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超短編

寒空の下で。

作者: しおん

歌が降ってきた。

それは私の心に積もっていった。










指先も凍るような寒空の下、足早に帰るサラリーマンの合間を縫って私の耳に届いたのは、かすかな歌声。改札へと向いていた足は自然と止まり、音の方へと移っていた。


言葉もメロディーも放送や足音に(まぎ)れ、途切れ途切れにしか聞き取れない。普段ならば聞き逃してしまう。そんな些細なことであるはずなのに、今日はなぜだかその音が鮮明に聞き取れた。


足を動かすたび、だんだんと大きくなってゆくその音に私の胸も高鳴りをましていった。


アコースティックギターを鳴らし、懸命に歌うのは真面目そうな青年。


私は占いだとか運命だとか、そんな曖昧なものを信じない質の人間だ。でも、この時ばかりはそれを信じてみてもいいんじゃないかと思えた。それがまるで、こうなることが決まっていたかのように、私の人生の中にすっぽりと収まってしまったから。


音を生み出すたび、白さを増す息。冬の寒さが目に見えてわかる程に、ここは寒い。


それでも歌い続ける彼は、一体何をそんなに伝えたいというのだろう。


好きな人への思いを込めているのか、はたまた現実の非情さを嘆いているのか。それとも別の"何か"。

でも、そんなものはなんだっていい。私にはどうでもいい。


一つ一つ、音を紡いでゆくその姿に魅入ってしまったから。


ふぅ。


魂が抜けてしまうような、そんな体の奥底から息を吐き出した。夜風が身に染みる。


ああ、寒い。


私の心臓の律動がいつもより激しいのは、きっとそのせいだ。



読んでくださり、ありがとうございます。


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