020
数日が経過した。
ミルスの実験に付き合いつつ、依頼もこなしつつ、割と充実した日々だ。
ミルスの実験で毎日MPを使い切ったりしたおかげか、なんと1日5発は火の玉が打てるようになった。
いやまぁ、魔力の使い方がこなれてきたって言うのが大きいんだけどね。1発分はMPの成長。この歳になってもちょっとは成長するんだなぁ、嬉しい限りだ。
40歳から運動をするようになっても今更陸上選手にはなれないが、ダイエットして体力付けるくらいはできるってことだな。
シュナイダーの操作にもだいぶ慣れてきて、2体のシュナイダーをまるでコンビのように戦わせるのもお手の物だ。まぁ、操作中は俺は安全な木の上に避難して集中する必要があるけど。
最近は、返り血を回避するように動いていたり、あまり血が出ないようにうまく切る方法も慣れてきた。 ローラの作った杖を持つパーツで剣も持てたので、シュナイダーの攻撃の幅が広がったのもデカい。
返り血を浴びる量が減ったのに比例し、洗濯する手間も少なくなってローラもご満悦だ。
でもいずれシュナイダーを防水布で、という野望は捨てていないようで貯金も貯めているらしい。
最近はもっぱらゴブリンを安定して狩れている。近場の森でゴブリンを狩って討伐報酬をもらうのが最近の生活スタイルだ。
オークもたまに出るが、これも何とか倒せなくもない。むしろオークは肉も売れるのでボーナス扱いだ。……オークを倒せて一人前、というのはこういうことなんだろうな。じゃなきゃ危なくてゴブリン狩りもままならないだろう。
ゴブリンはシュナイダーで戦えばもはや雑魚。いや、たぶん普通に戦っても1対1なら倒せる相手だ。対ゴブリン戦、シュナイダー使ってかなり練習したみたいなもんだし。
それでもシュナイダーを使い続けるのは、俺の体が翌日痛んだりしないからである。
……一度試しにゴブリンにタイマン挑んでみたんだよ。まぁ、勝ったには勝ったけど、さすがにシュナイダーの真似してバク転したのはまずかった。頭から落ちてグキっとやった時は危うく死んだかと思った。人は人形のようには動かない。オジサン、学んだ。
ああいうのは専用の訓練を積んだ【軽業】とか【体操】とかそっち系のスキルを持つ人じゃなきゃできないんだよ。うん。
でだ。そんなある日。
「「ルーカスさんいるー?」」
俺とローラがギルドでのんびり装備の手入れをしていると、ドロシーとミルスが入ってきた。
ドロシーとミルスは、それぞれ背中に大きな袋を背負っていた。
「ルーカスさん、お久しぶり! 例のアレできたよ!」
「ルーカスさん、なんで昨日来なかったの? 例のアレできたよ!」
2人同時に、テーブルにどすんがしゃんと袋を置く。
「……1人ずつしゃべってくれ。まずドロシーで」
「あ、うん。約束してたカカシができたから届けに来たの。冒険者ギルドに大体いるって聞いてたから来たけど、ちゃんと会えてよかったよ。伝言代が浮いたからこれでお菓子買って食べられるね!」
「おお、わざわざすまないな」
なるほど、となるとその袋の中身はカカシか。指2本分のパワーで動かせるわけで、頼んだのは2体だったっけか。
「じゃ、次はミルスで」
「本当は昨日渡そうと思ったんだけど、来なかったからね。シュナイダー用の鎧ができたからお届けに!」
「おお、わざわざすまないな」
なるほど、こっちはシュナイダーの全身鎧か。事前の実験だと指3本分のパワーを使って動かすことになる一品だ。
そろそろ足指もうまいこと使いたいところだな。足指でもパワーにはなるから。
「よしよし、2人ともありがとう」
「えへへ、ところでこのドワーフの人は誰?」
「アタシにもこっちのエルフの子、紹介してよルーカスぅ」
くねくねと体をよじるミルス。うん、30歳という歳を考えて……いや、ドワーフだと見た目若いから全然あり……いやいや、見た目的には逆に幼すぎてナシだな。大人びた仕草に憧れる子供にしか見えんわ。
「なぁローラ。エルフとドワーフって仲悪かったりする?」
「? そんなのは聞いたことないですね」
あ、よかった。前世の話だけど、作品によってはそういうのあるからな。
そうなれば、ローラと仲の良い2人のことだ。きっとモノ作り関係の話題で意気投合するだろう。
*
「つまり、最強はアーマードカカシってことね!」
「違います! シュナイダーが最高で、カカシはその下!」
「ふっふーん、どちらにしてもアタシの鎧は欲しいだろぅ? ほーれほーれ」
「ぐぬぬ、確かに鎧の有用性は認めざるを得ない……! いや! だがしかしカカシならそもそも鎧などなく壊れたって直せばいいだけだし! むしろ壊れてこそカカシ!? あれ、鎧とか要らなくない?」
「ちょっと! 鎧が要らないわけないでしょ、要るから! 絶対!」
「あー、でもシュナイダーの身軽さを生かすなら鎧は確かに不要かも……?」
「ローラまで!?」
「もういっそ鉄でカカシ作ったらいいよ。ほら、最強!」
「あ、それアリだね。採用! 鉄は私が加工する!」
「ええ、それじゃあシュナイダーはどうすれば……」
俺達は鍛冶屋ミルスに場所を移し、ドロシーのカカシの試運転をすることにしたのだが、そこで「シュナイダーとカカシだと、どっちが強いのかなぁ」なんてミルスが言い出したのがきっかけだった気がする。
そこからは延々とこのおしゃべりが続いている……うん、オジサン若い子達の会話について行けない。
ちなみにこれ、別段険悪なムードではなく和気藹藹と親睦を深めている会話な。まぁみんなにこやかな笑顔だし、そうなんだろうけど。
女の子ってわかんない。あれか、男が拳で殴り合って仲を深めるように、女は言葉で殴り合って親睦を深めるのが普通なのか。……前世でも今世でも殴り合って仲を深めた友人とかいないけど。
とりあえず盛り上がっているようなら何よりだ。
女三人よれば姦しいとは言うが、これいつ終わるんですかね。
この会話、微修正して割と何回かループしてるような気がするんだけどオジサンの気のせいかな? なんて。
あ、俺はそんな3人をよそにカカシの試運転してるよ。いやぁ、こいつはいいね、人間サイズで二本足で歩くし、折りたためば袋の中に入るくらいコンパクト。
指2本で動かすだけあってパワーもそこそこあるから荷物持ちに使ってもいいな。
頭がブルータスの石膏像の如くになっていて「力の入れ所そこ!?」とか思ったけど、完成度が高いと操作しやすさも上がるようで超良好。シュナイダー並、とまではいかないが、だいぶ動かしやすい。
「……ふむ、だいぶ動かしやすそうですね。ミルスさんが用意してた実験用のカカシとは大違いみたいですよ? アレ」
「当然! ちなみに製作期間のほとんどは頭ね!」
「ほーん。あ、そうだ。頭の完成度でどのくらい動かしやすさ変わるかの実験してみよっか。ドロシー、いくつか頭作って」
また実験項目が増えた……というか、ちゃんとこっちも見てたのね。いやぁ女子って視界が広い……