019
実験から解放されて、俺は冒険者ギルドにスキル情報についての報告を行い、報奨金をもらった。
結局、全ての情報を渡すことになった。シュナイダー用のフルプレートメイルを発注するためにその金が必要だったからだ。
……まぁ、将来の【人形使い】の後輩のためになったと思おう。どうせ隠してたところで切り札としての使い道はないだろうし。
しかし全ての情報を渡してもわりとギリギリだったというか、少し足りなかった。
新情報がてんこ盛りとはいえ、レアすぎるスキルで需要もないわけだから単価が安かったのだ。そしてミルスには少し値引きしてもらった。
「なるほどー、それで結局2日間実験し通しだったと」
「……助けてくれても良かったじゃないか。なぁ?」
「あはは……すいません、ミルスさんの性格を失念してました。でも、目的の鎧が動くかどうかは試せたんですよね?」
確かに実験で色々試した際、鎧が動かせるかもやった。結果は動かせなかったが。
ただし、中身があればそれを動かせばいいということが分かったのだ。
「ま、なんだかんだでシュナイダーに鎧を着せる感じになりそうだな」
「アーマードシュナイダーですね!」
ローラは嬉しそうに笑った。シュナイダー、本当に好きなんだなぁ。
「まぁそんなわけで、シュナイダーの採寸はともかくデザインの問題があるだろ? そこはローラに相談しておいた方がいいかと思ってな」
「ほほう。いい心がけですねルーカスさん。確かにシュナイダーの鎧ともなれば私が監修しないわけにもいきません。籠手に剣を固定できるギミックとかも欲しいですしね!」
「お、いいなそれ」
確かにそれができるとありがたい。常に爪で戦うより今までの剣と同じように戦えた方が動きやすいだろう。
「……あ、でもギミックがついたらその分高くなるんじゃないか?」
「そこは私とミルスさんで共同開発してるのでお安くできると思います」
「共同開発とかしてたのか……」
「ちなみに縫い物のために便利な『ミシン』っていう道具を開発したりですね……」
「おまっ、ちょ、お前かミルスに前世の記憶とかあったりするのか?」
「前世の記憶?」
きょとん、とした顔で首をかしげるローラ。
「前世ってなんですか?」
「え、あ、そこから?」
あ、記憶を掘り起こしてみたけど、この国の宗教的には輪廻転生じゃないんだな。
あからさまに転生者が紛れてそうな発展してるのに……
「えーっと、ほら、生まれ変わりとか……死ぬ前の話かな」
「あっはっは、やだもールーカスさんってば。死んだら天の国に行くに決まってるじゃないですか。常識ですよ?」
「あ、うん」
そうだね、この国の宗教的にはそれが常識だよね。うん、思わぬところで転生者が、とか思ったけど気のせいだった。
あ、いやまて。ほぼ無意識で転生知識が漏れてるという可能性もある。悪役令嬢系でそんな小説を見た記憶があるぞ、無意識に優しい行動をとってたのが生存フラグにつながってたとか。
……まぁ、アレは小説だから実際に適用していいものかどうかは別だけど。
ってか、俺自身が40歳になるまで前世の記憶が無かったことを踏まえると可能性はどうしたって0にはならないか……一応ミルスにも確認しておくかな。
……いやいやめとこう。前世知識の検証とか始まったら今度は2日じゃ済まない気がする。
「じゃあこの後、またミルスさんのとこ行くんですね」
「ああ。……というか、ローラは仕事しなくて大丈夫か?」
「あ、大丈夫です。裁縫関連の助っ人の依頼をソロで受けてましたから」
うん、そういえばこの子普通にソロで冒険者してた強かな子だったわ。予定が無かったら仕事入れるよね、そりゃね。
「あとこんなのも作ってみたんですよ」
と、ローラは子供用――いや、シュナイダー用の黒いローブを取り出した。
ちゃんとフードが猫耳用になってるのがシュナイダーなポイントだな。
「ふむ、ローブか。確かに黒いローブなら血がかかっても目立たない。いいんじゃないか?」
「あ、違います。これそういうんじゃなくて……じゃーん! これとセットなんです!」
そう言ってさらに小さな杖を取り出した。うん、どういうことなの?
シュナイダーの手になにやらパーツを取り付けて杖を固定しつつ、ローラは答えた。
「これはマジカル☆シュナイダー装備です」
「……え、ごめん。なんだって?」
「マジカル☆シュナイダー装備です」
うん、聞き返したけど聞き間違いじゃなかったようだ。
「……いや、無理だろ。そもそもシュナイダーに魔法は使えないって」
「何言ってるんですか。そこはほら、ルーカスさんが気合いでなんとかしてください」
「いやいやいや、気合いも何も【人形使い】でシュナイダー動かしてるだけだし」
「ほら、手足の延長線上みたいな感じで。シュナイダーの持ってる杖から魔法使えたりしません?」
「いやいやそんな……あ、でもそれ試してはないな」
思い起こしてみたが、ミルスの実験では試していなかった内容だ。そもそも俺が魔法を全然使えないというのもあったが。
*
で、ギルドの練習場で試してみたらあっさりできてしまった……
「……マジかよできたよ。シュナイダーから魔法撃てるのかよ」
「さすがマジカル☆シュナイダーですね!」
「そだね。シュナイダーすごいね」
というわけで、新たに【人形使い】を経由して魔法の発動とかもできることが判明した。
……まぁ、MPの供給元は俺なわけだから実際に有用かどうかというとお察しなところだ。
ああ、もっと若いときに前世に目覚めていれば今頃魔力もどーんと桁違いに成長してて、某ファン〇ル……いや、有線だから某イン○ムのように自走する有線魔法砲台とかもできただろうに。
今からじゃ増えたところでタカが知れてるだろう。オッサンだもの。
オッサンの伸びしろは若者の比ではないのだ……悪い意味で。
「あ、ギルドに報告しときます?」
「……いや、どうせはした金にしかならないし言わなくていいや。俺だけが知ってる切り札ってことにしとこ」
「切り札……カッコいいですね! 良いと思います!」
まぁ、切り札ってほど強くないんですけどね。はっはっは。
……あっ、そうだ。クッキーズを口ン中に突っ込ませて体内からボンってすれば、まぁ使えるかな? うん、一寸法師アタックと名付けよう。
尚、このあとミルスのところにシュナイダーの鎧のデザインについて話にいったところでローラが「魔法も使えるのでローブも装備できる感じがいいですね!」と【人形使い】越しに魔法が使えることをさりげなく漏らしてしまった。
切り札だから秘密だってのによぅ!
「ルーカスさん、ちょっと試したいことが」
「……ミルス、そんな目で俺を見ないでくれ。あと、ローラ?」
「すみません。ついうっかり」
1日に何発も撃てたりしないので、この日からしばらくミルスのところに通うことになったのは、言うまでもない。
……まぁ、昼飯をご馳走になれるからいいけど。あーミルス特製チャーハンうめぇや。火の使い方がさすが鍛冶師。




