022
#Sideローラ
私はローラ。冒険者をやっています。
最近は、ルーカスさんっていう年配の冒険者とタッグを組んで、討伐依頼なんかもこなしています。
私とルーカスさんの出会いは、まぁその、少し勘違いもありましたが、妹のクララをルーカスさんがあやしてくれたのがきっかけでした。
まさか、シュナイダーがあんなふうに動いている姿を見られるなんて!
シュナイダーというのは、私の大好きな『シュナイダー物語』の主人公で、猫の冒険者です。
さまざまな困難や冒険を友と一緒に乗り越える、冒険譚。私の憧れです。
それで、私は自分のスキル【裁縫】を使ってシュナイダーのぬいぐるみをよく作っていたのです。しかしそれは、命の無い、ただのお人形に過ぎませんでした。
それがなんと! そこにはルーカスさんの【人形使い】によって生き生きと走り回るシュナイダーが! 感激でした、カッコいいです!
これはもはや運命の出会いでした。しかも、ルーカスさんはなんと私に『戦闘用』のシュナイダーを作ってくれと依頼してくれたのです!
私はここぞとばかりに趣味で作っていたビッグシュナイダーを気合い、いえ気愛で完成させました。ウルフ牙のナイフが爪になっている、特製品です!
鍛冶屋のミルスさんには「いやまぁ、お金もらったから作るけどさぁ、ぬいぐるみの装飾にするにはちょっと危なすぎない?」と言われた無駄に無駄を重ねた趣味の一品が、まさかこうして日の目を見ることになるとは!
そうして初めてルーカスさんと一緒に行ったゴブリン討伐では、素晴らしいものを見ることができました。
――ゴブリンを屠り、オークすら狩るシュナイダー!
あああシュナイダー素敵。生きてる、動いてる。
感無量とはこのことです。私は天にも昇る気持ちでした。
……まぁ、その後ゴブリンやオークの血で汚れたシュナイダーを洗濯するのにすっごい苦労しましたけどね! くすん。
それで、今後ともシュナイダーの手入れを、ということでパーティーを組むことになりました。
シュナイダーみたいな冒険者に憧れていた私。ですが、私が目覚めたスキルは【裁縫】でした。
これは確かに冒険の役には立ちますが、活躍の場は冒険の中には非常に少なく、せいぜい破れた服を繕う程度。
町中でこそ生きるスキルで、戦いには一切使えないだろう……そう思っていたのに。
ルーカスさんの武器はシュナイダー。武器は使えば手入れが必要。それこそ、靴やコートのほつれとは比べ物にならないほどに出番があります。
つまり、ルーカスさんの冒険には私というサポートが必須なのです。
ルーカスさんとなら、私も活躍できる、冒険に行ける!
……と、そう思いました。
あ、戦闘については得意ではないので、サポートでいいんです。そこは。
そして、洗濯をしつつ思ったのです。【人形使い】っていうのは【シュナイダー使い】じゃないんですから、他のぬいぐるみとかでも動かせるのでは? と。
(シュナイダーの活躍を損なわないように)小さいぬいぐるみを作ってプレゼントしたらルーカスさん喜んでくれるかも。と。
それで洗濯後に10分もかからずちょちょいと小さなぬいぐるみを作り上げ、その次に会ったときに渡しました。
ぬいぐるみは思っていた以上によく動き、ルーカスさんも喜んでくれました。
私の作ったぬいぐるみで喜んでくれる大人の男の人。
この時にふと気付いたのですが、それはお父さんが子供の手作りのプレゼントを喜ぶのとは全く違うものでした。
男の人に、私の作ったぬいぐるみ自体が喜ばれるなんて。それも実用品として!
……これはルーカスさんを見る目ががらりと変わりましたね、ええ。自分でも理由はよく分からないんですが。なんかこう、男の人だ、って思うようになった感じです。その、特別な。いやその深い意味じゃなく。
で、その後。
エルフの村へコボルト退治に行って、ルーカスさんがカカシを動かせることに気付いてしまいました。
カカシ作りに精を出すドロシーさんとはいろいろと話が合って盛り上がったのですが、ルーカスさんってばドロシーさんに「報酬にカカシ作ってくれ」とか言うんですよ!
これはピンチです。シュナイダーの存在意義が薄れてしまいます。
「……お、お父さん以外の男の人のためにカカシ作るだなんて、その、は、初めてなんだけど……わかった。ルーカスさんがそう言うなら私、がんばってカカシ作るね!」
そう言って照れるドロシーさん。……それ私も感じてました。私の方が先なんですからね!
