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 ミルスの鍛冶屋にオーク肉を差し入れに行き、バッチリ今日もご馳走になったところでギルドで聞いたことについて話した。


「と、いうわけでスタンピードが発生しそうなんだと」

「あー、ルーカスさんのとこにも話いったんだ? まぁ当然だよね」

「……その口ぶりだとミルスはとっくに知ってたっぽいな?」

「当たり前よ。こちとらこの町の鍛冶屋だよ? むしろアタシに真っ先に声かけないでどうすんのって話よ」


 そうか、冒険者以上に町に居を構えている職人なんかは逃げるとかそういう話ではないもんな。むしろ商人とかにも積極的に物資を仕入れてもらわないとスタンピードへの対策もできやしない。


「むしろ最初に気付いたのはアタシ達鍛冶屋なんじゃないかな。こう、武器の損耗とか? そういう間接的な情報をつなぎ合わせた天才的分析力というか? そういうのが鍛冶屋ってもんだからね!」

「あーはいはい。まぁそれはさておき、だ」


 とりあえず頼みたいことを頼んでしまおう。折角ローラとドロシー、それにミルスまで揃っているわけだし。


「戦える人形の予備が欲しい。たぶん俺は外壁の上から【人形使い】のスキルでモンスターを倒しに行く、そういう役回りになるだろうって話だった。やたら長い糸とかも欲しいところだな」

「その長い糸の調達さえ何とかなったらどうにかなるんじゃないかしらね。壁の高さは10mとして……そっから余裕を持って戦いに行くなら50mくらいは欲しいところ?」

「1つの人形で糸が1巻必要になりそうですね。結構しますよ? 具体的には……」


 うぐ……糸って地味に高いんだなぁ。だが背に腹は着せられん。


「……調達しといてくれローラ。金は、貯金を少し切り崩す」

「命の方が大事ですからね、賢明な判断かと。……私も少しは出しますから、シュナイダーのは特に丈夫な糸にしましょうね!」


 にっこり笑うローラ。うん、まぁ少しカッコ悪いが出してもらえるのはありがたい。


「私はルーカスさんのパーティーメンバーなんですから、シュナイダーの分のお金を出すのは当たり前じゃないですか」

「……別に、俺の貯金を切り崩せば出せないわけじゃないんだぞ?」

「報酬はいつも等分なんですからいいじゃないですかこういう時くらい。そもそも戦闘はほとんどルーカスさんな上に、私は親と暮らしてるのでだいぶ余裕あるって言ってるのに……」


 まぁ、そんなら大人しく出してもらおう。


「ん? ちょっとまって。その、スタンピードってことは私の村とかはどうなるの? モロに森の中なんだけど」

「そういえばそうですね。大丈夫なんですか?」


 ドロシーのふとした疑問にローラが聞き返すと、ドロシーは目をつぶって少し考えた。


「……うわ、不安になってきた。まぁお父さんが居るから籠もっておけば何とかなると思うけど。土の壁だし、囲まれてもそこから杭みたく出せるし。他の人も魔法使えるから大丈夫、よね? ルーカスさん」

「いや、俺に聞くなよ。心配なら一度村に帰ったらどうだ?」

「まぁ大丈夫なんじゃない? ギルドに連絡とれる村長っていうならアタシ達職人と同じくらい早くに連絡もらってるでしょ。で、万一に備えてドロシーちゃんに『避難しとけ』ってことで町に向かわせたんだし今頃準備も万端だと思うよ」


 と、ミルスは言うが。それって万一があったらヤバいということでもあるんだよな。


「そうよね! お父さんならきっと大丈夫、たぶん」


 ドロシーもそれに薄々気付いているのか、微妙に元気がなかった。


「ともかく、今はルーカスさんとローラの準備を万全にしておこうか、ねっ」

「……そだね、ミルスさん。私もじゃんじゃんカカシ作っちゃうわよ!」


 ミルスがたき付けてローラは元気に返事をした。

 気落ちしていてもスタンピードが発生することに変わりはない。それなら体を動かしていた方が建設的というものだ。空元気でも、今はそれで十分だろう。


「……ま、死なないようにがんばらないとな」

「ええ、今回の戦いではシュナイダーが死ぬかもしれませんからね……まぁ何度でも復活させますけど。予備パーツを丸々1体分用意しておきますし」


 シュナイダーが死ぬかもとか復活とか、蘇生魔法の使い手みたいなことを言うローラに苦笑を隠しえない。尚、この世界において死者蘇生の奇跡といったモノはない。死んだらそれまでだ。

 それこそ、ぬいぐるみのシュナイダーでもなければ復活はできないだろう。


 そう考えると、『あれ、【人形使い】ってやっぱり使えるスキルだよな? 死なない兵士を動かせるってことなんだし』とか思えてくる。まぁ、その兵士はシュナイダーとかカカシなんだけど。


「私は冒険者登録してないから後方支援ってことでがんばるわ。主にカカシ。投下用カカシ……腕が鳴るわね! ミルスさん、廃棄寸前の剣とか使っていい? カカシなら多少折れてても結んどけば大丈夫だし。少しなら土魔法で直せるし」

「いいよ、カカシの代金はルーカスさんにつけとくから」


 ……いやまぁ、カカシは俺が使うわけで俺の金で作るのは間違ってないけど、そう言われるとなんかちょっと引っかかるよね? もう少し言い方というものをだねミルス君。


「アタシもアタシで他の冒険者パーティーの装備を手入れしたり、矢の納品とかしないといけないから、カカシについては手伝えないけど……ま、好きにやっちゃって」

「あ、私矢じりの加工は手伝えると思うけど?」

「あー、うん、まぁ消耗品だし、今回は数の方が大事か。うん、手伝って」


 ドロシーは金属を土魔法で加工できるようなので、質はともかく数を用意するならむしろミルスが一つ一つ手作りするよりよほど早いらしい。エルフの魔法ってホント便利だよなぁ……


「そうだローラちゃん、シュナイダーもいいけど自分の弓矢も調整しておかなきゃダメだよ? あとで見といてあげるから」

「はい、お願いします。シュナイダー用装備もついでに」

「んー、まぁルーカスさんの装備だし優先してやってあげよう。ルーカスさんは感謝してアクセサリーでもプレゼントしてくれていいのよ? をほほ」

「はっはっは、気が向いたらな」


 わいわいと、まるで祭りの準備をするような、そんな盛り上がり。

 実際に行われるのは物騒かつ血みどろで暴力的なスタンピードに対抗するための、殺し合いの準備なんだが……まぁ、嫌々やるよりはいい結果になるだろうよ。


 ともあれ、俺達はこうしてスタンピードに備えるのであった。

 これでスタンピードが来なかったら……まぁ、それはそれで良いんだけどな。


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