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021

 鎧を着こんだぬいぐるみ、シュナイダー。

 それと相対する、顔がやたらリアルなカカシ。


 カカシはシュナイダーの隙を探るようにゆらりゆらりと揺れている。

 シュナイダーは、木剣を構えたままじっとそれを正眼に見つめ、機会をうかがう。


 そして、先にしびれを切らしたのはカカシだ。ピクリとも動かないシュナイダーに対し、カカシは剣でできた腕――こちらは鞘をかぶせている――を振り下ろす。

 カツン! 受け止めた。シュナイダーはそこから懐に潜り込み、カカシに剣を突き出す。

 しかしカカシのボディはシュナイダーが思っているよりも細かった。紙一重で、それは当たらない。

 勢いのままにカカシの後ろまで突き抜け、振り向く。今度は横なぎに木剣を振るう。

 カツン! 今度はカカシが左腕――こちらも鞘をかぶせた剣だ――で受け止めた。

 ぴょいん、と一旦距離をとるシュナイダー。

 追いかけるカカシ。に、シュナイダーはにやりと笑った(ように見えた)。


 ガッ! 迫り来るカカシの細い脚に対し、一転し体当たりするシュナイダー。

 鎧の質量も加え、かなりの『重さ』。それがカカシの足を払う。

 カカシはそのままバランスを崩し前傾にコケて――否。そのまま前転してみせた。背は高いが、その体は余計な肉がない分身軽だった。もっとも、その分軽くコケやすいのでもあるが。


 試合は振出しに戻る。再びシュナイダーとカカシは相対し――


「……あぁぁああ、もうやめだ! 終了!」


 俺の一言でへにゃりと力を失い、その場に座り込んだ。


「待ってください、まだ決着がついてません!」

「そうだよルーカスさん、私のカカシは鎧を着こんだシュナイダーにも負けないっ!」

「いやぁ、いいデータが取れてるからもっと続けて欲しいんだけど」


 ローラとドロシー、それにミルスに急かされるようにしてシュナイダーとカカシの模擬選なんて始めてしまったのが悪かった。シュナイダーを勝たせればドロシーに角が立つし、カカシを勝たせたら今度はローラと、鎧を作ったミルスに角が立つ。

 もっともミルスはこれも実験の一環とニコニコ一番いい笑顔を浮かべている。


「引き分けだ引き分け! そもそも勝負つけようってのが間違いなんだよ、シュナイダーにもカカシにも良いところと悪いところがあってだな……」

「聞き捨てなりませんね。シュナイダーの悪いところ? そんなの猫だから結婚できないくらいしかないじゃないですか」

「聞き捨てならないね。カカシの悪いところなんて、モノが食べられないからお礼のご馳走を作っても食べてくれないくらいじゃないの?」


 お前ら本当に仲良いな。


「悪いところ、っていうのは言葉の綾だ。そう、長所と短所! 足が速いけどその分小回りが利かないとか、大きいけどその分狭いところが通れない、みたいなやつだ!」

「「それならよし」」


 お前ら本当に仲良いな!


「でもシュナイダーもカカシもルーカスさんの『武器』でしょう? どっちが上か、はっきりさせておいた方がいいと思うんですよ」

「そうだね。『武器』にして『防具』でもあるカカシとシュナイダー、どっちが『メイン』かくらいの差はあるよね、ルーカスさん」

「……大工に対して、トンカチとノコギリ、どっちがメインかっていうようなモンだろその質問はよぅ!」

「いやぁルーカスさん、それは違うと思うな! ようはどっちがメインで【人形使い】の武器になるか、そういう話だと思うわけだよ!」


 だぁああ、もう、引っ掻き回すんじゃないミルス!


「あー、まぁ、あれだ。まぁ、その。まぁ……メインの武器、としてみたら、やっぱりシュナイダーじゃないかなぁ、初めて動かしたときから今までずっと使い込んでるわけだし」

「よしっ! ……ところで今何回『まぁ』って言いましたルーカスさん?」

「そんなこたぁどうでもいいだろ。……で、カカシは新参者だが、オッサンからしてみて町中で荷物運びとかに使うならこっちなんだよな」

「おおっ! ……ほれほれ、やっぱりルーカスさんもぬいぐるみ連れまわすのは恥ずかしいってさ」

「ぐっ、か、可愛いじゃないですかっ! 私はルーカスさんがシュナイダー連れてるのだ、だ、大好きですよ!?」

「あーうん、まぁ、シュナイダーは確かにちょっと恥ずかしいけど、カカシって人間サイズだろ? リュックとか普通に背負わせられるじゃん? そこがポイントでな」


 ついでにシュナイダーを入れた袋だって運ばせることができるだろう。

 あと町中をシュナイダー抱えて歩いてるのはなんかもう慣れた。周りの連中もぬいぐるみのオッサンとか人形劇のオッサンとか言ってくるし。言われるたびにシュナイダー動かして人垣作っておひねりもらうのもまぁ慣れた。


「……シュナイダーも大きいのは子供用リュック背負えますもん」

「子供用だから容量が小さいだろ」

「なら人間よりももっと巨大な、3m級、ハイパーシュナイダーを作りますもん!」

「いや普通に邪魔になるだろ。かといってシュナイダーを人型にすればいいかっていうと」

「ううっ! うー、うー! ぅー……」

「な? ローラ的にはアウトだろ? まぁそんなわけで、荷運びの手伝いをさせるならカカシに軍配が上がるんだよな」

「で、でも! シュナイダーは可愛いですから! 子供にも人気出ますよ!」

「そうそれ。そこがシュナイダーの良い点だ」

「えっ?」


 自分で言っておいて、首をかしげるローラ。


「……副業で人形劇をするとなったら、シュナイダーの可愛さは欠かせないんだよ。子供を泣き止ませるのにこんなリアルな顔のカカシも使えないだろ?」

「……ぁー、まあ、カカシは獣とかを脅かすのが仕事だもんね……愛嬌がある、ならともかく、確かに可愛くはできないや」

「そう。だから、どっちも長所と短所はあるわけだ」


 よし、うまく締めることができた。


「で、鎧は?」

「……鎧は鎧だろ。戦闘で使うよ」

「うーん、まぁいっか。でもここはアタシも口説いてほしかったなぁ」

「待て、なんで口説くとか口説かないとかそういう話になるんだ」


 俺はただシュナイダーとカカシの寸評をしていただけなのに。


「女心が分かってないねルーカスさん。ここでいうシュナイダーはローラ、カカシはドロシーなんだよ! ついでに鎧はアタシ! 誰がルーカスさんの一番かっていう女の争いの代理戦争だったのさ!」

「な、なるほど?」


 言われてちらりとローラとドロシーを見ると、なんか気まずそうに顔をそらされた。

 ……うん、一瞬本当に俺のことが好きなのかなって思っちゃったよ? そうだよね。2人とも自分の大好物(シュナイダーとカカシ)をひたすらぐいぐい推してただけだもんね。

 ミルス、あまりオジサンの純情を弄ばないでくれ……


「で、ルーカスさんはシュナイダー(ローラ)カカシ(ドロシー)(アタシ)、どれが一番イイのかな? なんつって! なんつって!」

「……まぁ、シュナイダー以外は今日できたばかりなわけだし、追々な。追々……」

「ちぇー。つまんないの」


 じ、実はちょっと脈あるのかな? なんて思ってねーよ?

 そ、そんなDTみたいな発想するわけないじゃん……ないじゃん?

 オジサンは大人の余裕を見せるのさ!



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