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Dream.15 造られた獏 〈2〉

 圧倒的な獏の力で無数の夢屑を掃討した灯子と硝子の前に姿を現したのは、晃由であった。

「うわっちゃ~、派手にやったねぇ。灯子ちゃん。後で日の出の連中、大慌てだろうなぁ」

「晃由君」

 灯子が叩き斬った屋敷の残骸を眺める晃由を見つめながら、硝子が表情を曇らせる。

「人工的に造られた獏? それってどういう」

「“五段雷”!」

 硝子が少し体を前に出して晃由へと問いかけを向けようとしたその時、硝子の上方から五つの朝力の塊が降り注ぐ。

 上空を見上げ険しい表情を見せた硝子の前へと、水無月が素早く回り込んで右手を掲げた。

「夜よ、帳を下ろせ」

 水無月の額の印が輝くと、水無月と硝子の上方に夜力が黒いカーテンのように現れて、降り注いできた朝力の塊をすべて弾き飛ばした。

 朝力を防いだ水無月がすぐに顔を下ろし、晃由の右方へと右手を向ける。

「“月光”」

 水無月の放った夜力の一閃が晃由のすぐ横を通り抜け、さらに後方へと駆け抜けていく。

「帳を下ろして、メイ!」

 愛らしい声に反応するように土の中から突如として現れた、頭はワニ、胴体はモグラの異形の金獣が、鋭い牙の生えた口を大きく開いて黒光を放ち、先程の水無月とまったく同じ夜力の壁を作り上げて、水無月の放った夜力を吸収する。

 獣が発したその光りに、水無月が眉をひそめる。

「夜力を?」

「勝手に先行かないでよ、晃!」

 水無月が困惑の表情を見せる中、ワニモグラ“明”の頭の上に乗るようにして硝子たちの前に姿を現したのは盟莎であった。盟莎はどこか怒ったような表情を晃由へと向けている。

「何だ、あいつは。日の出の獏か?」

「ううん」

 警戒するように構える灯子の後ろで、硝子がそっと首を横に振る。

「さっき、あの子が使ったのは確かに夜力だったよ」

「夜力? だが、あの獣の姿は輝や燈と同じ……、ん?」

 再び明の方を見た灯子が眉をひそめる。完全に土の中から姿を見せた盟莎の明は、先程までは確かに金一色だったが、今は金と銀が混じり合ったような不思議な色を見せている。

「何だ? あの姿は」

「聞いたことがある」

 戸惑う硝子と灯子へと、水無月が声を挟む。

「光りの神子に対し、生まれる従獏は一人。だが十年程前、不慮の事故で獏を失った日の出は、昼力という朝力とも夜力とも違う力を使って人工的に獏を生み出すことに成功したと」

「昼力?」

「何だ、それは」

「それ以上のことは、僕も」

 鋭く問いかける灯子に、水無月が少し困ったように言葉を濁す。

「朝と夜、両方を使えるあの子のあの力が昼力ってこと?」

「恐らくは」

 頷く水無月に、硝子が考え込むような表情を見せる。

「獏飼い部隊整える前に勝手に出て行っちゃうんだから、もうっ」

「いやぁ~、皆が来る前に硝子ちゃんたちとちょっとお話でもって思ってたんだけどよぉ」

「話って何?」

 すぐさま聞き返す盟莎に、晃由が思わず言葉を詰まらせる。すぐに答えようとしない晃由に、盟莎は不満げに表情をしかめた。

「晃。私ね、お兄ちゃんを悲しませるようなことしたら、いくら晃だって許さないから」

 責めるような盟莎の視線から逃げるように、晃由がそっと俯く。頷きすら返さない晃由に盟莎は相変わらず不満そうな表情を見せたが、すぐにその鋭い視線の先を灯子の隣に立つ燈へと移した。

