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神楽木さんちの中休め

作者: 広野狼

 とあるおうちの三姉妹。

姉は才色兼備と名高く、お淑やかでご近所の評判も良い。学校での評判など言うまでもないだろう。

末の妹は、少しばかり粗忽なところもある物の、愛らしい容姿と明るい性格で、いつでも話題の中心だ。

そんな評判の長女と末娘。となれば、真ん中の娘はいかほどのものかと思う物である。

真ん中。次女の評判であるが。

何となくぱっとしない。どうも垢抜けない。悪い子じゃないんだけどね。

どうにも、評判は今一つ。

こっそり言われているのは。


 神楽木さんちの中休め


上と下の評判が評判なだけに、どうにも、ちょっと中休みをしてしまった感が否めないと言うことらしい。

もっとも、言われている当人は、あまり気にした風もなく、飄々としている。

これで、両親がよくできていて、分け隔てなく育てていれば、姉妹の仲もよろしく、円満な家庭であったのだろうが、残念なことに、両親は、あからさまに態度を変えた。

それを見ていれば、姉と妹も真ん中の娘をそのように扱うものだ。

かくて、孤立した真ん中の娘は、今日、晴れてこの家を出ることにしたのであった。



 あからさまに態度を変えられ、差を付けられ。

普通の子供であれば、両親の気を引きたくて、何かしら歪んだ性格になりそうなものであったが、幸いといって良いのか、真ん中の娘は、少しばかり前の記憶という物があった。

お陰で、なんとなく、両親と言えども人の子であるわけだし、自尊心を満足させてくれる上と下を贔屓するのは、致し方ないのかもなと、自我の芽生えた頃、既に、そう達観をしていた。

 「えっと、お父さん。お母さん。そして、お姉ちゃん。妹。本日をもって、私、この家を出ることにいたしました」

まあ、それでも面白く無いものは面白くないわけで、中学の義務教育を終えた、卒業式の翌日。

父親にあわせ、朝食を取るために食卓を囲んでいた家族に対して、そう言った。

 「なにをバカなことを」

お話にならないと、父親は鼻で笑うと食事を続けようとしたが、真ん中の娘の出で立ちを見て、箸を止める。

出ると言った言葉に偽りがないといった出で立ちだったのだ。

まあ、もっとも、持っているのはボストンバッグ一つ。ちょっと一泊の旅行にでもいった風体ではあったが。

 「まあ、法律的にはなかなかにアウトですが、住む場所なども既に購入済みですし、高校も、大学まで一貫の所に既に入学をしました。そこでとりあえず、大学まで過ごせば、成人もしますので、ここにご迷惑を掛けることはないかと。あとは、個人的には、勘当していただけると大変助かります。贈与などの権利を全て放棄したいので」

