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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

メビウスの果てに Side:A

作者: かっぱまき

 ――ボクは犯罪者だ。それもかなり凶悪な。

 何故なら、守るべき妹をこの手で刺してしまったのだから。


 あの日のことは今でも夢に見る。平凡な日常が呆気なく崩れ去った、あの悪夢のような日のことを。


Act:0


 当時、ボクは小学五年生だった。学校が少し離れたところにあったので、毎日自転車に乗って通っていた。

 帰るときに徒歩ではなく自転車というのは珍しく、周囲から羨ましげに見られていたのをよく覚えている。


 その日もいつものように羨望の眼差しに見送られながら帰路についた。

 ボクの家があるのは坂を上った先。大雨が降っても沈まないであろう代わりに、帰宅は一苦労だ。最後は大体自転車を下りてから押しての帰宅になる。


 そんなふうにして家に着いた時、ボクははっきりしたと違和感を覚えた。

 昔空き巣に入られて以来、いつでもしっかりと施錠されている筈の我が家の玄関扉が開け放たれていたのだ。

 嫌な予感を懐きつつも、扉に近付いて中を覗き込んだ。


「……っ!?」


 ボクは思わず溢れそうになった悲鳴を呑み込むだけで精一杯だった。

 見覚えのない男が母さんに向かって刃物を振り下ろそうとしていたのだ。


 全てがスローモーションに見えた。

 足が鉛のように重い。自転車で鍛えた脚力も何の役にも立たなかった。この時のボクは本当に無力なただの子供だった。


「止めろっ!!」


 父さんが叫びながら、刃物と母さんとの間に自分の身体を滑り込ませた。


 刹那、飛び散る紅。

 至近距離でその紅を浴びた母さんは、目を見開いて声にならない悲鳴を上げた。焦点の合わない目が激しく動くのがこの距離からでも分かった。

 男は父さんから無造作に刃物を抜くと、そのままそれを母さんに突き刺した。糸の切れた人形のように崩れ落ちる二つの身体。今の今まで動いていたとは思えないほど重さを感じさせない動作だった。


 母さんが倒れたことでその体の向こうに居たものの姿が見えた。ボクの大切な妹、香草かぐさ

 まだ小学二年生の香草は何が起こったのか理解できていないのだろう、一つ瞬きをしてから「え?」と零した。


「おとぉさん?」


 口から洩れた言葉に答える者は居ない。


「おかぁさん?」


 現実を否定するように、ぽつりと呟かれた声は何ももたらさずに空気に溶けた。

 男がその声に反応して香草の方を見た。今ボクが動かなければ、香草は数秒後にはただの肉塊になってしまうかもしれないというのに、やはりボクの身体はピクリとも動かなかった。


 いや、心の片隅では解っていたのだ。ボクが動いたところで何にもならないと。それを免罪符にボクは行動を放棄しかけた。

 その時、頭の中に声が響いた気がした。


 ――ボクがアイツだったら、今すぐ刺すのを止めることができるのに。


 後で思えば、その声は紛れもなくボク自身のものだった。きっと、その時にボクは願ってしまったのだ。


 振り上げられた刃物は、既に下降を始めていた。

 ボクは、男の目をじっと見つめた。何故だかこうするべきだと分かっていた。


 本来居るべきではないところに無理やり入り込むような不快感が体を襲ったが、目を閉じて全て気付かないふりをした。そこに居た存在が居なくなったことを自分のことのように感じた。

