表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

七月空

作者: bacteria2012

いぇあ!

 もしそこから見える世界が、偽善だらけだとしたら、あなたはどうしますか?

 もしそこにある未来が、幻想の様に消えてしまったら、あなたはどうしますか?

 虚空に消えないように、その身をゆだねますか?

 さて、話はここから。


 珍しく夕焼けが見える。階下に見える生徒の姿を見ながら、屋上の風は何処へ吹く?迫る夜闇の時間。だが、少年は動かない。

 世界の外が知りたくて、少年は空を飛んだ。鳥の気持ちが知りたくて、少年は羽ばたいた。

 そんな少年を、人は滑稽だと笑う。誰もが彼を蔑み、嘲笑し、罵倒する。少年の無邪気は、人々の精神には合わないようだ。無論、この小さな島国からでたら、きっと賛同者もいるに違いない。だが、そんな彼は今やかごの鳥。追い詰められた彼は、ただ籠の中央で這いつくばるだけ。明かりはさしこむ。食物も与えられる。人々からは手を差し伸べられる。傍から見たら、それは素晴らしい生活。だが、好奇心という魔物は、彼の心を徐々に蝕んでいく。

 そして、彼は決意した。籠から脱出すると。全てをなげうって、ここから逃げ出すと。

 だが、彼にはどこからどこまでが壁なのかが分からない。そんな彼が選んだ道。

 目の前のフェンスを越えること。そして、同時に彼の願望も達成する。

 目前にある死を受け入れること。それが少年の目標なのだ。そして、死後の世界を満喫することができる。そう考え、彼はここに立つ。階下に見える、少年たちを嘲笑いながら。


 なんと滑稽なんだろう?見ていて吐き気がするほど。

あの少年の無知さには開いた口がふさがらない。何がしたいんだ?この世界で何を求めているんだ?この世界というシステムの前に、自分がどれだけ愚かなのか、なぜ気づかないのだ?

 少女は悟りきった表情で、屋上を見上げる。視線の先には、一人の少年。彼からは負の気配を感じない。ただそこにあるのは、好奇心だけ。

 かのAdamとEveのように。ただ、目の前につるされたニンジンが食べたくて駆けまわる馬の様に。

必要以上の好奇心が彼を動かす。いや、人間は皆そうなのかもしれない。

 だが、少女は好奇心を持たない。世界でも数少ない、世の中に絶望したものだ。

 生きるのも価値が分からない、死ぬ価値も分からない。そうやって漠然と生きている人間。

 与えられたものだけを吸収し、与えられないものには見向きもしない。そうすることで、欲望の潮流からは逃れてしまう。

 少女はもう一度少年に視線をやると、ゆっくりと立ち去った。だから彼女は、そのあと彼がどうなったか知らない。知りようもないし、知ろうとも思わない。


 偽善に満ちた世界は嫌いだが、それすらもない世界は嫌いだ。だから常に、人というもののテリトリーの中心に存在する。そのためか、人を渡り歩く力を得ることができた。

 大人は皆そう思っている。だから、好奇心旺盛な少年も、積極的無関心の少女も嘲笑する。可能性は有限。無限とは言わない。だが、それを見い出すのはその個人なのだ。

 所詮は80年しか生きられない小さな生物なのだ。そんなに深刻に考える意味がない。

 そうやって、歩いていた男は少年を見上げ、少女を一瞥すると、繁華街へ立ち去って行った。

少年は俯いた。

やがて来る日を予想して。

又来る日はいつだろう?

探せど見えない、七月空

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