024
で、ミルスのところで昼飯をご馳走になった。
やはりミルス、オークカツとか天才か。あるいはこいつもやはり転生者なのかもしれない。
「こういう料理ってどこで覚えたんだ?」
「普通にレシピみて覚えたのよ。アタシ、普通に家の料理担当だったからね」
かなり昔、イシダカって料理人が考案したイシダカレシピ集とかも売ってるんだとか。
なるほどそいつは転生者だな。間違いない。
「……ところでなんでまだドロシーさんは居るんですか? 村の方に帰らなくても良いんですか?」
「えー、いやまぁ、いいじゃないの。最近コボルトだけじゃなくてオークも増えてきたとかで、お父さんから町に避難しとけって言われてるの」
村の方は土壁でしっかり固めてあるから大丈夫とのことらしいが、念のためとのことだ。
「で、ルーカスさんのカカシのメンテと合わせてここで居候、もとい住み込みのバイトしてるわけ」
「ミルスはいいのか、それで」
「うん。むしろありがたいわ。ドロシーちゃんは土属性の魔法使いだからね。金属って元々『土』でしょ? 壊れた剣とか鎧とかの金属部分をまとめてインゴットにできたりして、重宝してるわ。最近壊れた武器の買い取りや修理が多いから特にねぇ」
「いやぁルーカスさんを訪ねて思いがけないいい出会いだったわ……おかげで宿代が丸儲けよ」
ふぅむ。まぁいいならいいけど。
「というか、なんだかんだ言ってルーカスさんもアタシの料理食べに通ってるようなもんじゃない。もうこれは通い妻……いや、通い夫?」
「……ちゃんと食材は提供してる」
「オーク肉ばっかりじゃないの。ま、余ったのも燻製や干し肉にしてるけど」
「美味しいわよねオーク。ミルスさんの作った酢オークとか大好き、今日の晩御飯に所望する」
「オッケー、了解よドロシーちゃん。あとでニンジンとピーマン買ってきてね、タマネギはあるから」
エルフなのにオーク食うんだ……とか思うのは俺に前世の記憶があるからだろう。逆じゃね? とか、ただし性的な意味で、とか、そういうのは置いておく。
エルフがベジタリアンとか幻想もいいところだ。やつらは基本的に狩猟民族だぞ、弓使うし。
あと普通に野菜は日本のと同じ呼び名で似たものが存在する……これも転生者の仕業に違いない。そういうの選んで畑に植えたのだろう。もちろんこの世界ならではのご当地野菜達もあるけどな。
「ピーマンは苦いから嫌いなんだけどー」
「好き嫌いしてると大きくなれないよドロシーちゃん」
「……ミルスさんに言われても説得力がないなぁ!」
ミルスが小さいのはドワーフ特有のだからそれは言わないでやろうや、な。え? 身長とかじゃなくて胸の話? ……それも言ってやるなよ。ていうかお前ら男の前でそういうの……
……え、もしかして俺男として見られてないの? お、俺だって男なんだぞ!? むしろオッサンなんだから一番ドストライクにセクハラ訴えられるところなんだけども!?
「で、明日も狩りに行くの? オーク」
ミルスが急に真面目な顔して俺に聞いてきた。
「ああ、まぁな。このところ毎日狩れてて美味い獲物だし」
「ふぅん……ま、気を付けてね。最近どうにもきな臭いというか、武器の修理とかが増えてる感じだからさ。たぶんモンスターの数自体が増えてんだと思う」
「……ならなおさら狩っておかないとじゃないか?」
「そうだね。だから気を付けてねってだけ。いちお、友達として心配してるからさ」
「ふむ。……ま、気を付けておこう。友達の忠告は聞いておくもんだ」
……なんかこのやり取り、フラグっぽいな。
*
で、翌日の狩りで早速フラグを回収、というわけではないのだが――
「なんかゴブリン多くねぇか?」
「ですね。今日はもう2グループ倒してます」
というか、オークの方に偵察に行かせたモドキ君もそこでオークと戯れる(蹂躙されるともいう)ゴブリン君を見つけたくらいだ。普段、ゴブリンはこのあたりにそんな居ないというのに。
モンスター同士で仲間割れか? と一瞬思ったけど、別にゲームみたく魔王軍の仲間同士とかいうわけじゃないんだから、違う種族が出会ったらそこで争いが起きてもおかしくないんだよな、うん。特にオークとゴブリンは雑食だからお互い食い合う仲だもんな。
逆に仲良くしてたらおかしいわけで。
「あ、ルーカスさん。あっちみえます? たぶんモドキ君からみて少し左……」
「うん? 何かあったのか?」
「いや、なんか……オーガっぽいのが見えたような気がしまして」
オーガってのは、頭に小さい角が生えた毛のないゴリラみたいなやつだ。
強さ的にはオークより少し上。オーガ1匹とオーク1匹ならオーガが勝ち、オークが2匹ならオークが勝つ。そんな力関係だ。
「げ、マジだ。オーガかぁ……一応オークと同じように対処はできるだろうけど、なんか今日は嫌な予感がするんだよなぁ。変なことはしたくないが……どうする? 釣れるか試すか? ローラが決めていいぞ」
「あ、あっちに別の冒険者パーティーいますよ。このままいくとオーガとぶつかるんじゃ……」
「む、モドキ君からみたら斜め後ろか。ふむふむ」
見ると、確かに皮鎧装備の4人パーティーがオーガに向かって歩いていた。むしろオーガを狙っているんじゃないかなこれは。おそらく討伐依頼を受けたんだろう。
「ふーむ。大丈夫そうだ。というか邪魔しちゃ悪いし手は出さないでおこう。……他のパーティーの戦闘を見学できるいい機会だ。見とこうぜ」
「それがいいと思います。そうしましょう」
しばらく見ていると、4人パーティーの連中はオーガ相手に危なげなく勝利してみせた。
まぁ1人1人がオークを倒せる一人前の冒険者だったとして、それが4人。オーク2匹よりよっぽど強いパーティーがオーガに負けるはずもなかった。
しいて言えば、途中でゴブリンが乱入してきて少し片付けるのに時間がかかっていたってくらいか。……下手に俺達で対処しようとしてたら危なかったかな?
彼らはオーガの討伐証明部位である耳と角のセットを回収し、次の獲物を探しに森の奥へ向かっていった。
「……体は持ち帰ったりしないんですかね」
「オーガは完全に肉食。肉は不味くて食べられたもんじゃないらしいぞ。骨は棍棒とかの素材になるかもしれんが、魔法やスキルが関係しないなら鉄の方が優秀だそうだ」
冒険者的には不味い敵というわけだ。もしゲームだったらきっと経験値はそこそこあるんだろうな。強敵っぽいし。
「ま、肉はウルフとかゴブリンとかが片付けてくれるさ」
「そういえばこの森ウルフも出るんですよね……シュナイダーの方が強いことを証明すべきでしょうか?」
「それなら前に二足歩行する犬であるコボルトを倒しただろ。シュナイダーの方が上だよ」
「えっ、そうですか? えへへ、いやぁ私もそうだと思ってたんですよ」
やっぱり犬系には対抗心が燃えるのだろうか。猫だし。
まぁその後、1匹だけで歩いていたオークを狩って、問題なく今日も狩りを終えることができた。
……にしても、やっぱりゴブリン多かったなぁ、今日。