乗った結果は始めから見えていた
「やっと着いたわ……」
あれから押し問答を繰り返した雛紅とグランディだったが、結局、雛紅が折れることとなった。
頭上がおろそかになりやすいグランディの頭の上は避け、雛紅は顔の真横で比較的安全そうなグランディの肩を選んだのだが、それでもグランディが葉の生い茂る枝の中に突入したりして、雛紅とグランディは葉っぱまみれのボロボロになっていた。
そもそもこの森じたいが、グランディのような大きな身体が歩くには、向いてないのである。枝の位置が低く、かき分けて進むこともあった。
「あ、いらっしゃーい」
大きな丸いテーブルに、数人のキノコの娘たちとともに座っている狐野の二人が、雛紅とグランディに声をかけた。 狐野はこげ茶の着物を白い紐でたすき掛けにし、袖を短くして着ていて、白い前掛けをしていた。お尻からは髪と同じキツネ色のふわふわした尻尾が生えている。
狐野の二人は服装も髪の色もつり目なのも同じで、親戚関係の二人だったが姉妹のように似ていた。
「今日は雛紅遅かったね」
乱れさせた髪を立ち上げ、手拭いで頭を覆った狐野槍が雛紅に話しかける。
雛紅は皆で集まる時は一番早く着くようにしていた。
というのも、大勢いる場所にあとから入ると、身体がちっちゃくて、いることに気付いてもらえないことが多々あったからだ。
「今日はグランディ早かったね」
槍の隣にいるおかっぱ頭を手拭いで覆った狐野椀が、グランディに話しかけた。
「それに、雛紅とグランディって友達だった? 一緒にいるの初めて見た」
狐野の二人が雛紅とグランディを交互に見る。
「いいえ、来る途中で合って一緒に来たの」
雛紅が疲れた顔で答えた。
「だよね。いつもお茶会の日は雛紅が帰ったあとにグランディが来ていたもんね」
雛紅は移動に時間がかかる為、他のキノコの娘より早く帰っていた。
「とりあえず座って座って」 そう促した槍は、立ち上がって後ろの台に向かう。台の上にはパンケーキやジャムが置かれていた。
雛紅は槍の隣にある雛紅専用の高めに積まれた箱の上に、グランディに下ろしてもらって座った。
他のキノコの娘は適当に座るが、小さくて埋もれやすい雛紅は、必ず主催者の隣に座っていた。グランディも他のキノコの娘に場所を開けてもらって、雛紅の隣に座布団を四枚繋げて敷いて座る。
座って一息吐き、雛紅はあることを考えていた。
「ねえ、グランディ」
「なあに、雛紅ちゃん」
「あなた今日は早めに家を出たの?」
今日は早かったと言われたグランディ。
雛紅は確かに早めに帰るが、それでもお茶会の後半でだ。雛紅とグランディは今まで一度も会っていないのだから、グランディは毎回遅刻で、しかもお茶会が終わりかけの時間に来ていたということになる。
「んーん。いつもと同じ時間に出たよ」
グランディは顔を大きく横に振った。
「今日は雛紅ちゃんが注意してくれたから、あまり転ばなかったし、ぶつからなかったし、スムーズにここに着けたよ」
「えっ……」
あれで『あまり』なのかと雛紅はゾッとする。
雛紅とグランディは両手じゃ足りないほど転んだりぶつかったりしてきた。
雛紅は気付くべきだったのだ。
身体のサイズから考えて、かなり歩幅の違うグランディと雛紅が、集合より早い時間で同じように集合場所へ向かっているおかしさに。
雛紅が身体が小さくて移動するのに時間がかかるのと同じように、グランディはそのドジさゆえに移動に時間がかかっていたのだ。
つまり、歩幅の大きなグランディに乗ろうが、着くのが遅くなるのは確定だったのである。
「高さと楽さにつられるんじゃなかったわ……」
雛紅は自分のうかつさを呪い、テーブルの上に半身を預け、思い切り脱力した。