「あれが、本物の日の出の獏」

「お、おいっ、盟莎」

 どこか恨みでもこもったようにそう呟きを落とす盟莎に、晃由が慌てて顔を上げる。

「他の皆が来るまで、晃は月の出の神子を。日の出の獏の相手は私がするから」

「盟莎、灯子ちゃんはまだ日の出の獏のことは何もっ」

「お兄ちゃんを悲しませるものを、私は絶対に許さない。“明”!」

 晃由の言葉を聞く耳も持たずに、盟莎の乗った明は勢いよく燈へとぶつかっていった。

「燈! クソっ」

 明に押され、その場から遠ざかっていく燈の方を振り向き、灯子が少し焦った表情を見せる。

「私は燈を追いかける! 水無月、硝子に怪我一つでもさせてみろ、ぶった斬るからな!」

「わかってるよ」

 脅迫とも取れる灯子の言葉に、水無月が疲れたように肩を落としながら頷く。

「燈っ」

「灯子ちゃんっ」

 燈と明を追いかけるために一歩足を踏み出した灯子の、すぐ前へと駆け込んでいく晃由。晃由はすぐに灯子の耳元に口を寄せると、近くに居る硝子と水無月にも聞こえないような小声で何がしかの言葉を灯子へと向けた。

 言葉を向けられた灯子は一瞬眉をひそめたが、すぐに晃由から視線を逸らすと燈を追いかけてその場を駆け去っていった。

「ふぅっ」

「晃由君」

 一息ついた晃由へと、硝子が改めて声を掛ける。

「やぁ、硝子ちゃんに優等生クン。遠いのにこんなところまでわざわざ、ご苦労さん」

「晃由君、あの、さっきの話の続きなんだけど」

「悪いんだけど」

 硝子の言葉を遮って、晃由がいつになく低い声を発する。

「帰ってもらえるかな? 今すぐに」

「……っ!」

 そっと微笑んだ晃由の後方で、輝が金一色だったその体を明と同じ金と銀の混ざり合った体へと変化させる。その変化に大きく目を見張る硝子。何度も共に戦ってきた硝子だが、金から色を変えた輝を見るのは初めてのことであった。

「その、色は」

「昼力」

 動揺する硝子の横で、水無月が鋭い表情を見せる。

「成程な。日下部の本物の獏は浅見灯子で、お前は日の出が十年前に生み出したという昼力を持つ人工的な獏、ということか」

「ご名答」

「そういうことか。ようやく見えて来たよ、今回のこの騒動の全貌が」

「水無月君?」

 まったく話に付いていけていない硝子が、戸惑いの表情を水無月へと向ける。

「これは、人工的に造られた獏たちが起こした日の出への反乱。目的は日の出の権力か、単純に日の出への復讐といったところか」

「ああ」

 水無月が立てた予想を、晃由があっさりと認めるように頷く。

「復讐って、どうしてそんなっ」

「望んでもいないのに、獏飼いにされたからだよ」

 批判するように声を発した硝子へと、強い口調で答えたのは水無月ではなく晃由だった。

「獏飼いに、された?」

「そう。十年前、日の出はある出来事で、じき日の出一族の当主である日の出の神子の従獏を失った」

 聞き返した硝子に、晃由が落ち着き払った声を放つ。

「焦った日の出一族は、何とか人工的に獏を生み出せないかと考えた。そして思いついたのが、人の夢を呑み込んだ夢喰ゆめばみに強い朝力を与えて、無理やり獏化させる実験だった」

 晃由が告げた事実に、硝子と水無月が一気に険しい表情となる。

「対象は十歳以下の子供。子供の方が夢が変化しやすいから、夢喰も形を変えやすいんじゃないかって考えだったらしい」

 言葉を続けながら、晃由が少し自嘲するような笑みを浮かべる。

「代々日の出に仕える従者一家の中から、十歳以下の子供が選ばれて獏化実験を受けさせられたよ。俺やさっきの盟莎もその一人だった」

 晃由がゆっくりと視線を動かし、すぐ後方に立つ輝を見上げる。

「その実験で俺の夢喰は見事に獏化。そうして生まれたのが、この輝だ」

 言葉を続けながら、晃由がとても大事そうに輝の耳を撫でる。

「つまり、輝は俺の夢そのものってわけ。まぁ日の出に形は変えられちまったけどな」

「晃由君」

 輝を愛おしそうに撫でる晃由の姿を見つめながら、硝子が険しく眉をひそめる。輝を大事にする晃由のその姿はどこか、他人により勝手に形を変えられてしまった自身の夢を追い求めているようにも見えた。

