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tutor   作者: 乃早阿村
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epi.2

七月十八日。夏休み一週間前は誰も授業に参加していない。友達と駄弁したり、暑さで寝ていたり、校庭を七十周しているくらいだ。

授業の先生、バリコも教える気が無いのだろうか、やる気が無いのだろうか、生徒と仲睦まじく話している。

今日は夏日だと、朝の天気予報でいっていた。だからこれ程暑いのだろう。

額や脇や、太ももの裏から、じわっと汗が出てくる。

汗は不快にさせてくれる。

体はベタつき、酸っぱいような臭いを生産してくる。そのため、僕は汗を念入りに拭いている。

「蓮はさ、夏休みどこに行くんだよ?」

前の席に座っているヨウが、後ろを向き言ってきた。

岡本ヨウ。

僕がこの3-6 に入って初めてできた友達だ。初めてといっても、僕は友達が今までいなかったと、語弊に聞こえるがそれは誤解だ。

友達はいるが、このクラスで初めて知り合い友達になった、といったところだ。

我儘で陽気。

ヨウという字は陽気のヨウといっても過言ではないと思う。

「僕は夏休みどこにも行かないな。多分、家にいるよ。しかし、妹がいるからな、結局わからない。」

僕は汗を拭いた清感シートをゴミ箱に向け投げた。ふわふわしながらもやはり、汗を含んでいるためか、綺麗にゴミ箱の中へ入った。

「ならさー、俺と遊ぼうぜ。山に泊まって、肉食って、川に入って、おやすみ。っていうシナリオでさ」

「山ねー、蚊とか多いから嫌だ。海なら考えたけど」

「どーせ水着着たギャル狙いだろ?あー厭らしい。」

「海なら蚊とかいないし」

「どんだけ蚊を敵視すんだよ!」

蚊を侮ってはいけない。蚊は血を吸う時に人に毒を盛る。その毒で酷くなると、どこかに書いてあった気がする。

だから、蚊は嫌いだ。

「蚊、怖いよ」

「ったく。仕方ねーな。あー、あー、あー」

ヨウは喉を調整しつつ、赤い首輪に触れ、蓮、遊ぶぞ命令だ。と言った。

この首輪はヨウがドMだから付けたのではなく、僕も皆も付けている。国が定めた装置なのだ。

キィーーーーーーン。

吐き気がする程のモスキート音に近い何かが聞こえる。

命令がきた。

意識が遠のく。

気がつく頃に、僕は席を下りヨウの前で方膝を床に着いていた。

怖い。

頭の中でヨウが尊敬する人に見えたり、怖い人にも見えた。

逆らってはいけない。

社長が部下に指示を下すように、独裁政治の独裁国家の独裁者が民に命令するように。逆らってはいけない。逆らいたくない。反した事を想像したくない。

僕はヨウがこの世の中で一番怖く感じた。

「わ、わ、わかりました、確実に従います。すみませんでした」

「なら、いいんだよ。あっ、それとみんな!今の記憶無くして!」

「・・・・・」

ヨウがそれを言った後、クラスの全員が何事も無かったように、何も見ていなかったように、いつも通りに話している。

何故みんながヨウの言いなりになっているのかというと、この首輪の装置が原因だ。

三十年前にこの国の国王が、バイオやらテクノロジーやらで完成させた逸品だ。

首輪の構造は知らないがこれを付けているだけで命令を下したり、受けたりできる。

絶対順守。

最初は、人がペットの躾の為にと作られた機械だったが、今はペットが人であり、主人も人である。

そんなおぞましい装置を国王が独占し、国全員に付けさせた。

機械が外れることはなく、壊すこともできない。無理に外そうとすると人は狂い、死に至る。そんな悪魔のような、神様のような武器を僕も含め、みんな持っている。

国王は人を信頼する事が容易でない時代にさせた。

『全人民に告ぐ!人は人に命名できる!それは正義か?悪か?それは正義だ!しかし、強き者が弱き者に命令するのは平等か!?弱肉強食のような国は今日で終わりだ!人が人の上に立つことを私は憎く思う!人民は平等である!誰の上にも立たず、誰の下にも立たないこの平等を実現した!さあ!私を敬え!私を憎め!私を怖れよ!』

