023
「はいルーカスさん。クッキーズのお代わりできましたよ」
「おう、サンキュ。やっぱり俺が作るよりローラが作った方が早いし使い勝手もいいしで最高なんだよな」
「ふふ、それほどでもないです。もっと頼ってくれていいんですよ? 戦闘はルーカスさん頼りなんですから」
あれからミルスとの実験を経て【人形使い】のスキルも使い勝手が向上している。
具体的に言うと、人形の完成度が動かしやすさに影響することが分かった。
特に人形を通じて魔法を発動する場合。これは間違いなく俺がえっちらおっちら作るより、ローラがしゅばばっと作った方が強い。むしろ普通に魔法を使うよりちょっとブーストされているほどに強い。
で、前に切り札にするーとか言ってた一寸法師アタック。あれがハマった。
クッキーズ経由でも当然魔法は発動するので、こいつを口の中に放り込んでやってあとはボンッってするだけで大ダメージだ。
しかもクッキーズは体に針を仕込むことで噛み砕こうとしても大ダメージ、噛み砕かなくても口内で暴れまわってずたずたに引っ掻き回すという、恐怖のクッキー人形が誕生した。
分厚い脂肪の鎧を身にまとったオークも、口の中から頭の中に魔法攻撃を食らわせたら弱かった。さらに言えば、クッキーズの体に仕込んだ針の爪で口内から喉に向けてずたずたに切り裂いてやれば、これまた大ダメージだ。
手順は簡単。まずオークの顔めがけてクッキーズを投下する。
オークはこれを思わずぱくっと食べてしまう。
後は魔法でボンッ、とすれば、倒せなくともかなりの大ダメージを与えられる。
んで、倒し切れなかったときは、シュナイダーがトドメを刺す。
と、オーク1体ずつならこれで安定して狩れるようになったのだ。
まぁ、木の枝からオークの口にダイレクトジャンプ決められるように練習したり、鼻に着地したら口に潜り込めるようにクッキーズをちょっと改良したり、クッキーズにオークが好むニオイを付けたりと工夫はしたけどな。あ、何のニオイかは秘密らしいのでよく知らん。ローラに聞いてくれ。
そんなわけで一寸法師アタックは切り札どころかもはやメイン兵装のひとつ。
まぁ、面倒なんで魔法の件は相変わらず報告してないけどな。でもどうせギルドの方も持ち込んでる死体でこっちが何やってるか見当くらいはついてるだろ。
ちなみにこの一寸法師アタックに使ったクッキーズはほとんど使い捨てになるのだが……【裁縫】スキル持ちのローラのにかかれば10分もかからず1体作れる。
針に気を付けて洗濯するより新しく作った方が早いし、安いクッキーズはオークなんて狩った日には余裕で元が取れすぎるわけで。そう論理的に考えた結果、ローラにはクッキーズの量産をしてもらっていた。
そんなこんなで、俺とローラのパーティーはすっかり軌道に乗っていた。
なにせ安定してオークを狩れるわけだから、ゴブリンに拘る必要もない。
かといって俺達はオークを求めて森の奥に入り込んで余計な被害を受けることもない。
これにはぬいぐるみ系とは別、俺のもうひとつの手札が活躍していた。そう、カカシ系だ。
ドロシーとミルスの協力のもと、とても軽装の、シュナイダーに対するクッキーズに相当するカカシモドキ君の開発に成功した。通称はモドキ君。
作り方は簡単。そこらで拾った木の枝を十字に組んで胴体とし、そこにロープで手足に相当するパーツを括り付ける。なんならひざ関節とか木の皮だけのこしてペキッと折っちゃったものでもいい。
それに古着の子供服(ニオイがついているので鼻の良いオークは結構気付く)のハギレに顔を描いてくっつければ完成だ。
このモドキ君、完成度が低いから魔法効率は最悪だし動かすのも面倒なくせに、ある程度満足に動かすのに指5本分のパワーを使う必要がある。
が、モドキ君の何がいいかというと、そのコストパフォーマンスに他ならない。森なので木はそこらにある。その辺の枝で作れるから、使い捨てしても心が痛まない点が最高だ。環境にも優しい。糸やハギレも木綿だしな。
モドキ君を囮にして、オークが出るかでないかのギリギリのところまで行かせる。
オーク1匹だけと遭遇したならわざと音を立てて逃げ、こちらまでおびき寄せる。
対処できそうにない数が居たら、さらに奥とか人気のない方へ逃げ、ばらけて1匹ずつになったらこちらに向かわせる。