高校の入学等、娘が何も言い出しもしなかったのでそのまま放置をしていた両親は、娘が何を言っているのかが分からないといった顔をしていた。

けれども、なんとか正気を取り戻した母親がぽつりと呟く。

 「何処にそんなお金」

真ん中の娘に渡していたお小遣いなど微々たるものだ。窓気の小学生ですらもっと貰っているだろうという金額しか与えて居なかったことを母親が一番知っている。

ぱっとしない中の娘に金を使うより、上と下の娘にお金を掛けたのだから。

 「いやだな。お母さん。お小遣いが欲しかったら自分でなんとかしなさいって言ったのはお母さんじゃないですか」

にっこりと娘は笑う。

何をどうしたとは言わないけれど、何かをどうにかしてお金を工面したのだと言うことは分かった。

 「まさか」

ざっと青ざめた顔をした父親の顔を見て、中の娘はせせら笑うような顔をした。

 「家のお金には手は付けてないので、安心してください。お父さん。だいたい、流石に他人の預貯金はどうにもできませんよ。まあ、判子の場所くらい知ってますけど」

どうとでもできたがやらなかったと、言外に言うと。

 「じゃあ」

不安げな顔をして、母親が見詰めている。

 「どうしたと思いますか?」

にんまりと笑う。

さて、中学生がで切るお金をどうにかする手段など、大人が考え得る限りではろくでもない犯罪にしか辿り着かない。

中の娘の両親も、そこに思い至ったようだ。

 「勘当だっ。出て行けっ。面汚しっ」

ガシャンと茶碗やら何やらを巻き散らかして、父親が狂ったように叫んだ。

 「じゃあ、一応念書を」

そう言って一枚の紙を取り出す。

 「まあ、あんまりこういうの法的には効果はないですが、拇印まで押してあれば、そこそこ平気かと思うので。そのうち、ちゃんとした書面を作るかも知れませんが」

そう言って、取り出した紙には、双方、何があっても関与しないというものだった。

利益も不利益も、互いに関与しないという文書に、父親はぶつぶつと言いながら名前を書き込み、拇印を押した。

 「ああ。ついでにみんなの分も」

残りの三人分も書名と母音を貰うと、中の娘はにっこりと笑った。

 「これで、晴れて私たちは他人と言うことで。今までお世話になりました」

ぺこりと、娘は頭を下げると、悠然と家を出た。



 「よっしゃっ」

ガッツポーズを作ると、中の娘、本名、神楽木花は、やっと、家から抜け出すことに成功をした。

未成年であることを偽って、マンションなどを一括で購入しているので、実にアウトではあるのだが、お金に関しては、両親が勘ぐったような非合法ではない。

最初はちょっとした小遣い稼ぎで、大人相手に予想屋をしていたのだ。

過去の出来事と株価の動向を丸暗記した上で、現状を加味した予測をする。多少の誤差や読み違いは在るものの、大もうけや、ハイリスクハイリターンを狙わなければ、そこそこ儲かると言った感じで、ちょっとした小遣い稼ぎになっていたのだ。

それを可能にする完全記憶能力。家族にも、誰にも教えることのなかった、花の生まれ持ったもの。全てを写真のように記憶するために、初めの頃は、なかなかに苦労したものだが、記憶能力の法則さえ分かってしまえば、どのように記憶し、それを分かりやすく分類するかというのは簡単だった。

 「今はネットが普及していて、年齢なんて幾らでも詐称できるから楽だよね」

ある程度の纏まったお金とコネさえあれば、たいがいはなんとか出来るというのが、恐ろしいところではあるが。

 ボストンバッグ一つをぶらぶらとさせながら、花が駅へ向かっていると、見知った顔がひょっこりと現れた。

 「あっれー? 花じゃん」

 「こんな時間にアンタの方こそ珍しい。まだ、太陽登ってるよ」

はながビックリとした顔をして見た男。まだ青年と言った年若い男ではあるのだが、到底、定職に就いているとは思えない姿をしている。スエットの上下。だぼっとしたそれをだらしなく着こなし、髪は手ぐしでなんとなくなでつけてみました程度のぼさぼさ。

