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012



 さて、シュナイダーが乾いたので俺達は早速討伐依頼に――行かなかった。


「シュナイダーは乾いたんですが、返り血対策がまだできていなくてですね」

「……じゃあなんで持ってきたの?」

「ルーカスさんがシュナイダーに早く会いたいんじゃないかって」


 うん、良く分からない気の回し方だった。


 というわけで、返り血対策とやらができるまでもう少しかかるらしいので、俺は町中でこなせる依頼をやることにした。

 というか、ぶっちゃけ俺のメイン収入である。前世の記憶が戻るまではこれで日銭を稼いでいたわけで……


「つーわけで、倉庫の整理だ。行けっシュナイダー!」


 と、俺は戦闘用シュナイダーを袋から取り出した。シュナイダーに整理を手伝わせようという画期的なアイディアである。


 俺はシュナイダーを慎重に操って、荷物を持たせる。

 箱はぬいぐるみの指が手では持ちにくい。しかし今のシュナイダーは戦闘用、爪がついているのだ。ついでに爪カバーも。

 なので、これを指の代わりにしてうまいことはさめば荷物を持つこともでき――


「ってちょっとまて! これ絶対自分の手で運んだ方が早いし楽だ!」


 気が緩むと同時にするりと薬品の入った箱を滑らせるシュナイダー。危ない、俺はそれが地面に激突する前にキャッチすることに成功した。

 なんで俺はシュナイダーを使おうと思ったんだ。しかもこんな薬品の入った木箱とか明らかに落としたらマズいものを。まぁ【人形使い】の訓練には丁度いいかもしれないが……


 なんだかんだ俺もシュナイダーに染まってたのかもしれない。汚染といってもいい。


 まぁ、割れる心配のない丈夫な荷物を持たせるのならシュナイダーに手伝わせられるだろうか。

 シュナイダーに箱を背負わせてみる。……むちょり、と足がヘタってそのまま下敷きになってしまった。うん、動けない。幸いシュナイダー本体(ぬいぐるみ)がクッションになって荷物は完全に無傷だが、あまり重いものを持たせることはできなそうだ。


「うーん、茶運び人形くらいに考えた方がいいか……」


 他に受けてるやつが居たらそいつの元まで小物を運ばせる、みたいなこともできなくはない。……あ、でもシュナイダー動かすのに俺が集中しちゃうとやっぱり俺が動いた方が早いし確実なんだよな。


 将来的には複数の人形を同時に操って軍勢みたくしたいところだが……この歳になるともう頭がそんな柔らかくないからなぁ。あー、加齢には勝てねぇや。今から鍛えてどれくらい動かせるようになるもんか……


 そんなことを思いつつ、俺の理想の軍勢を頭に描く。


 ……あ、あれ!? おかしいな、全部シュナイダーだぞ!? もっふもふしてやがる。

 なんてこった、俺が動かせる人形のイメージが、シュナイダーしか湧かない……これはもしやシュナイダーしか動かせないフラグ――って、んなわけないか。クッキーズも動かせたしな。


 ……でも動かせるのがぬいぐるみしかいなかったら、さぞかしファンシーでシュールな軍勢になるだろう。鎧を着せてみたらどうだろうか、と思わなくもないが……ダメだな。自重で潰れる。せいぜい皮鎧やローブが限度だろう。

 手足に入ってる砂袋ですら結構動きを阻害している感じだった。うーん、重い。


「まぁいいか。荷物整理さっさと終わらすかねぇ」


 俺は、シュナイダーを倉庫の隅に置いておき、仕事を片付けた。

 伊達に長年『臆病者』やってないわ、こういう仕事は慣れたもんよ。体が勝手に動くレベルだね。

 昼には仕事が片付いた。あー腹減った。

 報酬をもらいにギルドに帰る途中で何かかって食うかな。




 昼飯はホットドッグを食った。名前はウィンナーパンとか言ってたけど、いやウィンナーはそのまんまの名前であるのかとか思ったけど、これは偶然にもウィンナーという町があってそこの名産が腸詰肉(ウィンナー)らしい。