 目を開くと、恐怖の色を宿した香草の両の目が見えた。


「え?」


 その一音は、聞き覚えのある自分の声よりずいぶんと低いものだった。

 加速を始めていた刃物は簡単には止まらない。香草の存在に男は混乱していたのか、全力で振り下ろされていた腕はボクの意思を反映することはなかった。

 香草の口が、「おにぃちゃん」と動くのが見えた気がした。少し不思議なところのあった香草には、男を通して無力で醜いボクの姿が透けて見えていたのかもしれない。


 ――ザシュッ


 やわらかい肉を突き刺すような感覚が手に残っていた。場違いにも、母さんの手伝いで切った生の鶏肉を思い出した。

 頬に触れると、どろりとした感覚があった。



 それ以降のことはよく覚えていない。

 いつの間にかボクはボクに戻っていて、目の前には現実感のない紅が広がっていた。人間ってこんなにたくさんの血を内包していたんだな、とぼんやりと思った。



 遠くからパトカーのサイレンが聞こえた。

 一瞬誰が呼んだのかと思ったが、ボク以外にそれをできる人が居る筈もない。茫然自失の状態でもボクの脳は必要な働きをしたらしかった。

 だけど、それが何だか逆に自分の異常さを浮き彫りにしているように思えてならなかった。


 警察の人に「もう大丈夫だよ」って頭を撫でられた。

 何があったのか聞かれた時には、ボクの口はすらすらと嘘を紡いだ。


 ボクが帰宅した時にはもうみんな刺されていた。


 警察は特に疑う様子もなくもう一度頭を撫でて、三人を病院に運ぶから一緒に車に乗るように言ってきた。


 嘘を吐くことには抵抗がなかった。不思議な体験を隠すことにするのと同時に、もっと大きい罪を背負って生きていくことを決意したボクには些細なことに過ぎなかったから。


 警察がボクを逮捕することはないだろう。証拠だってない上に、一見哀れな被害者だ。

 それでも、ボクはボクを一生赦せないだろう。



 病院に運ばれた三人は奇跡的に命を繋がれた。一番危なかった香草は僅かに急所を外れていたらしい。

 しかし、それから一年が経っても彼らが目を開くことはなかった。


 あの悪夢から五年の月日が流れた。



 消えない感覚がボクを苛む。


Act:1


 浅い眠りから覚めたばかりの目を擦る。今日も気付いたら朝になっていた。寝た記憶は無いが、意識がない時間は眠れたのだろう。


 紅い記憶が繰り返し再生され、何処までが現実なのか分からなくなる。


 肌に貼りつく寝間着が気持ち悪かったので、直ぐに脱いで洗濯機に投げ込んだ。そのまま浴室に行き、嫌な汗をシャワーで押し流す。

 夢の続きでまだ手が汚れているような気がして強く擦った。皮膚が痛みを訴えるころになって、漸く満足できた。


 忘却とは人間の防衛本能だという話がある。嫌な記憶も忘れてしまえるから生きていけるのだと。

 しかし、ボクにはその本能が一向に訪れない。

 もし、これが神様によるボクへの罰だというなら、なかなか皮肉の効いたことをしてくれる。


 フッと小さく自嘲の笑みを溢した。鏡には微かに口角を吊り上げた冴えない少年が映り込んだ。

 この数年間、こんな表情ばかりしていたら普通の笑みを作れなくなった。

 寝不足による万年隈と相まって、大変近づき難い人間が形成された。


 あの時芽生えた力は、どうやら一般的に言うところの超能力、それも所謂憑依というものらしかった。何度か虫や動物相手に試して、約五分間相手と自分の五感を共有させる能力だと分かった。主導権は常に自分の方にあり、相手との相性やボクの体調によって共有時間は変動する。

 それから、発動条件は相手の目を見詰めること。よって、憑依するためには相手を視界に捉え、かつ向かい合っていなければならないという地味に制約の厳しい能力だった。



 あの事件のあとも、ボクはあまり変わらない生活を送ることが出来ている。

 ボクの母方の親戚にかなり優秀な実業家がいたので、両親や妹の医療費を出してくれることになったのだ。流石に中卒で働ける場所は限られてくるので、ボクもその人の厚意に甘えさせてもらって高校に通っているという現状だ。