「夜力により生み出された夢喰に朝力を与えることで生まれた獏。だから朝力と夜力、両方の力を使えるということか」

「ああ。朝と夜の間だから“昼力”とかって、日の出の爺共は得意げに命名してたけどね」

 水無月の言葉に頷いた晃由が皮肉ったような笑みを見せる。

「そうして生み出された俺たちは、従獏として日の出の神子に与えられた。俺は朝海の従獏に、俺の親友が、じき日の出当主の神子の従獏になった」

「日の出の獏化実験は成功したんだな」

「まぁ本来の獏に近い力を持つことが出来たのは明だけだったけどな。輝も朝力が中途半端なせいで、夜力を喰らうだけで燈みたいに夢喰を完全に倒すことまでは出来ねぇし」


――――俺も、中途半端な神子だから――――


 輝の大きな耳を撫でながら、かつて掛けられた言葉を思い出した晃由が穏やかに笑みを零す。

「この十年間、日の出は“生み出してやったんだ”って偉そうに俺たちの力を使い続けて、“所詮は人工物か”って偉そうに俺たちを罵り続けた」

 長かった日々を振り返るように、晃由が高々と暗く染まった空を見上げる。

「俺たちの人生狂わせといて、随分と勝手なもんだ」

「だから日の出に復讐を?」

「ああ。いつまでも偉そうに踏ん反り返ってる奴等を一回、痛い目に遭わせてやりたくてね」

 水無月の問いに答える晃由を見つめながら、硝子が険しい表情を見せる。

「日下部君も?」

 硝子が向けた問いに、晃由がゆっくりと顔を下ろす。

「日下部君のことも痛い目に遭わせてやりたいって、そう思ってたってこと?」

 真剣な表情で硝子がまっすぐに晃由へと問いかける。

「ずっとそう思いながら、今まで日下部君と一緒に戦ってきたってこと?」

 硝子から向けられる問いかけに、少し困ったように笑みを零す晃由。

「そんな風に聞かないでよ、硝子ちゃん。俺もう、迷いたくないんだ」

「晃由君」

「晃由!」

 硝子の呼びかけを掻き消すように、幾つもの晃由を呼ぶ声がやって来る。声と共にその場に姿を見せたのは五匹の輝と同じ金と銀の光りの獣であった。それぞれに異形の姿を見せた獣の上には、晃由と同じ年頃の若者が乗っている。皆、日の出により人工的に生み出された獏飼いであろう。

「ここ任せていいか? 俺やっぱ盟治の手伝いに行ってくるわ」

「ああ、わかった」

 合流した獏飼いの一人にそう言って、晃由が輝の背の上へと飛び乗る。晃由が背に乗ると、輝は大きく耳を広げてその場から飛び上がる準備を整えた。その輝の動きに気付き、硝子が慌てて身を乗り出す。