僕の母、父が幼い頃に見た国王の映像であった。全人民の脳に直接これが流れ、『国王の奇怪』と呼ばれる程、当時の一代ニュースだった。

直接脳に流れるなんて、まるでエスパーを使える人とみんなが疑問に思っていたと、父が昔僕に言った。

しかし、エスパーはともかく、この躾装置を作った偉業というのか意向というのか全人民には分からなかった。

反する事をさせないため見せつけとして、人が装置を強引に外そうとして死んでいった映像を晒した。

頭の中には流さず、テレビで流すだけで効果は覿面だった。

人が皆平等の世界という理想の反対でこの国は荒れた。

忠実で反抗しない奴隷を作ったり、この兵器で人を殺めた。

1ヶ月以内で総計60万人が死んだ。

誰しもが持つ憎しみを増大させ、手を加えずに死なせる事の出来る武器を使う者がでてきたからだ。

簡単に言えば早い者勝ちである。

相手より早く命令を下せば操れる。

夢のような悪夢のような、夢であって欲しいこれを政府は禁止した。

禁止せざるおえなかった。

使った者は即死刑。

例え軽い命令でも、その場にいた他人が見つけた瞬間殺す。

命令をした者を赤の他人が殺す義務を命じられた。

そうなると、パラドックスが生じる。

命令を下す者を見つけ、別な者が命令を下す。

死ねと。

そうしたら、後者も死ななければならないが、その場合はノーカウント、見過ごせられる。

結局、この機械で人を殺すのに何も変わりはない。

だからそれを利用しようと人は目を光らせる。

とんだ極悪人だ。

条例を出されようが死ぬ人は減らない。

この兵器は人にしか使えず、人に近い猿にも使えない。

そして、死者にも使えない。

生きている人のみ使用が可能とされている。

もう一つ、馬鹿げているのが神器の創立者で発令者である国王は付けていない。

自分は神の存在に等しいと大衆の前で公言した。

そのため元凶の馬鹿を殺すためには銃やら毒やら、物理的なものでしか殺せない。

狙おうとしてもボディーガードが護衛しているため死なない。

何も改善されず人は皆、唯我独尊、孤立無縁になっていった。

そして、今の僕たちの時代にまで続いている。

現に今、ヨウに命令された僕がいる。

「それじゃあ蓮、今週の土曜日な」

「うん、わかったよ」

今日は水曜日。

今日を含めて後四日したら、僕は約束の山に行くのだろう。

ヨウからの命令は絶対だから。

三日間ヨウに会いたくないと思えてくる。

「春休みに行った、あのでかい山な」

僕はヨウの一言一言を生徒手帳を取りだし、震える手を抑え書き記した。

その日の放課後まで僕はヨウを見ない一心で目を合わせなかった。

耳も厳重に聞こえないように、耳栓もした。

そこまでと思うがこれくらいしないと本当に人間不信になってしまう。

友達の裏切りというか、掟破りというか、命令をされたショックは大きかった。

学校の終了時間を左手に付けている時計を見て、急いで下駄箱に行った。

まだ誰も帰っている様子もなく、しかし、そんなの気にする気もない。

逃げたかった。

学校から。

ヨウから。

また、ヨウに命令されるのではないかと、思うだけで死にそうな僕だったから。

下駄箱から僕の靴を放り投げて、履き潰しながら次に駐輪所に向かった。

自分の自転車を見つけ鍵を差し込むが、命令のショックの動揺で開きにくかった。

まるでもうすぐ死ぬと、錯覚をしているかのように。

鍵が開き、自転車に股がり重いペダルを力一杯に漕いだ。

校門に生徒を見張る先生がいたが、気にせず行った。

後ろを振り向くと、先生が口をパクパクしていたが耳栓をしているため聞こえない。

多分、ホームルームが終わっていないぞ。教室に戻れ。とでも言っているのだろう。

無視だ。

緊急事態だ。

貴方に構っている暇がない。こっちは切羽詰まっている状態なのだから。

先生を素通りし、自転車を走らす。

左に曲がると直線コースだ。

いつもは十五分かかる道を五分で行けた。

今日の天気も含め大量の汗をかき、不快感と悲愴感を抱いている。

ああ、何でこうなるのだろうか。

僕がただ単にヨウに命令されただけ。景色だって今も前も変わらない。裏切られただけ。

しかし、こんな時代を知っているのに油断した僕が悪いだけだ。ヨウはその部分を見抜いただけ。

それでもヨウは裏切った。それはある意味変わらない。

裏切りはしてない。裏切りってなんだよ。まるで、命令をやらないと僕の前で言ったようじゃないか。社会的には裏切ったというより、破ったけれど死ねや奴隷になれ、とは言われていない。思い違いだろ?遊べ、といっただけだ。