 自分で稼げるようになったら、今まで出してもらった生活費と学費はなんとか返そうと思っている。



 制服に着替えて朝食を済ますと、荷物を持って家を出た。

 小さく呟いた「行ってきます」に答える者は今日もいない。



 いつも通りの通学路。高校は小学校より遠いいが、何となく自転車で通うのは疎まれて歩いていくことにしている。


 いつものように足元を見ながら歩いていると、靴の先に硬いものが当たった。追いかけてそれを拾い上げると、随分と年季の入ったカメラであることが分かった。

 蹴飛ばしたことで壊れていないか心配になり、電源を入れた。


【n=π20sinxsinn-1xdx=[-cosxsinn-1x]π20+(n-1)∫π20sinn-2xcos2xdx=(n-1)∫π20sinn-2x(1-sin2x)dx=-(n-1)In+(n-1)I-2In0π2sinxsinn1xdxcosxsinn1x0π210π2sinn2x2xdxn10π2sin2x1sin2xdxn1Inn1In2In=n-1nIn-2Inn1nIn2,nIn=n-1nIn-2=n-1nn-3n-2In-4=…=(n-1)!!n!!I1=(n-1)!!n!!Inn1nIn2n1nn3n2In4n1nI11n,nn In=n-1nIn-2=n-1nn-3n-2In-4=…=(n-1)!!n!!I0=π2(n-1)!!n!!】


 画面は真っ黒で、画像の代わりに何かの数式が白い文字で表示された。

 それを認識した途端に何倍にもなったような重力が身体にかかった。地面に吸い込まれるような感覚の後、ボクの意識は途絶えた。


 Retake:0


 目を開くと、何処か見覚えのある場所にいた。少し考えて、昔使っていた通学路の途中であることに思い至った。目の前にある家も記憶にある。

 この家はかなり昔からあるらしく趣があったので、幼い頃はお化け屋敷だと半ば本気で思っていた。


 その時、後方から自転車を漕ぐ音が聞こえてきた。微かに懐かしさを感じながら道の端に寄った。


「え……? ボク?」


 視界を通り過ぎていったのは、確かに五年前のボクだった。当時好んで着ていた服装だったので間違いない。


 暫し呆然とした後、ボクは弾かれたように走り出した。

 何故だか分からないがボクは過去に居るらしい。それも、ボクにとっては悪夢のあの日。証拠は何一つないが、今日がその日だという確信があった。

 ならば、あの忌まわしき過去を変えられるかもしれない。


 昔のボクとはいえ自転車なので、走って追い付くことは難しい。浅い眠りを繰り返した身体は思っていたよりも体力を失っていたらしく、直ぐに息が上がってしまった。肺が切り裂かれるような痛みが走る。


 だけど、ボクは知っている。

 目の前のボクがもうすぐ自転車をおりるということを。だから、そこまでに引き離され過ぎなければ、なんとか追い付けるだろうことを。



 ブレーキの音が響いて、遥か前方の自転車が止まった。ボクの予想と寸分違わぬ場所。ここからはきつい上り坂になっているのだ。


 自転車をおりたボクを駆け足で追いかける。

 声が届くくらいの距離になった時、前方に我が家が見えてきた。記憶と同じように扉が開いている。

 今すぐ家に駆け込みたい気持ちを抑えて、その時を待つ。

 ボクが動き回ることで、未来にどんな影響が出るか分からないのだ。過去のボク以外の人物に今のボクを見られるかもしれない行動は自重すべきだろう。


 目の前のボクが、開いた扉を不思議そうに見詰めながら家に近付いた。


伊草いぐさ、ちょっと待ったぁ!」


 ボクは過去のボクにだけ聞こえるだろう声量でボクらの名前を呼んだ。

 誰だって自分の名前を呼ばれれば振り返る。

 期待通りにこちらを向いたボクの目をじっと見詰めた。


 相性の問題か、全く抵抗なく憑依することが出来た。それも当然のことと言えよう。五年前とはいえ、確かに自分自身なのだから。

 乗っとる瞬間に、微かな声が聞こえた気がした。


 みんなをたすけて……。


 空耳かもしれないが、確かに聞こえた声に一つ頷くと、扉までの距離を一息につめた。背後で何かが落ちる音が響いた。

 ――カシャッ


 何処か既視感のある音と発光が起こったが振り返らない。

 現在よりも背も低く動きは鈍かったにも関わらず、あまり違和感はなかった。ボクの時間は、きっと五年前に止まってしまっていたのだろう。


 中を覗き込むと、あの時と同じ光景が繰り広げられていた。

 もうすぐ振り下ろされるであろう刃物と、その先にいる母さん。

 ボクは小柄な身体を活かしてするりと部屋の中に滑り込むと、男の正面に回り込んだ。

 計っていたわけではないが、そろそろ父さんが動くと感じた。その前に憑依を終えなければ!

