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002


 イノシシを台車に載せて町に帰ってきた。

 記憶にはあるが、新鮮な気分で町を囲む石造りの壁を見る。そして、門。

 この町には数万の人間が暮らしている。それを守る、大きな壁。


「おっ、ミゲルお帰り。ルーカスも生きてたか、ルーカスがそう簡単に死ぬとは思わなかったが」

「はい、ルーカスさんはやっぱり生きてました」


 なんだろう、記憶の混濁のせいかよく分からないが俺ってそんな死なないように思われてたのかな。


「さすが『臆病者』のルーカスだ。よく生きて戻った」

「うん?」


 『臆病者』ってのは……ああ、俺の二つ名か。って、それ褒めてないよね?

 討伐依頼を全くやらないベテランの冒険者。それが俺だった。

 しかしその俺が今回初めてといっていい討伐依頼……しかもモンスターではなく動物に挑んで、そしてこのザマというわけだ。まさに、うだつの上がらない冒険者。

 いや違うんだ。本当ならまっすぐ突進してきたのを避けるだけで崖下に落とせたはずが、あいつの牙が俺のベルトに引っかかって……ああ、それでポーチが外れたのか。


 ってそんなことはどうでもいい。なんだその不名誉な二つ名は。なんかこう、もっとカッコいいのはなかったんだろうか。


「……なんかバカにされた気分だな」

「そんなことは無いぞ。生きていてこそ、というその意気は俺も同意するところだ」

「そうかい」


 まぁ、それほど気にすることでもないか。実際、死んだらそれまでだもんな。死にかけたおかげで前世の記憶が蘇った俺が言うのもなんだけどさ。


「でもま、コイツを見てくれ。初めての討伐成果にしちゃ上出来だろ?」

「ああ、こいつは立派なイノシシだ。これならコイツを売った金だけでも銀貨5枚ってところか」

「そうですね、輸送費は……まぁルーカスさんが引っ張ってきてくれたんでオマケしときますけど、解体費がかかるからそのくらいになりますね」

「さてさて、それでも俺の手元にはいくら残ってくれるかだねぇ……」


 臨時で5人パーティーだったから、山分けしたとして1人銀貨1枚。依頼の達成でもらえるのが1人銀貨1枚だから合計で銀貨2枚。……うん、ポーション代で半分消えるな。

 死にかけたのと輸送費の分とでその分取り分を多くしてもらわないとな……

 あわよくば、ポーションを経費に入れてそれを抜いた金額で山分け、にしてもらいたいところだ。

 見舞い金よこせや、と言えば通るだろうか?