 「そりゃあ、ボクはニートやってますけどね。夜行性ではないんですよ」

そうは言っても、昼間に出歩くことは殆どないのは、やはり人目を気にしているからだろう。

 「威張れないでしょ。優兄ちゃん」

呆れたように花が言うと、優は少し困ったような顔をする。

 「まあね。そろそろボクも潮時かなっては思ってるし」

働くことがいやというわけではないのだと、そんな風に言ってはみるものの、今更定職に就けるとは、優自身思ってはいないのだろう。

 「そいや、優兄ちゃん、成人はしてるんだよね」

 「まあ、成人はね」

二十と少し。高校を中退してしまったが為に、引きこもり歴は長いが、年齢はそう言っているわけではない。

 「じゃあさ。優兄ちゃん、私に雇われない?」

 「え? 花に?」

何を言っているのかという顔をしたが、すぐに思い至った。

 「ああ。とうとう家出たのか」

 「そう。優兄ちゃんちで、パソコン貸して貰えて本当助かってたし。恩返しも兼ねてと、私の生活のため」

きっぱりと利己利益だという花に、優は笑う。

初めて会ったのは、優が引きこもりをはじめる少し前。まだ小学生だった花に、いじめられているところを見られたのが出会いだった。

 「相変らずだな。花は」

優を助けたのは、優のためじゃないのだとそう言った。


 「知ってる? 情けは人のためならずって」


小学生の花がそう言って、にっと笑ったのが大変印象的だったのを、優は今でも覚えている。

 「良いよ。どうせ定職にも就いてないし」

へらりと笑う優に、花は少しばかり微妙な顔をした。

 「優兄ちゃん。人生かかってることは少しは考えた方がいいよ」

もう少し先行きに不安を感じた方がいいと、逆に助言を加えだした花に、優はケラケラと楽しそうに笑った。

 「考えてるって。花。知ってるか。どん底まで落ちたらあとは這い上がるだけで良いんだぞ。どうだ、凄い楽だろ」

 「いつになく、優兄ちゃんがポジティブだ」

決してネガティブな性格だったわけではないが、今まで付き合ってきて、花が初めて見るポジティブすぎる優であったため、一体何があったのかと思ってしまう。

けれども、笑っている優は楽しそうで、花は、利用することに引け目を感じなくても良いかと思う。

 「で、ボクは、花の代わりに何をするの?」

先読みをした優の言葉に、花は目をぱちくりとさせる。

 「まあ、おいおい。かな」

成人した人間を立てた方が何かと簡単に事は進む。そういう意味で、優は信頼に足る人物だ。

もっとも、この先どうなるかは分からないが。

 「んー」

突然唸りだした優に、花は内心おどおどとしながら、優の出方を待つ。

 「人間って言うのはさ、信頼と信用だと思うわけだよ。でも、適当な口約束とかじゃ信用できないだろう。というわけで、ボクは、今この瞬間からの一生を花と一緒に過ごすことを誓います」