 今までに憑依した状態で他の何かに移ったことは無かったが、出来るという確信があった。


 男の目を見詰めて憑依の成功を祈った。

 視界の端で、父さんの口が動くのが見えた。集中が極限まで高まり、その声は聞こえなかった。


 もう駄目かと思ったその時、ボクの視界がぐんと高くなった。

 それと同時に、ボクは意志力を総動員させて刃物を持つ右手を左手で抑え込み、静かに右手を開いた。


 カラン


 刃物が床に落ちる音を境に、世界に音が戻ってきた。

 険しい表情のまま何が起こったのか分からず固まっている両親を無視して、ボクは香草を捜す。彼女もあの時と同じで両親の後ろにいた。


「おにぃちゃん……?」


 香草の幼い声が聞こえた。彼女の目は確かにボクを見ていた。何故、彼女はボクを見付けられるのだろう。


 この時より更に幼い頃の情景が頭を過った。

 夕焼け色に染まる公園で、物陰に隠れたボクの肩を優しく叩く小さな手。


 そういえば、昔から、かくれんぼをした時に香草はボクを一番に見つけてくれたっけ。


 ボクは、香草を信じることにした。

 連続の憑依に五分の制約が適応されるとは限らない。あとどれだけボクが男の動きを制限出来るか分からない。


「香草、なわとびを持ってきて。出来るかな?」


 ついいつもの口調で言ってしまった。だが、そのお陰でボクだと確信できたらしく、香草はキリリとした表情で答えた。


「まかされたっ!」


 これは、香草のマイブームだった台詞だ。頼みごとにはなんでもこの返答だった。

 香草は階段を二段飛ばしで駆け上がると、子供部屋からなわとびを掴んで戻ってきた。その間にボクは台所に侵入してとあるものを失敬しおいた。


「香草、ボクはこれで自分の頭を叩くから直ぐになわとびでしっかり縛ってね。出来る?」


 香草はボクの右手に握られたフライパンを見て、にこりと笑った。


「まかされたっ!」



 そこからは早かった。

 フライパンを構えるボクと、漸く動き出した両親。

 父さんが香草を庇うように両手を広げた。確かに、香草の近くでフライパンを振り上げれば彼女を殴るように見えたかもしれない。

 しかし、ボクの狙いは自分の頭だ。邪魔する者のいない攻撃は鮮やかに決まった。

 脳が激しく揺さぶられる感覚とともに、ボクの意識は男から引き剥がされた。

 自分の身体に戻る前に、香草が父さんと協力してなわとびで男を縛るのと、母さんが電話のもとへ向かったのが見えた。


 事件の後で分かったことだが、この男はボクの家族を襲う前にも複数の人を刺していたらしいので、逮捕されれば二度と社会に出てくることはないだろう。



 Act:2


 あの時と同じように地面に吸い込まれるような感覚の後、ボクの世界は元に戻っていた。視界もいつもの高さに戻っている。

 辺りを見回すと、あちらに行く前にいた場所だと分かった。時計を確認してみたが、家を出た時から殆ど時間が経っていなかった。

 足元を見ると、いつの間にか手からなくなっていたカメラが落ちていた。覚えのない傷がついていたが、今度は警戒して電源には触れずに拾い上げた。

 やはりどう見ても普通のカメラだ。だが、あの不思議な体験をもたらしたのはきっとこのカメラなのだ。あれが現実にでも、ボクの希望が見せた幻想でも、確かにボクは救われた気がした。

 ボクは小さく「ありがとう」と呟いてカメラを蹴飛ばす前の位置に戻した。持ち主は分からないが、長居するのは得策ではないと思いすぐに踵を返した。


 眠りの浅さからすることもなくいつも早めに家を出るので、今日も無意味に早い時間に出歩いていた。先ほど確認した今の時刻を考えると、一度家に引き返す余裕は十分すぎるほどにある。