人権を無視する機械に頼り操った。これは裏切りと紙一重じゃないのか。

そんな自問自答を出し合っている。

答なんかは出てこない。出てくるのは自分にとって都合の良い言葉だけ。

それを信じる。

信じなければ悲しくなってくる。

直線コースを暫く漕いでいたら僕の家が見えた。

はあ、と深い溜め息を吐き自転車を庭に入れた。

自転車を降りるとなんとも言えない気だるさを感じた。

明日から学校休もう。疲れたな。それと頭痛いし。

自転車に鍵をかけ、玄関に立った。

はあ、また溜め息がでた。

考えないようにしよう。

ドアを開け中に入り、靴を脱ぎ捨てた。

廊下を歩く途中、耳栓に違和感を感じ無理矢理引っこ抜いた。

誰もいない。

僕の家庭は両親共に仕事が多い人だから、いつも妹といる。

その妹はまだ学校なのだろう。

家に一人というのは慣れた。

玄関の鍵をかけるのを思いだして戻る。

ガチャっという鈍い音がする。

誰か入ってきたようだ。

思考が瞬時に悪い方にいく。

泥棒か?

いや、でも泥棒よりヨウに会いたくない。

おかしな事を言っているが今はヨウを見たくない。

見たら死にそうだ。

泥棒来い!

変な淡い期待を胸にゆっくりと恐る恐る玄関を見る。

「よー、帰ってたのか。早いねー」

落胆した。いや、安堵だろう。

その人はヨウでも泥棒でもなかった。

花だった。

新名賀花。僕の妹。高校二年生。どこの高校なのかは知らない。口が悪い。それに馬鹿。

「兄貴に馬鹿言われたくないね。お前の方が私より馬鹿だろ」

「勝手に読心すんな。学校は?まだ早いだろ」

僕の心ってそんなに読まれやすいかな。

「まあ、兄貴と同じかな。学校めんどいから早く上がった」

同じじゃねーよ。

僕も同じ理由で休みてーよ。

「なんだ同じじゃないか。今日はどこかに行くのか」

「いいや、今日は友達が来るんだー。だから、兄貴が外に行くなら、私たちにとって好都合だね」

「邪魔者扱いか。でも、疲れて眠いんだ。だから静かにしてくれよ?」

「いや、兄貴の鼾の方がうるさいよ」

「えっ!僕、そんなに鼾うるさい?」

妹の友達が家に来て一度でも静かになったことはない。

友達が家に来る人数は僕の予想、平均三人~五人くらいだろう。しかし、花が連れてくる人数は十四人以上だ。

ツレではなく、群れだ。

僕の家はそこまで広くない。だから、花の友達は僕の部屋と妹の部屋、二つを利用する。

そのため、エロ本を置くのが難しい。

エロ本は本という部類だが、普通の本とは違う。一際存在が強く、神の創造物と言っても過言ではないだろう。

だから、すぐに見つかるのだ。

僕が悪いんじゃない。

エロ本が悪いのだ。

僕が見つけられるような所に置くのが悪いんじゃない。

エロ本の存在感に圧倒され、目立たせているこの部屋が悪い。

そしてなにより創造物を発見しようとする、妹たちが悪い!

男子中学生か!

人の部屋を物色しないで欲しい。

「わかったよ。そんじゃ、もうじき来るから居間で寝ててよ」

「人の部屋を物色すんなよ?」

「それは振りなの?」

「ちげーよ。無理なんだよ。他人が僕の部屋を荒らすのが」

妹と放談をすることで気持ちが和らぐ。

ヨウのことを命令のことを忘れさせてくれる。

さっきまでの憂さが無くなり今はほのぼのとしている。

妹は友達を呼んでくると、また外に出掛けていった。

僕も靴を並べるため玄関に向かい鍵をかけた。

不安は有るのだが、今は寝たい。

居間のソファで横になりこれからのことを考えようとしたが、疲れのせいかその前に寝てしまっていた。

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