左手を胸に宛て、右手を挙げて宣誓をした優に、花は面食らった顔をしたが、次の瞬間弾かれたように笑い出した。

 「一生って。それ、まるでプロポーズじゃん」

 「えー。それでも良いけど」

 「私まだ婚約も出来ないよ」

出来たとしても、両親の同意が得られないため、どちらにしろ、結婚できる年齢になるまで何も出来ない。

 「別にそういうのは、そうしたくなったらで良いじゃんか。花がボクを捨てるって言う選択肢だってあるんだし」

 「ああ」

言われて初めてそのことに気が付いたという態度の花に、優はまたケラケラと笑う。

 「で、これから一緒に行った方がいいの?」

ボストンバッグを指さして、優が訊ねると、花は少し考え込むようにしてから、口を開く。

 「あっ。そっかー。部屋は余ってるし、食事作れるなら、優兄ちゃん来ても良いよ」

 「清々しいまでにおさんどん目的」

ショックだと言わんばかりの優の大袈裟な態度に、花はしれっと言い切った。

 「学生の本分は学業ですから。その間、家のこと全部やってくれると大変嬉しいな。優兄ちゃん」

大学卒業まで、家事その他を一手に引き受けろという圧力に、優は苦笑を浮かべて屈することにした。

 「はいはい。美味しくなくても文句言わないならね」

 「初めは妥協するけど、向上を求める」

びしりと指を差してそう言う花に、優はクスクスと笑う。

 「洗濯は流石に、自分の分は洗いなよ」

 「ああ。うん」

なんと言ってもこれから思春期を迎える女の子の下着などは優も洗いたくない。花もそこに気が付いたようで、濁しながら頷いた。

 「一緒に暮らすなら、追々色々と決めてこう。でも、ボクから一つだけね」

笑ったまま優は花を見る。

 「喧嘩を怖がって、言葉を飲み込むのは止めよう」

何かあったら、まず言葉にしようと優は言う。

 「そんなの当たり前だよ。言わなくても分かるとか、血の繋がった家族だって、甘えだもん」

 「よし。じゃあ、準備するから、ボクんち行こうか」

 「流石に着の身着のままの優兄ちゃん連れて行くと、誘拐にしか見えないしね」

どっちがどっちとは言わず、したり顔の花に、優は何とも言えない顔をしてから、手を差し伸べる。

 「手早くちゃっちゃとね。欲しいものあったら取りに帰れば良いわけだし」

バシンといい音をさせて、花は優の差しだした手を取った。

痛みに優が顔をしかめたが全くお構いなしで、大きく手を揺らす。

 「そうだね。とりあえず花くらい身軽で行くか」

 「そうそう。面倒くさくて重い物は一端置いて行ってさ」

そんなことを話しながら。





 「いやいや、やっぱり、こういうのはきちんとしておいて正解だったよね」

花が学生のうちに起業をし、一躍時の人となった途端だった。我が物顔でやってきた家族に対して、花は、きっぱりと他人だと言い切ったのだ。


 近所で評判のよくできた上の娘。ちやほやとされ、両親にも怒られたことなどなかった娘は、見事なまでに高慢な人間になっていた。卒業と同時に上の娘も家を出たが、挫折を知らない娘は、外に出て初めて、順風満帆と思える人生をこぎ出したように見えたが、些細なことを注意される日々に、むしゃくしゃとして、甘い言葉を囁く男に簡単に引っかかり、多額の借金と共に家に帰ってきた。

そんな金は払えるはずもなく、娘の借金を一緒に返済する羽目になった両親は、下の娘に期待を寄せる。

 人当たりの良い下の娘。評判の可愛い娘は、結局、甘やかされ世間知らずだった。

玉の輿にでも乗ってくれればと、一縷の望みを掛けていたようだったが、下の娘も、上の娘と似たり寄ったりの結果に。

更に、子供を作って、働かない男が増えただけ。

両親が幸せだったのは、娘達が学生だった間だけだった。

そんなときだ。

中学の時に家を出て行ってしまった中の娘が成功したと知ったのは。

借金を肩代わりしてくれはしないかと、金の無心に行けばけんもほろろと追い返される。

 「何て恩知らずなのっ」

母親がそう言って、中の娘を睨付ける。

 「そんな子に育てた覚えはないぞ」

父親もそう言って、中の娘を睨付けた。

 「いや、まず育てられてないし。食事与えてほっとけば育てたって言うんだったら、まあ、そうね。育てては貰ったかな。でも、教育はされてないし。恩を感じるようなこと、やってた記憶があるなら、逆に教えて欲しいな。雨風凌げる屋根の下に置いていてくれた以外で」

中の娘の言葉に、両親は、ぐっと言葉を詰まらせる。

 「あっきれた。とっさに出てくる物もないのか。まあ、どっちにしても、ちゃんと文書も交わしたじゃない。法的にも有効なのをさ。今後一切、互いの利益不利益を被らないって。借金できても無心に来んな。犯罪犯しても家は一切関係ないって捨て台詞吐いてさ。でもまあ、育てて貰った分くらいは返してもいいよっていったところを、お前とはもう家族ではないし、餞別としてくれてやるって、とっても偉そうに言ったじゃない」