 どうせ、このまま学校に行ってもすることがない上に、今日の出来事が気になって何も手につかないことは分かりきっている。



「なんか無意味に緊張する……」


 玄関の前にたどり着いてから、ドアノブに手を伸ばしては止めるという動作を繰り返すこと五回、ボクは自分の根性の無さに呆れ果てていた。

 そして、そろそろご近所さんの目が痛くなってきたのも事実。

 ボクは両の目をぎゅっと瞑って扉を開けた。


「あらぁ、伊草どうしたのー?」

「何だ忘れものでもしたのか?」


 懐かしい声に涙が零れそうだった。

 でも、両親からすればボクが泣くのは可笑しな話だろうから、口を真一文字に結んで何とか耐えた。


「ああ、そうだわ。そろそろ香草が起きてくると思うから、どうせ戻ってきたならおはようって言ってあげて。最近お兄ちゃんが早く家を出ちゃうから挨拶できないってあの子拗ねていたわ」

「香草の寝坊癖は未だに治んないものな」


 父さんの言葉に、母さんがくすりと笑った。

 ちょうどその時、階段を駆け下りる足音が聞こえてきた。


「お寝坊姫の登場だわ」

「おかーさん、その呼び名やめてってば! お兄ちゃんもう出かけちゃった?」

「ふふふ、貴女がみんなと同じ時間に起きてくるようになったらやめてあげるわ。伊草ならまだ居るわよ」

「ほんと!? やったぁ!!」


 最後の一段をぴょんと飛び降りると、香草はボクの前に着地した。


「えへへ、今日は間に合った。お兄ちゃんおはよう!」

「うん。おはよう、香草」


 いつもの癖で頭を撫でたら、香草が「ふふ」と擽ったそうに笑った。


「お兄ちゃん、わたし、もう中学生だよ」

「あ、ごめんごめん」

「んふふ、お兄ちゃんに撫でてもらうの好きだからいいけどね」


 つい香草が小二の頃と同じように行動してしまう。気を付けないと。



「お兄ちゃん、そろそろ家でないとじゃない?」

「え、本当だ」


 思っていたよりも時間が経っていたらしい。学校が近い香草は大丈夫だが、ボクはそろそろ行かないと遅刻が危ぶまれる時刻だ。

 慌てて玄関に向かうボクに、両親から「いってらっしゃい」の声がかかった。その「あたりまえ」の喜びをかみしめる。


「行ってきます!」

「行ってらっしゃい!」


 玄関まで見送りにきた香草が言った。

 香草に手を振って応えてから扉に手をかけた。


「……それから、ただいま」


 閉まる扉の向こうに、笑みを浮かべる香草が見えた。


「おかえり」


 止まっていたボクの歯車が動き出す音が聞こえた。

 ……そんな気がした。



 Epilogue:?


 あれから、再び時が経ち、ボクは大学生になっていた。

 希望の大学に入学して、選んだ講義もおおむね面白い。一般的な幸せな人生といっていいだろう。


 そんな中、とある講義を受けた時に小さな事件が起きた。それをもたらしたのは、ボクの隣に座った見知らぬ男だった。彼はボクの顔を見て考え込んでいる様子だったので知り合いかとも思ったが、やはり見覚えはない。


『フライパンで自傷行為をした連続殺人犯に覚えはない?』


 突然視界に滑り込んできたルーズリーフに書かれた言葉に驚いた。


 結局、ボクの動揺を見逃さなかった彼によって、あの日のことを洗いざらい吐かされることになる。



 これが、生涯長い付き合いをしていくことになる凪との、ボクにとっての出会いだった。






(完)

 二つの視点から一つのストーリを書くという野望が達成できて、私は満足感でいっぱいです。ずっとやってみたかったんです。付き合ってくれた藍花ちゃんに感謝ですね。

 冒頭部分は作業時のBGMが原因で病み気味ですが、お気になさらないでください。


 因みに、この投稿は数日前にやる予定だったのですが、御子柴藍花さんとの都合が合わずに今日投稿することとなりました。漸く行えたとほっとしております。

 少々矛盾があるかもしれませんが、そこはスルーしていただけると嬉しいです。


 ここまで読んで下さりありがとうございました!

                                 かっぱまき

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