で、失敗したらモドキ君を放棄するだけ。
こうすることで安全にオークを1匹ずつ処理できるのだ。はーいクッキーズお食べ。ぼーん。どさ。まだ息があったらシュナイダーでぐさぐさ。以上。
「いやぁ、たまりませんなぁローラさんや。今日もおかげさまでオーク肉ゲットですぜ」
「今日もお肉食べ放題ですねルーカスさん! 毎日の食卓に赤の彩がたまりません」
「まぁ焼けば茶色になるんだけどね。肉」
ゴブリンに壊されないように隠しておいた台車にオークを乗せ、町に帰還する。
尚、オークを台車に乗せるのも台車を引くのもカカシの役だ。
「お、今日もオーク狩ったのか。【臆病者】のルーカスも、もうすっかり一端の冒険者になったなぁ」
「はっはっは、もういい加減【臆病者】の称号は返上したいところだがね?」
「ルーカスは安全な木の上に隠れて、ローラちゃんの作った人形に戦わせてるんだろう? さすがにそれは虫が良すぎやしないか」
「……ぐぅの音も出ねぇや。はっはっは」
門番との気楽なやり取りをして、ギルドへ向かう。
カカシに台車を引かせて俺とローラ(と、ついでにシュナイダー)はオークの腹の上に座っているわけだが、もうすっかりこの光景も日常だ。最初のころは興味津々な顔したガキ共が群がってきて大変だった。
「あらローラちゃん。今日もルーカスさんとお出かけ?」
「あ。おばさん。はい、オークの討伐依頼で森まで」
カカシに引かせて楽しているとはいえ、馬車のように早くはない。普通に人の歩く速度と変わらない。
なのでローラはローラで知り合いとのんびり会話する余裕もあるわけだ。俺はカカシを動かす御者みたいなもんだからしないけどな。人通りのある町中でのよそ見運転は危険なのだ。
「ふふふ、仲がいいのねぇ。で、いつ寿引退するの?」
「ち、違いますっ、パーティーメンバーですから! 一緒に行動するのは当たり前でっ」
「はいはい、分かってるわよ。うふふふふ」
そう言ってローラをからかい、ご婦人は去って行った。……うん? おばさんとか言わないのかって? ローラみたいな若い子が言うならともかくこっちはオッサンだ。そんな俺が自分のことを棚に上げて同年代くらいの女性を「おばさん」なんてうっかり口にでもしてみろ、殺されるぞ。殺されるぞ!(大事なことなので2回)
ゆえに、普段から心の中でもご婦人と呼ぶことを心がけることこそ紳士なのである。間違いない。
と、そうこうしているうちにギルドに付いた。ローラが荷台から降りてギルドの買い取りカウンターに向かう。
「すいませーん。オーク狩ってきたから買い取りお願いします」
「はーい。今日もいいオークですね! お二人の納めるオークは傷が少ないから結構評判いいんですよ、まぁ、できれば血抜きもして欲しいと言われてますけど。……血抜きすればもっと査定額上がりますよ?」
「バカ言え、森の中で血抜きなんぞしてみろ、ゴブリンやウルフ共に囲まれて肉を置いて逃げる羽目になるだけだわ。俺は安全をとるね」
言ってて思った。あ、こりゃ【臆病者】の二つ名返上できねぇわ、と。
そうして、今日も俺は依頼報酬とオーク肉買い取り金、それとオーク肉1ブロックを手に入れた。ローラと仲良く山分けだ。
さーて、肉もあとでミルスに差し入れて料理してもらおう。……ん? ちょっといつもより肉が重いか?
「オーク肉、少し多くないか? ローラ、今日は多めにもらった?」
「あ、えっと、はい。少し料理の練習をしようと思いまして。ダメですかね?」
「そうか。良いんじゃないか? 料理がうまければいいお嫁さんになると思うぞ」
「……ですよね!」
なにやらぐっと握りこぶしを作るローラ。
「ミルスに習ったらいいんじゃないか? あいつ料理の腕も天才的だし」
「うぐ……な、なんか負けな気がするのでお母さんに習います」
何の勝負に負けるのだろうか……あ、ミルスは見た目が年下だからかな?
しかしミルス、肉料理のレパートリーが豊富で飽きないんだよなぁ。
「ルーカスさんは好きなオーク肉料理とかあります?」
「おう、この間ミルスが作ってくれたオーク肉のから揚げ。ありゃ美味かった。また作ってもらおう」
「……くっ!? から揚げまで作ったんですか。まさかミルスさん本気でルーカスさんを……ま、負けませんからね!」
「お、おう?」




