初めての……
パンケーキを皿にのせて持ってきた槍が、雛紅とグランディの前にパンケーキを置く。
「はい、どーぞ」
「わぁ、美味しそう!」
パンケーキには生クリームとジャムがトロリとかけられ、その上にのっている艶々とした桑の実が食欲を誘っていた。
「今年、初めての桑の実を使ってジャムにしたのよ。今年も大豊作だったわ」
「いただきます」
雛紅は自分の身体ほどはあろうかというパンケーキに、小さなナイフとフォークを差し入れる。小さく切り分けるも、雛紅には十分大きなサイズのパンケーキを口に頬張った。
「ん〜ん。なめらかな甘さと爽やかな酸味が身体の疲れを癒すわ〜」
頬っぺたに手を当てて、雛紅はとろけそうな顔をした。
「喜んでもらえて何よりよ。頑張って収穫したかいがあったわ」
「ジャムも上手に作れたと思うの」
槍と椀と感想を話していた雛紅は、ふとグランディの方を見た。
グランディのパンケーキは、雛紅のパンケーキより大きめに作られていたが、グランディの前に置いてあると小さく見えた。
グランディはそれを四つに切り分け、ひょいぱくひょいぱくと口に入れていく。
雛紅の見ている前で、パンケーキはあっという間になくなってしまった。
「美味しかった。ごちそうさまでした」
グランディは両手を合わせてペコリと頭を下げる。
「何だか……」
他のパンケーキより小さいけれど、まだまだある雛紅のパンケーキ。
他のパンケーキより大きいけれど、あっという間になくなったグランディのパンケーキ。
雛紅は何度となく自分の身体が大きければと羨んできたが、ここに来るまでの道のり含め、大きいことがこんなに羨ましくないのは初めてだった。
「大きいっていうのも大変なのね」
雛紅はしみじみと思った。
「ん? どうしたの雛紅ちゃん?」
グランディが雛紅を見ながら首を傾げる。その口の端には生クリームが付いていた。
「口に付いているわよグランディ」
雛紅はポケットからハンカチを取り出し、両手をグランディに伸ばした。
それを見て、グランディは素直に顔を雛紅につき出す。
「よし。これでキレイになったわ」
雛紅は生クリームをキレイに拭き取った。
「今日、会ったばかりとは思えない仲の良さね」
雛紅とグランディのやり取りを見ていた槍が呟く。
「そんなこと――」
「だって友達になったんだもん」
雛紅の言葉に被せるように言ったグランディが、にっこり笑った。
「そうだよね! 雛紅ちゃん!」
先ほどは訂正した雛紅だったが、何故かもう否定する気にはならなかった。
「……そうね。友達だわ」
雛紅は新たな友達の顔を、笑って見返した。
end