「待って、待って晃由君!」

 上空へと舞い上がっていく輝へと必死に身を乗り出す硝子。

「危ないよ、浅見さん! 下がって!」

「日下部君を裏切るの!? 本当に日の出に復讐したいの!? ねぇ、晃由君!」

 水無月が止めるのも聞かずに硝子は、もうすでに空の上に居る輝とその背の上の晃由へと必死に問いかけを向ける。

「造られた獏だとしても、与えられた獏だとしても、晃由君の神子は日下部君じゃないのっ!? ねぇ!」

 浴びせられる硝子の問いかけには一つも答えずに、晃由は輝と共に天高くへと舞い上がった。最早硝子の声も届かない上空を舞いながら、晃由がそっと表情を曇らせる。

「ありがとうね、硝子ちゃん」

 下方を見た晃由が少し笑みを零すと、すぐにまた厳しい表情となる。

「急ぐぞ、輝。第一邸へ」

 晃由の言葉に大きく頷くと、輝は大きく耳を羽ばたかせ第一邸へと飛び立っていった。





 戻って日の出敷地中央部、第二邸。

「父上」

「おお、戻ったか。盟治」

 獏舎から戻って来た盟治を、相変わらず踏ん反り返って腰掛けている才治がいやらしい笑顔で出迎える。

「珍しいな。お前が電話を掛けずに戻って来るなど」

 いつもの盟治であれば耳に携帯電話を当て、才治へと電話を掛けながら戻って来るのだが、今回の盟治は携帯電話を手にしている様子はなかった。

「で、どうだった? 爺共から日の出の隠し財産の場所は聞き出せたか?」

「ええ」

「本当か!?」

 あっさりと頷いた盟治に、才治が少し興奮気味に椅子から立ち上がる。

「どこだ、どこに隠してあると言っていた!?」

「隠し財産など、存在しないそうです」

「……はっ?」

 盟治の答えが予想外過ぎたのか、時間差で才治が間の抜けた声を放つ。

「ど、どういうことだ!? 存在しないだと? それでは話が違うではないか、盟治!」

 立ち上がった才治が慌てて机を通り抜けて、盟治へと駆け寄る。盟治の着物の襟元を掴み上げ、盟治へと詰め寄る才治。

「それでは、それでは何のためにこのような反乱を企てたのかっ……!」

「“メイ”」

「うああああ!」

 突如上方から姿を見せた金と銀の巨大な獣が乗り上げ、盟治へと詰め寄っていた才治が床へと押し潰される。

「め、盟治、何をっ……!」

「十年前、あんたは従者としての自分の地位を高めるため、獏化実験への協力を示し、実験対象として俺たちを日の出に売った。まだ五才だった盟莎まで」

 床に這いつくばるような格好になりながらも、必死に顔を上げて睨みつけた才治へと、盟治が鋭く視線を向ける。

「ち、違う! 私は日の出に脅されて……!」

「十年前、実験に反対していた晃由の父親とあんたが激しく揉めているところを見た。晃由の父親を追い出したのがあんただってことも知ってる」

「うっ!」

 すべてを見透かすように言い放つ盟治に、思わず口ごもる才治。

「わ、わしはお前たちに力を与えてやったんだぞ!? この力、この獏の力を!」

 自身の上に乗る巨大な獣を指し示しながら、才治が必死に主張する。

「そのお陰でお前たちは今、こうして日の出に逆らうことが出来ているのだろう!? そんなわしに感謝の念はないのか、お前は!」

「俺はこんな力、いらなかった」

 才治の言葉にわずかに表情をしかめた盟治が、はっきりと答える。

「あんたにあるのは、恨みだけだ」

「ま、待て盟っ……!」

 ゆっくりと右手を掲げる盟治に、才治が焦りの表情で必死に声を上げる。だが盟治は迷うことなく口を開いた。

「“三段雷”!」

「うがあああ!」

 降り注ぐ朝力の光りに打たれ、才治がその場で気を失う。

「俺たちは、俺たちの夢を取り戻す」

 才治の上に乗り上げていた獏を消し去り、うつ伏せになって倒れ込んだ父を見下ろして盟治がそう呟きを落とす。その時、部屋の扉が開き何者かが部屋へと入って来た。

「旭か」

 その場へ姿を見せたのは旭であった。

「壊された結界は修復しておきました。日下部朝海も、朝力を奪って第一邸に閉じ込めてあります」

 どちらが神子かと思えるほど丁寧に、旭が盟治へと報告を入れる。

「そうか。わかった」

 旭の報告に頷いた盟治が、すぐに部屋を出て行こうと旭の前を横切る。

「どちらへ?」

「第一邸へ行く。お前も予定通り作戦を進めろ」

 旭に素気なく言い放つと、盟治はあっという間に部屋を後にしていった。部屋に気絶した才治と共に残された旭が険しい表情を見せる。

「盟治……」

 俯いた旭はどこか不安げに盟治の名を呼んだ。




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