 「でも」

二人は声を揃えて言った。あの時と今とでは状況が違う。

中の娘の借金や犯罪には巻き込まれたくはないが、家族であったのだから両親が困ったときは助けてくれて当たり前だという高慢な態度が見て取れて、中の娘は呆れた顔をした。

 「家族じゃないんでしょう。私、私が記憶している限り、家族だって思ったことないよ。

その証拠に、私、残念なことに、名字以外、みんなの名前覚えてないんだよね。あなた方も一緒でしょう」

 「そんなこと」

あるはずがないと、奇妙な笑みを作る両親に対して、中の娘は、慈愛を感じさせるような笑みを浮かべた。

 「いやいや。私、色んな所に名前だけは出てたよ。探せばね。でも、顔を出した記事を見て、初めてここに来たよね」

それは覚えていなかったって言うことでしょうと、中の娘は笑みを絶やさずに言った。

 「さて、お客様でいる間に帰ってくれないかな。いい加減にしないと、犯罪者として出て行って貰うことになるんだけど」

両親は、中の娘を睨みながら、けたたましい音をさせて出て行った。

 「子供がステータスでしかない親から、まともな子供が育つはずないじゃないか」

呆れた顔をしながら、両親の出て行った扉を眺める。少しくらいは、良心みたいなものが痛むかと思ったが、全くもって何の感慨もない。

姉と妹に関してくらいはとも思ったのだが、残念なことに、微々たる小遣いすら巻き上げられ、にっこりと笑って。

 「私たちに使われる方がお金だって嬉しいと思うの」

と言った姉妹に対しては、やっぱり、同情もなかった。

そのくせ外では、仲良し姉妹を演じたがるので、本当に苦痛だったのだ。

二人でも姉妹だから二人で頑張っていろと言いたかったが、残念なことに小学生の時はそうもいかなかった。三人揃ってしまう時期がどうしてもあったからだ。

 「外面だけは取り繕いたい人たちだったからな」

そう言う意味で、花という存在は好都合だったのだろう。

家の中で、鬱憤を晴らす格好の存在。家の中は無法地帯と一緒だった。人には言えない自慢。人前では言えない蔑み。それを満足させるための生け贄。

 「普通の子供なら、おかしくなってただろうな」

ほんの少しであったが、前世と言える記憶があった為、生きる手段に関して、花は困らなかった。

 「小学生から株とか、まあ、この記憶がなきゃ思いつきもしなかっただろうな」

 金があれば、自由が買える。

前世の自分は、そういうことを考えるタイプだったらしい。

お陰で、こうして生活が出来ているのだから、文句はないが。

 「いやいや、前世も今世も、なかなかに色んな縁が薄そうで」

そう一人呟いて花は寂しそうに笑った。

 「花」

 「あ。優兄ちゃん」

 「煩いのは帰ったの?」

 「帰って頂きましたよ。恨み節が聞こえてきそうな目で睨まれたけどね」

 「そっかー」

ぽんぽんと、頭を叩かれ、花は瞳を閉じる。

さて、この縁は何処まで続くのやらと。

 「そう。花、今日、誕生日だよね。はい、これ」

そう言って、差し出されたのはぺらりとした紙切れ。

茶色で縁取られた。

 「うぇ?」

思わず変な声が出る。

 「えー。そう言う反応?」

拗ねたような顔をする優に、花は一体何と言って良いのかと、目を白黒とさせる。

出会ってから今まで、こうやって花の調子を崩すのは優しかいない。

 「いやいや。だって、脈絡というか、その」

 「プロポーズはもうしたし」

 「え?」

 「プロポーズみたいだって言ったの花だし。ほら、あとは花のサインのみです」

したり顔で婚姻届を突きつける優に、花はとうとう笑い出す。

 「あー。もう、最高の誕生日プレゼントですよ。優兄ちゃん」

 「まあ、こんな紙切れで、ボクらの関係は言い表せないけど」

 「そうだね。でも、まあ、いずれはこう言う関係も良いかもね」

そう言うと、花は、優から婚姻届をひったくるようにして受け取り、綺麗に小さく畳むと、鍵のかかる引き出しにしまってしまう。

 「保留にされたっ」

 「人生はまだまだこれからだし」

 「まあね。では、プレゼントの方が先になっちゃったけど。お誕生日おめでとう。花」

 「ありがとう」

嬉しそうに笑う花に、優も笑みを返す。

二人の関係は、まだ、明確な言葉がつかないまま。

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[一言] 緑の紙は離婚届では?
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