なぜか私の中に対抗心が燃え上がりました。これはもうカカシに負けるわけには行きません。
そういうわけで、ミルスさんにシュナイダー強化のために根回しをしておこうと鍛冶屋にやってきました。
シュナイダーの強化となると、剣とかを持てるように手のパーツを工夫するべきでしょう。爪も良いですが、剣で戦う方が返り血も少ないでしょうし。
そのためには頑丈なパーツが必要になると思いますから、ミルスさんの協力が不可欠です。
たぶんルーカスさんもシュナイダーの強化を提案すれば賛成してくれるはずです。というわけであらかじめ手を回しておく。これぞパーティーメンバーの協力というもの。
内助の功、とかいうんでしたっけ? こういうのって。
ともかく、ここで一言言っておくのと言っておかないので人付き合いの印象はがらりと変わってくるわけなんです。
もし、ルーカスさんが強化しないといったら? ……まぁ、その時は私の自腹でシュナイダー強化します。武器が強くなるなら文句ないですよね?
「で、好きなの? そのルーカスさんって人」
で、その時にミルスさんにそんなことを言われてしまったわけなんですよ。
「ふぇ!? な、なんでそんな話になるんですかっ」
「いや、明らかに表情が違うじゃん。へー、そんなにカッコいいんだ?」
「いや、カッコいいわけじゃないんですけど。どちらかというとくたびれてます」
「……へぇー、ほぉー、ふぅーん。で、どこが好きなの?」
「好きじゃないですっ」
「あ、嫌いなの」
「違いますよ!? 恋愛対象っていう意味じゃなくて好きなだけです」
「そんな真っ赤な顔で言われても説得力無いなぁ」
バッと自分の顔に手を当てて隠します。……うわぁぁぁ、ホントだ顔熱い!
「な、なんですかこれ? 私、どうなってます?」
「鏡見る? すっごい乙女な顔してるよローラちゃん」
「えぇぇ……それは、気のせいでは?」
「というか、このところここに来るたびにルーカスさんルーカスさん言いつつニヨニヨと笑みがこぼれててさぁ、のろけ? この独り身三十路のミルスさんに喧嘩売ってるの? って思うもん」
ニヨニヨってなんですか……そんな顔してました? 私が?
「で、好きなんじゃないのー?」
「……と、歳が離れすぎてますからそんなことないですよ。ルーカスさんから見たら私なんて娘とか姪とか、そんな感じじゃないですか?」
「そういうのはいいから。男はどうせ若い子が好きなの。子供ができる年齢になったら恋愛対象なの。その点ドワーフは年とっても若く見えるらしいから他の種にはモテモテ!」
「……そのわりにミルスさんは独身のようですけど?」
「この間、雑貨屋のガラフから飴ちゃんもらったもん……モテモテ……」
ガラフさんって、確か奥さん居ますよね。それもう完全に子供扱いじゃないですか。
「っはぁぁぁ、アタシを大人扱いしてくれる素敵な男は居ないのかしら!」
「ソウデスネーミルスさん素敵な女性なのにー。……あ、ドワーフ同士なら大人扱いしてくれるんじゃないですか?」
「あいつらアタシが実験始めると逃げるから。顔はいかついくせにホント根性なしよね。……っはぁぁぁ、アタシを大人扱いしてくれて実験にとことん付き合ってくれる素敵な男は居ないのかしら!」
注文が増えましたね。ええ、ミルスさんが独身なわけが分かったような気がします。
でもまぁ、気持ちはわかります。私も付き合ったり結婚するならシュナイダーについて理解があって、語っても逃げずに聞いてくれる人がいいです。
「ふぅん。ルーカスさんは?」
……聞いてくれましたね、ええ。以前シュナイダーについてたっぷり語ったその後、「おう、ローラは本当にシュナイダーが好きなんだなぁ」と苦笑いしてました。
しかもシュナイダー物語について話を振っても「あー、この間言ってたアレな。蛇の?」と、若干曖昧な記憶ですが答えてくれる人です。
シュナイダーでぎゅっと抱きしめてもらうのも、またやってもらいたいですね……
あと、シュナイダー物語の挿絵の決めポーズを再現してくれたのには感動しました。
「なら、ローラちゃんの理想の男性って、やっぱりルーカスさんじゃない?」
「……いえ、ここはシュナイダーで」
「うん、ローラちゃんほんっとそこはブレないのね」
まぁ、シュナイダーを大事にしてくれるルーカスさんのことも、その、す、好きですけどね?
し、親愛ですよ親愛!