01:傍観者日記
暇つぶし
一年前、突然この世界――リーディミルアに召喚された。
世界を救う勇者―――の、オマケとして。
つまり、今日はもう、召喚されて一年が経ったと言うことらしい。
【牛の月/火の日(晴れ)】
今日はとてもいい天気だった。いい勉強日和と言えるだろう。がり勉と言われている私にとって、この快晴は快いものだった。
だが、残念ながら今日は勉強できなかったのである。なんでも二日後に魔導師のオースティン・カルフォン先生が来られる、とか。
元日本人の私としては、魔導師がどれだけ凄いものかは分からない。だが、おもてなしに丸々二日間授業を潰すとは。それが学校と言えるものなのだろうか。勉強を優先するべきだ。
勇者として召喚されたクラスメイト――夏宮誠も、私と同じ勉強がしたいと理由ではなく、自分以外の歓迎に自分が協力しなければならないということが理由らしいが、不満そうだ。その後、自分のハーレム員の子にいちいち重いものを軽々持っただとか、協力的だとかベタ褒めされて機嫌を直していたが。
イチャイチャしているところを見せ付けてんじゃねえよ、と言いたいところだがいくら優等生の仮面を被り女にだけ優しい勇者・夏宮でも、夏宮本人ではなくハーレム員が煩いのでやめておく。あの女たちがいなかったら、本気で言ってやっていただろう。そして反応を面白おかしく理事長に愚痴ることだろう。
一年前――勇者召喚の儀式で巻き込まれた私、氷室春香。本来なら同じ儀式で元の世界に帰してもらうところだが、勇者の力に尊敬を持っていれば恐怖の象徴としている者もいるわけで。それがこの世界の住民と国王だったわけで。そんな人たちに、私は頼まれたのだ。勇者と監視してほしい、――と。
実際は監視ではなく管理なのだけれども。だって、今もう勇者の仕事が終わり、国王の褒美を断った彼はただ国のお荷物でしかない。元々一介の少年でしかないのだから。その少年は貴族にすることもできないが勿論王族にすることもできず。だからと言って平民にして粗末に扱うのも躊躇われる。
だから、国王は考えた。一介の少年であることを利用すればいい、と。
その方法を考えたのは、本当は国王ではなく第一王子であるドミニク・なんたらかんたら(忘れてしまった)だ。その方法は――勇者・夏宮に、偽物のハーレムをプレゼントするというものだ。一介の少年ならば、いろんな美少女に好かれて嬉しくないわけがない。だが本当に惚れられても困るので、いつも二つくらいの偽ハーレム員をくっつけさせ、できるだけ王女は近づかせないという、条件付きだ。偽ハーレム美少女は監視も務めている。勇者の力は魔王が倒された今、ただ恐ろしいだけだ。その力を、私利私欲に使わないように、監視。
だが、それだけでも問題はまだある。部下を信じていないわけでもないだろうが、もしその監視役が勇者に惚れ、勇者が私利私欲に力を使うようになったなら、監視の意味がない。そう――つまりその保険として、私も監視役の一人にされたのだ。同じ故郷の者が傍にいれば、勇者様も助かることだろう、という表向きの名目で。
おや、噂をすれば夏宮が私を呼んでいる。
それではね。
【牛の月/木の日(曇り)】
雨が降りそうで降らないこの心配な気持ちをどうしてくれよう。この世界に傘はあるらしいが、持ちにくいし、時間制限のある魔術で作られたものなのだ。どうも不便。
そんなことを教室から窓の外を見、思っていると、とうとうこの学園に魔導師様が到着されたらしい。私と夏宮と偽ハーレム員である王女様は、客室に呼ばれた。どうやら、魔導師様が一度見てみたいと言ったらしく。
〝見たところ平凡だな?〟
それが魔導師様の第一声だった。私にとってそれは褒め言葉で、偉そうで真意の読めないニヤニヤ顔を浮かべている魔導師様でも、好意を持てた。
だが、夏宮はそうでもなかったようだ。選ばれし勇者となった彼は、平凡という言葉が大嫌いなようで。まあ、それもそうだろう。前の世界で平々凡々だった彼は、この世界でハーレムと作るまでの美形になったと錯覚しているのだから。
空気が最悪な中、理事長であり私のこの世界の上司であるキネイさんに、どうやって面白おかしく報告しようか考えていた。だから、誰が口論していようと気にしない。
そんなことを思っていたから、気付かなかった。
私を見ている、二つの視線に。