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014


 よほど気が合ったのか、ローラとドロシーはそれから30分くらい続いた。

 よくもまぁそんなにシュナイダー話が続くもんだ。

 いい加減しびれを切らして、俺は口をはさむことにした。


「それにしても、そんなに若いのに畑の責任者か。やっぱ村長の娘だからってことか?」

「ん? あ、うん。それもあるけど、私は土魔法が得意なのよ。畑を耕すのも魔法で土を持ち上げて、パンケーキを焼くみたいにえいってひっくり返せばあっという間なのよ」


 そんなことができるのか。さすがエルフ、魔法が得意な種族なだけのことはある。


「ちなみにお父さんは魔法が苦手で、石の槍を出すくらいしか使えないのよ。だからああして体を鍛えてるんだって」

「……ストーンジャベリンっつったら、相当強いと思うんだけど?」


 ピンポン玉サイズの炎しか出せない俺と比べたら……比較するのもおこがましい。


「その、お父さんは魔法を飛ばすのがすごい苦手で、出した石の槍を手に持って戦うのよ」

「そりゃ……なんというか、すごいな」


 魔法を文字通り武器にして戦うわけか。

 確かにそれであれば手ぶらでオークを狩りに行くと言ってもなんの問題も無いのだろう。もしかしたら防具も作れるのかもしれない。


「魔法で作ったものは人から離れて時間が経つと消えちゃうから、柵の修理とかには使えないのが欠点ね」

「そうなのか」


 魔法で出した水も、飲んだりして人が接している状態なら問題ないが、コップに入れたまま離れると時間が経つと消えたりする――そんな記憶が掘り起こされた。

 原理は良く分からないけど、接している人間から魔力とかを供給されて維持してるんだろうか……深く気にすることじゃないか。そういうのを考えるのは学者の仕事だ。



 俺は応急修理された柵を見に行く。

 畑の関係だろうか、近くに深く大きい穴が掘ってあったのでそれを避けて近寄った。


 応急修理された箇所は、よくよく見れば板を立てかけて突っ張り棒を地面に刺しただけのようだ。揺らすように叩くなり、横にずらせばすぐダメになりそうだ。

 そして、板をどけると、子供なら通れるだろうといった大きさのスペースが空いていた。


「コボルトはここから入ってきたんだよな。大体何匹くらいいたか分かるか? 村長は10匹以上って言ってたけど」

「んー。前に見たときは13匹くらいかな。でもメスがいるみたいだったからもっと増えてるかもしれないわね」


 そうなると、20匹くらいとみておいた方がよさそうだ。

 ……早めに数を減らさないとネズミ算式に増えていきそうだな。犬だけど。


「この穴、さっさと塞いだらいいんじゃないか?」

「侵入経路が分かってる方が討伐がしやすいだろってお父さんが言ってたわね。だからしっかりとは直してないのよ」


 なるほど。さすが村長をやるだけのことはあるベテラン冒険者。


「なら単純に、ここから入り込んできたコボルトを罠にはめて倒せばいいな」

「それなんだけどね……結構難しいのよ」

「うん? どうしてだ?」

「落とし穴とか作ったんだけど、あいつら避けるのよ」


 と、ドロシーはすぐ近くに掘ってあった穴を指差す。何の穴かと思ってたけど、そうか。落とし穴だったのか。

 言われてみれば、柵の穴から入ってきてまっすぐ突き進めば、落ちるだろう位置だった。せめて何かで覆わないと誰も引っかからないんじゃないか。


「これは魔法で土のフタをかけるタイプなんですね?」

「そうよローラ。コボルトが近づいてきたら薄く土でフタをするの」

「ふふふ、簡単な推理です。シュナイダー物語で見たことがあります」


 なるほどさすがエルフ。落とし穴も魔法を使うのか。

 あとそれは推理とは言わないんじゃないかねローラさんや。


「実際にどんなもんか見せてもらってもいいか?」

「ええいいわよ。……そぉい!!」


 ドロシーは、落とし穴のフチに手を当てると、掛け声と共に土魔法を行使した。

 カメラのシャッターのように、丸い穴のフチがうにょーん、と伸びて穴を塞ぐ。

 完全に穴が塞がったところで平らに(なら)され、ついでに小さな草がぴょこっと生えた。


 普通に他の地面と区別がつかない。これはなかなか高度な落とし穴じゃないか?