「ともあれ、まずはギルドに戻ってからですよルーカスさん」

「そうだな。さっさと行こうか。んじゃ、またなー」


 と、俺達は大イノシシを台車で運びつつギルドへ向かった。



 ギルドについたところで俺はイノシシをミゲルに任せた。

 冒険者ギルド。あたかも西部劇のバーを髣髴(ほうふつ)とさせるこの建物こそが、俺達冒険者の拠点にして仕事斡旋所(ハローワーク)である。

 尚、ちゃんと酒場も併設されているのはお約束というか、ご愛嬌。稼いだ金をその場で落とすとかいいカモだよな、日本人の記憶を持った今ならそう思える。


 俺が正面からギルドに入った。

 まだ明るい時間だというのに、テーブルで酒を飲んでる奴らがいた。……ってあいつら、俺が臨時でパーティー組んでた奴らじゃねーか。


「おぉルーカスぅう、どうしてお前みてぇないいやつが……」

「いい奴ほど早く死ぬ……」

「バカ野郎! ここで泣いてもルーカスは喜ばねぇ! 弔いだ、飲むぞ!」

「ルーカスの分もしっかり飲まねぇとな」


 なんでぃ、てっきり俺を見捨てていった薄情者かと思ったらいい奴らじゃねーか。


「今日はルーカスの分の金で飲み明かすぞー!」

「「「おー!」」」


 いやいや俺は生きてるからな。というわけで、少し驚かしてやることにした。

 俺は足音をなるべく消してこっそり近づく。身をかがめて目立たないように。

 そして、すぐ後ろまで来たところで立ち上がって声をかけた。


「よぉ、何やってんだ、俺も混ぜろよ」

「うぉ! なんだよ脅かすなよルーカス。今ルーカスの弔いやってんだ、一緒にどうだ」

「ほう。俺の弔いか。そりゃ一緒に飲むしかないなぁ」


 と、そこまで言ったところで、臨時パーティーメンバーの連中は揃って俺を二度見した。


「……いやまてよ。なんでルーカスが生きてんだ!? 死んだんじゃなかったのか!」

「なんだよ、生きてちゃまずいのか?」

「まずいに決まってんだろ! この酒が自腹になるじゃねーか! おーい、さっきの注文なしで! 代わりにルーカスにエール一杯!」


 えー、もう厨房で作ってるよー、とかいう返事が聞こえてくる。

 ノリと気のいい奴らだ。だから臨時とはいえパーティーを組むことになったわけだが。

 

「で、正直死んだと思ったんだがよく生きてたな。どうやって助かったんだ?」

「いや、俺も死んだと思ったんだけどうまいことイノシシが下敷きになってくれてな。それで助かったってわけだ。……さすがに骨折れてたからポーション使ったけどな」

「そうか、なんにせよ生きててなによりだ!」

「ところでお祝いってことで、ポーション代を分担してくれないか?」

「まぁ飲め! いやぁめでたいめでたい!」


 あ、こりゃポーション代は無理だな。臨時パーティーだし仕方ないか。イノシシにひっかけられて崖から落ちたのは自分のミスでもあるわけだし……ここで変にゴネて仲違いする方が損だ。労力はかかっているとはいえ一応黒字ではあるんだし潔く諦めよう。


「……代わりに今日はお前ら奢ってくれよ。ポーション代の元とるくらい飲むから」

「だったらお前がいつもやってるアレ、分担してやるからそれで勘弁してくれ」


 いつも俺がやってるアレ? と、記憶を掘り返すと、俺はギルドでいつもステータスの鑑定をしてもらっていたようだ。この世界には剣と魔法はあるし、ステータスだってあるのだが、このステータス魔法は個人でできるほど発展はしていない。そこで、金を払ってギルドで鑑定してもらうわけだ。

 自分の成長とかが数字で分かりやすく出てくるから、色々と便利なんだよな。

 お値段にしたらポーションの10分の1だが、まぁ今回はそれで手を打とう。


「んじゃ早速行ってくるわ」

「おう! でも金出すんだから何かすごいことになってたら教えてくれ」

「あいよ」


 と、俺は連中から銅貨をそれぞれ徴収してギルドのカウンターへ向かう。

 ここ数か月はほとんど値も変わらないどころか、筋力とかが落ちていたくらいなんだが――と、ふと、そういえば今の俺は前世の記憶があるという、トンデモない事態になっている。もしかしたら、ステータスもトンデモないことになっていたりするかもしれない。


 カウンターでは、話が聞こえていたのだろう。すでに職員が水晶玉と鑑定用紙を用意してくれていた。


「んじゃ、頼むわ」

「はい、水晶玉に手を置いてください」


 水晶玉にぽすっと手を置く。すると、全身が一瞬ふわっとあたたかい空気に包まれた。

 これで鑑定終了だ。あとは水晶玉の下にある鑑定用紙に結果が出てくる。

 結果についてはギルドの方でも認知するし、特に隠すこともない。

 ギルドの連中というのは大体は協力して依頼をこなす仲間である。自分の弱点が云々、というのは、むしろ知っておいてもらった方がいいことだったりもするのだ。少なくともここのギルドにおいては。


「さてさて、どうだったかね?」


 水晶の下から鑑定用紙を取り出し、カウンターに置いて早速読んでみる。


  【名前】ルーカス (40歳)

  筋力 :42

  魔力 :15

  生命力:60

  敏捷 :24

  スキル:人形使い



「ルーカスさん、見てくださいこれ! 『スキル』に目覚めています!」

「……まじか! やった!」


 俺は思わずガッツポーズをとった。

 ん? でもスキルってなんだっけ?




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