025
今日もオーク肉をゲットだ。が、ひとつ問題があった。
「買い取り金額安くなってないか?」
「あー、まぁ、そこは仕方ないんですよ。オーク肉ダブついてるのでギルドとしても高く売れなくて……と、討伐報酬は据え置きですから!」
「うぐ、そうか。ま、まぁそんなら仕方ない。ゴブリンの討伐報酬でカバーしてるし収入的にはトントンか」
需要と供給の問題だろう。どうにも最近オーク肉の持ち込みが増えてるらしく、値段が下がっているのだ。
それなのにいちギルド職員であるミゲルになんだかんだつっかかっても仕方ない。無い袖は振れないのだ。
ただし討伐報酬は国から出るので据え置き、というのがせめてもの救いだった。
「皆が皆ルーカスさんみたく物わかり良くしてくれるとありがたいんですけどね……」
「あー、まぁアレだ。がんばってくれ?」
「はい……」
冒険者は普通に職に就けなかった奴がなし崩し的になる場合も多いので、結果として頭が回らない奴が多い。そういうやつが「なんで安いんだよ!」とイチャモンを付けてくるのだろう。需要と供給と市場価格の関係を理解できてないんだろうな。ミゲルも苦労がにじみ出ていた。
「というか、なんか不穏な感じじゃねぇか? オークが多く納品されてきてるってのは、それだけオークが出てるってことだろ?」
「ええ、ゴブリンの討伐数もだいぶ上がってます。一転してウルフは普段より少ないくらいで、これは」
「モンスターが増えてる、と、そういうこったな」
「はい」
ミゲルが頷く。
「……なにかよくないことが起きようって感じ、だよな?」
「ええ。気を付けてくださいねルーカスさん」
「ああ。俺ぁ【臆病者】だからな。そこらへんは慎重にやらせてもらうさ」
と、いつもから少し減った報酬と、いつもの肉ブロックが出てきた。ここからローラの分を取り除いてーっと。
「あー……とりあえず金は貯金と受け取り分……うーん、今回は貯金分減らして受け取り分はそのままにしとくか。というわけでこんだけ貯金で」
「はい、承りましたー」
そこからいくらかを貯金に回す。
うーん、貯金もたまってきたなぁ。というか、前世の記憶がよみがえった時、俺の貯金はほぼ空だった。
マジで今世の俺なにやってんの? とか思ったけど、こうして稼げるようになって分かる。底辺冒険者ってマジで金貯まらん、日銭稼ぐのでいっぱいいっぱいだ。
冒険者としてちゃんと生活するには討伐報酬が無きゃやってられない。よくまぁ今世の俺は40歳になるまで長年続けられたもんだ……
……うん、そりゃ彼女も作れるわけねぇよな。
「……はぁ、ほんと、スキル目覚めて良かったよ。人生変わったっての」
「そういう人は多いですからね。ええ」
もし前世の記憶が蘇って、同時にスキルが目覚めてなかったら……うん、きっと体を張って討伐依頼に出てたかな。現代知識チートでどうこう、とか、罠で戦うぞー、とか。
スキルのおかげで飯やポーションにも前より気軽に金を出せるようになったからなぁ。ホント良かった。
「そうだ、ポーション買い足しとくかね、今のとこ使ってないけど」
「……マナポーションとかいかがです? ルーカスさんなら小分けにちまちま飲んでも効果あると思いますよ」
「……もらっとくわ、うん」
あ、こりゃやっぱ俺が魔法使ってオーク倒してるのバレてるな。ま、魔法自体はありふれてるから当然か。
俺は手持ちの金から銀貨1枚を支払い、マナポーションを購入した。
なんか一端の冒険者になったなぁって感じがして、ちょっと嬉しかったのはここだけの秘密だ。
「でもほんと、繰り返しになりますけど気を付けてくださいよ。50年くらい前にも急にモンスターが増える事態があったそうで、その時はそのままスタンピードになっちゃったらしいですし」
「50年前って、俺が生まれるより前だなぁ……って、スタンピードってのはなんだ?」
「え、ルーカスさんあれですよあれ。ほら、緊急依頼対象のヤツです」
緊急依頼。あー、そういえば冒険者になるときにそういう話があった気がする。
町の存続にかかわる事態で、強制的に冒険者が招集されるっていうアレだ。
で。スタンピードはモンスターが氾濫した川のように押し寄せてくる災害だった。
「細かい原因は不明。偉い学者サマ曰く、マナの噴火によるモンスター増殖とか何とか、らしいんですけどね」
それだけじゃ説明ができない点として、モンスター共が共食い等をせずに襲い掛かってくるというのがあるそうな。つまりゴブリンもオークもオーガも、おててつないで仲良く町に襲い掛かってくる。
狙う対象は魔石の無いモンスター以外の動物――つまり人間の町などは格好の獲物ってわけだ。どうやって嗅ぎつけてるのかはしらないけど、まぁ、襲ってくる。
「なぁ、マジでスタンピードになるのか?」
「まぁ、その時は働きましょう! むしろ稼ぎ時だと思ってください、そのための外壁、そのための討伐報酬です」
「……うん。マナポーションもう1本もらっとくわ」
「まいどー」
こうしてギルド員のミゲルが噂を流しているってことは、こりゃまず間違いなく起きるんだろうなぁ。たぶん8~9割くらいの確率で。
ローラにも言って、今のうちにしっかり備えておかねば……
「たぶん、ルーカスさんは城壁の上からお得意の【人形使い】戦法で戦ってもらうことになるんじゃないかなと思いますんで」
「……そりゃどうも。ご期待に添えるように準備だけは怠らないでおくよ」
「是非是非。あ、でもあんまり広めないでくださいね? まだ一応未確定なんで」
あらかじめ逃げそうにない信頼のおける冒険者に情報を流しておくことで、各々に準備させる狙いだろう。この段階で話が来たってことは、俺も多少はギルドから防衛力として信頼されてきてるってことだ。
ローラやドロシーに、クッキーズやカカシの在庫をたっぷり用意してもらおうかな。討伐報酬を見込んで後払いでどうにか。いやまぁ、前払いできる分は払うけど。
……あ、いや。今のうちに森の中とかにクッキーズ仕込んで監視カメラみたく使えるようにしておくべきか?
「なぁ、俺の人形を森に設置しておくのはどうだろう。情報収集に役立つんじゃないかな」
「ああ、それなら大丈夫ですよ。【飛行】や【索敵】、【遠見】といったスキルを持った方が見回りしてくださってますから」
「あ、そ、そうか。うん、そうだよな」
「あっ、いや決してルーカスさんが役に立たないとかいうわけじゃなくてですね、適材適所というかっ」
ミゲルに気を使われてしまった。でもそりゃそうだよな、俺なんかよりよっぽど敵を探すのに向いてるスキルを持ってるヤツがいるに決まってる。
良くわからない【人形使い】に頼むより、実績と信頼のある他の有名スキルに頼んだ方が安心安全だもんな。誰だってそうする、俺だってそうする。
いいんだよ、どうせ【人形使い】にできることなんてたかがしれてるんだからなっ!
いろいろできるけどっ!
ぐすん。