学ばないグランディ
グランディは雛紅に言われ、今度は木の幹がない場所で立ち、ぶつけずに立つことが出来た。
「そういえば、これから雛紅ちゃんはどこかに行くの?」
「ええ、そうよ。狐野さんのお茶会に呼ばれているの」
「そうなんだ! 私もそのお茶会に呼ばれているの! マントで足止めしてしまったお詫びに、私の頭に乗っていかない?」
雛紅は見上げていたグランディのさらに上を見る。
グランディの頭の上はかなり高そうだ。
その高さに雛紅の胸が少しときめく。
雛紅は地面にいると踏まれそうになったり、気付いてもらえないことが多いので、地面より高い位置にいるのが好きだった。
グランディの頭の上は高さが十分あり、見晴らしも良さそうだった。
それに、雛紅とグランディほどの身長差があれば、雛紅が歩いていくより早く着けそうだった。
しかし、一つ返事で返すわけにはいかない問題が、グランディにはある。
グランディの頭の上ということは、木の幹にぶつかったら確実に潰されるということだ。
「そうねぇ」
雛紅は周りを見た。
木からは少し離れたので、今はぶつけるような幹はない。
「……大丈夫そうね。では、グランディさんお願いするわ」
「どうぞどうぞ」
グランディがしゃがみ、雛紅はグランディの身体をトントンとかけ登り、頭の上に到着する。
グランディの頭は茶色いトゲだらけだったが、全てがただのくせ毛なので、座るのには邪魔にならなかった。それに、ふかふかの頭はまるで干したての布団のようで、座り心地が良かった。
「頭に乗れた?」
頭の上が見えないグランディが、雛紅に確認する。
「ええ、大丈夫よ」
「よーし、しゅっぱーつ!」
グランディが立ち上がろうとして、前傾姿勢になった。
「え、ちょっと!」
頭が下を向き、雛紅は頭の上から滑り落ちる。
「キャーーーッ!」
とっさに目の前にあったグランディの額から生えるツノを掴むが、柔らかくポロリと取れてしまった。
「キャーーーーーッ!」
そのことに驚き、雛紅はさらに悲鳴を上げる。
両手にグランディのツノを持ちながら、雛紅はそのまま転がり落ちたが、地面にぶつかるギリギリのところでグランディが両手で救い上げた。
「ツ、ツノ! ツノが!」
雛紅は頭から落ちたことよりも、グランディから取れたツノにいっぱいいっぱいになっていた。
震える両手のツノを見ながら、雛紅は大きな瞳をさらに大きくして引きつった顔をしていた。
「ごめんなさい。大丈夫?」
グランディはツノのことにお構い無しで、雛紅の心配をしている。
「ツノが!」
雛紅はグランディにツノを持った手を突き出した。
「ツノは大丈夫だよ。このツノって簡単に取れるようになっていて、取れても痛くないの。しかもすぐ生えるから取り放題だよ」
「取り、放題……」
身体の一部に対して言うには相応しくない言葉で、そのおかしさが逆に雛紅を落ち着ける。
「驚いたわ……」
雛紅は息を吐き、固くなっていた身体から力を抜いた。
「さあ、今度こそ出発!」
グランディは雛紅をヒョイとつまみ上げ、頭の上に乗せるとまた前傾姿勢で立ち上がろうとした。
「ちょっと、グランディ!」
雛紅は思わず呼び捨てで叫んでいたが、後でそれに気が付いた時、さん付けで呼ばなくてもいいかと思い直した。