 うーん、偶然だなぁ。偶然って怖い。

 なわけねぇだろ、絶対地球人の仕業だってこれ。というか、数々の文明の利器を見ても俺以外の転生者とか絶対いる。

 むしろ俺という実例がいるのに他にいないと思う方がおかしい。

 あるいはこっちの世界から地球に転生して紙とかウィンナーが広まったという可能性もないわけではないけど、それはそれで。


 で、俺は仕事の報酬をギルドで受け取った後、公園にやってきた。


 折角なので【人形使い】で複数の人形を動かす練習をしておこうと思ったのだ。

 場所が修練場ではなく公園なのには、ちょっとした打算もある。


「よっ、ほっ、せいやっ」


 子供くらいの大きさがある戦闘用シュナイダーと、猫くらいのシュナイダー改。この2匹を格闘ゲームのように戦わせる。やはりトレーニングといえばスパーリングだろう。

 実際、ぬいぐるみが腹筋や腕立て伏せをやっても筋肉はつかないだろうし、戦闘用の動きを確認するという意味ではこれが最適だ。と、俺の頭脳が判断した。

 殴っても殴られても痛いのは俺じゃないし、シュナイダー達も別に痛くないだろう、ぬいぐるみだから。さすがに爪出してると裂けるのでケース被せてるが。


 右手と左手でじゃんけんするような感じではあるが、おおむね意図通りに動くもんだ。

 たまにうっかり間違えたり、砂袋の慣性があって意図通りに動かないところがある。それが逆にわざとらしさを消している感じすらあるな。


 そうして2匹を戦わせていると、見物客が出てきた。

 俺はそっと入れ物を置く。そう、おひねりを入れてもらうためのものだ。


 【人形使い】の鍛錬は金になる。公園のような人通りが多いところでやるだけで、みんなは面白いモノが見れてハッピー、俺はお金がもらえてハッピー。

 誰も損しない、すばらしい世界だ。


 ちなみにおひねりを入れてもらう入れ物は2つ用意した。


 ぽいっと、銅貨がシュナイダー改の方の入れ物に入る。俺はそれを見てシュナイダー改に鋭いラッシュをかけさせた。そして、戦闘用シュナイダーはそれを受けて少しよろめく。

 そう、これは戦闘用シュナイダーとシュナイダー改で、よりおひねりが入った方が優勢になる演出だ。


 さらに動かしながら実況をはさむ。


「チビ選手がアッパーを……だがビッグシュナイダー選手、これをのけ反ってかわす!」

「巨体を生かしたのしかかりだー! だがチビ選手、這い出てきた! まだ勝負は分からない!」

「なんとぉ! チビ選手が俺を踏み台に駆け上がって……天高くドロップキーック!」


 シュナイダー改ことチビ選手がチャンピオンのビッグシュナイダー選手に挑んでいるという脳内設定。ローラに見られた『お人形遊び』と近しいものを感じなくもないが、観客が楽しんでいればそれで正解なのだ。


 これがなかなか盛り上がり、最終的にはどっちの入れ物にもいっぱい銅貨が入ったためクロスカウンターでダブルノックアウト――あ、改のリーチ足りない。キックキック――で引き分けとなった。


 お互いの健闘をたたえ合え、拳をもふんっとぶつける2匹。拍手喝采と共に、今日の人形劇は終了した。


 本日の報酬……倉庫整理:銅貨50枚。 人形劇:約銀貨1枚分。


「……うん、倉庫整理よりよっぽど稼げたな」


 やっぱり大道芸人が向いてるんだろうか俺。と、手慰みに銅貨を1枚ピンッとはじく。

 だがキャッチしようとして手が滑り、銅貨は植え込みの方に行ってしまった。

 あちゃぁ失敗。こりゃ取るのが面倒だ――


 ――俺は、クッキーズを出した。



 茂みの奥から先程俺が落としたのを含めて銅貨4枚を回収し、やっぱり【人形使い】って便利だな、と評価を改める俺であった。




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