというのは、継戦能力を高める。最初に突撃した冒険者達も、第2陣と交代して一緒に休んでいた。

 ドロシー謹製カカシの顔がリアルな木像だったので驚かれたりもしたが、まぁ些細なことだ。ぬいぐるみと肩を並べて戦うのに微妙な顔してた奴もいたが、それも些細なこと。


「おお、やりましたねルーカスさん。お見事です!」

「ああミゲルか。他はどうなってる?」


 激戦区の森に面した壁――ここ含む――では3ヵ所で縄梯子作戦が行われていた。


「1ヶ所は失敗しました」

「俺らは成功してよかったな」

「まったくです。中央とか一番難しいところなのによく成功しましたね」


 マジかよ。そんな難しいところ引き受けさせられてたのか。


「ルーカスさんの作戦なら失敗しても人的被害出ないじゃないですか。だから半分ダメ元でしたが、成功してよかったです」

「お、おう。俺も成功してよかったよ」

「ちなみに成功したもう1ヶ所は冒険者部隊がロープで下りて縄梯子を防衛したらしいので、ここの真似みたなもんですね」


 しかもこれ、ローラの発案を受けて考案された作戦らしい。……ローラは案外こういう作戦を考える才能があるのかもしれないな。

 ミゲルは壁の外で陣地を構築している部隊に声をかける。


「おーい、あっちの方に【結界】持ちが取り残されてるんで、すこーしずつ移動して救出に向かってくださーい」

「何ぃー! 結界で敵をはじいて縄梯子を守る作戦だっただろ!? 失敗したのか!」

「降りるのは成功したんですけどねー、結界ごとゴブリンに埋まりました。本人は半日は持つって言ってたので慌てなくてもいいですが、なるべく急いであげてくださーい」


 なるほど、失敗してた最後の1ヶ所はゴブリンに埋まったのか。さもありなん。


 ちなみに激戦区以外では肉を投げつけてそちらに気をとられている隙に陣地を作る、とかいう作戦でも成功したので、そちら方面からも援軍が向かうとのことだ。一番近いのはここだが、他から回り込んだ方が早いかもしれない。


 っと、縄梯子めがけて火の玉も飛んできてるな。しっしっ。


「よぉーし! 足場になっちまいそうなやつを片っ端から片付けるぞ! 【解体】!」

「素材の運搬は任せろー! 袋に詰め込んで……【打ち上げ】!」

「よーし、素材が壁の上まで来たらこっちで受け取るぞ。【回収】!」

「骨や牙は鍛冶屋に持ってくぜー! 【俊敏】!」


 壁の前に積み重なっていた死体をスキル持ち達が片付けていく。しかもこれが再利用されて新たな矢になると。

 なんて頼もしい奴らだ、これでまだまだ戦えるってなもんよ。


「矢の材料……うん、今頃ミルスさんも大忙しでしょうね」

「あいつはあいつで戦ってる、ってこったな」


 会話をしつつ、ローラも牙や骨を使って簡素な矢を作っていた。手の速さから察するに【裁縫】スキルを使ってるなこれ。やりおる。


 俺も、あまり負担にならない程度にシュナイダーとカカシで雑魚を片付ける戦列に加わる。シュナイダーやカカシは、スキルを使わない冒険者程度には戦える。操る糸がこんがらがらないよう配慮する必要はあったが、十分に戦力となった。



 そこから日が沈むまで前線を維持。多少の怪我人は出たものの、十分な戦果を挙げることができた。



 半日分以上の矢と、死骸処理用の油を節約。【結界】持ちの奴も救出。

 死亡者ゼロ。これが何よりも一番素晴らしい戦果だ。


 素材まで回収して縄梯子を使って戻ってくる冒険者達。そのしんがりを務めるのはもちろんシュナイダーだ。最後は縄梯子と一緒に糸をぐいっと引っ張り、全員回収することができた。

 もっとも、しんがりを受け持っただけあってシュナイダーは結構引っかかれてしまったが――


「シュナイダー! 今治してあげますからねっ!」

「お、おう。シュナイダーを頼んだぞローラ」

「任せてください! 3秒で治しま……した!」

「早っ!」


 ――ローラの【裁縫】スキルによって全回復、問題なし。カカシは、まぁ、壊れるの前提なところがあるので傷があっても良いとしよう。


 ……ちなみにこのあと、降下に成功していたもう1ヶ所の縄梯子の方に駆り出されてこちらもしんがりを受け持つことになったが、まぁうん。降りるのは良かったけど上がるときのこと考えてなかったとかバカじゃねぇの。

 え? 本来は【飛行】持ちがしんがりを務めるはずだったけど【飛行】は他で使うから代わりに俺が呼ばれた? あ、そう。まぁいいけどね。俺が働いた分、有用な【飛行】持ちが他で働けるってんだから、貢献度的には高いだろ……


 ともあれこれでスタンピードを2日間乗り切ったことになる。

 50年前にスタンピードが発生した際には4日間で収まったという話を聞いたが――本当に4日で終わるのか、その保証は全くないといっていい。


 スタンピード、はたしていつまで続くのだろうか。



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