どこかずれてる
雛紅はグランディの頭の上に乗るのにあたって、グランディといくつかの約束をした。
しゃがまない。
頭を下げない。
いきなり物を拾わない。
何かしたい時は雛紅に声をかける。
「これなら歩いて行った方が早かったわ」
グランディの頭の上で雛紅はため息を吐いた。
「えー! そんなこと言わずにお詫びさせてぇ」
グランディが情けない顔をする。
「はいはい。分かってるわよ。目的地までよろしくね」
雛紅はグランディの頭をポンポンと軽く叩いた。
グランディと約束する前に、雛紅は自分で歩いていくとグランディに言ったのだが、そこはグランディが頑として譲らなかった。
「さあ、出発!」
何度目かの出発の掛け声とともに、グランディは歩き出す。
雛紅は四つん這いになってグランディの髪の毛をしっかりと掴み、不意の滑り落ちに備えたが、今度は何事もなくスムーズに森の中を進んだ。
雛紅は安堵の息を吐き、四つん這いの体勢をやめて普通に座り直す。
グランディが前に進むたびに、風が雛紅を通り抜けた。
木々が初夏の日差しを遮り、森の中は涼しくて過ごしやすくあったが、適度に流れる風はまた別の心地よさがあった。
雛紅を乗せたグランディはズンズンと森の中を歩き続ける。
見晴らしの良さもさることながら、動かずして変わっていく景色もなかなか良いものだと雛紅が思った時だった。
グランディの背丈より少しだけ低い位置にあった枝に、グランディは避けることなく突っ込んだ。
枝にグランディの額が衝突し、その反動で雛紅はふっ飛ばされかけた。
枝が正面に見えたおかげで衝撃に構えることが出来たのだが、自分にぶつかるかもしれない枝がスピードを緩めずに迫ってくる光景は、雛紅の肝を潰すには十分だった。
あまりのことに声を失い、雛紅は目を見開いて固まっていた。
「痛たたた……」
茫然自失の雛紅とは違い、のんきな声音のグランディが額を擦る。
「うう。またやっちゃった……」
グランディの声に雛紅ははっとし、目をしばたたかせた。
「雛紅ちゃん痛くてもしゃがまなかったよ!」
グランディはどこか誇らしげに言うが、雛紅はそれどころではなかった。
「降りる!」
「え?」
「自分で歩いていく!」
「ええ?」
「こんなところに乗っていたら死んでしまう!」
雛紅はすぐに頭から降り始める。
「雛紅ちゃん待って! そんなこと言わずにお詫びさせて!」
「お詫びなんていらないわ!」
雛紅は叫んだ。すでにグランディの肩まで降りている。
「そんな! 後生だから〜!」
「遠慮させて頂きます!」
「嫌〜!」
この二人のやり取りはしばらく続き、結局、お茶会の時間には遅刻することとなった。