「これでどうしてコボルトが引っかからないんだろうな」

「……あいつら、軽くて早いから走り抜けちゃうのよ。誰かが足止めでもできればいいんだけど……」


 ドロシー曰く、コボルトは数は多いが単体では軽く、しかも落とし穴のフタが落ち切る前に走り抜けてしまうらしい。

 かといって、人が乗っても大丈夫なようにしては、より軽いコボルトが引っかかるはずもなく。むしろ囮になった人も一緒に落ちるという自爆技になってしまい、被害がデカくなるだけ。


「というわけだから、罠は期待しないでコボルトを退治してね」

「ふむ……」


 つまりは、コボルトを引き付けられる軽い囮が居ればいいわけだ。

 そして、その手段はまさに俺の手の中にある。


「なぁローラ。これはシュナイダーの活躍所じゃないか?」

「ダメです」


 ……


「なぁローラ。これはシュナイダーの活躍所じゃ」

「ダメです」


 製作者からストップがかかった。


「なんでだよ! 体重の軽いシュナイダーなら落とし穴の上で囮するのに適任だろ!?」

「だって考えてみてくださいよルーカスさん! 落とし穴の上でコボルトの足止めってことは、一緒に穴の中に落ちるし噛みつかれたりするわけですよ!? よだれでべっちょりする上に、シュナイダーの柔肌に穴が開いちゃうじゃないですか! そんなのシュナイダーが可愛そうですよ!」

「いやでも、シュナイダーぬいぐるみだし……」

「ぬいぐるみだから穴が開いてボロボロになってもいいっていうんですか!」

「その、それはローラが裁縫でちょいちょいっとだな……」

「戦闘の結果で破れる(けがする)ならまだしも、初めからシュナイダーを犠牲にする作戦なんて了承できません! というか、ボロボロにされたら修理費いくらかかるか分かって言ってますか?」


 うぐぐ、た、確かにこのシュナイダーは銀貨数枚をかけた大物。コボルト相手にボロボロにされたら元が取れないのも事実……!


「というわけで、罠に頼らないで立ち向かいましょう。大丈夫、ルーカスさんならシュナイダーをきっと一番うまく使えますから!」


 どこからその自信がくるのか、さっぱり分からん……


「いやでも、さすがに20匹くらいも居たら無傷というわけにもいかないし……うーん、せめて壊してもいい人形でもあれば良いんだが……」


 と、俺がそうボヤいた時だった。ドロシーが俺の肩をぽんぽんと叩く。


「ねぇ、人形ならなんでもいいの? なら、カカシでも使う?」

「うん? いや、カカシは人形じゃ――」


 ――いやまて。カカシってのは、人の代わりに畑に立つもの。

 ということは、むしろ猫のぬいぐるみより人形といってもいいんじゃなかろうか。


「……試してみる価値はあるな。余ってるカカシとかあるか?」

「たくさんあるよ!」


 にこっと、ドロシーは笑顔で言う。

 たくさん……え? たくさん余ってるの? なんで?


「私、カカシ作りが趣味なの」

「…………お、おう。そうなのか」


 なんだろう。さっきローラと話が合ってた点を踏まえて考えて……

 こいつ、ローラ(シュナイダーフェチ)と同類な気がする。


「……えーっと、ドロシー。もしカカシが使えたらの話になるんだが、囮にするからコボルトどもにメッタメタのギッタギタにされるかもしれない。大丈夫か?」

「ああ、大丈夫大丈夫、カカシは獣を追い払うけど、つつかれたりもするものだから」

「ええ、なんたってカカシですからね。カカシは囮、シュナイダー物語にもそう書いてあります」

「シュナイダー物語すげぇな、カカシもカバーしてんのか……」


 ともあれ、俺はカカシが【人形使い】で動かせるか試すべく、ドロシーについて倉庫に向かった。




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