epi.1
「はあ、はあ、はあ、はあ、はあ」
息が荒い状態から始まり非常に申し訳ないが許してほしい。
別に卑猥な行為や女子に興奮している訳ではないので変な風に見ないでくれ。
俺は今、階段を全力で駆け上がっている。
大人の階段ではない。
学校の階段だ。
俺も怪談の類いには入っているが、そこはまだ言わないでおこう。
話を戻す。
なぜかというと、ある人にはある、ただの遅刻だ。先生からは朝寝坊ってやつ。
しかし、俺は寝坊はしていない。毎朝ちゃんと起きている。
じゃあ、遅刻しないだろ、と言われるが聞いてほしい。
遅刻といっても、朝にパンを加えた美少女と出会い頭に衝突し、コンタクトレンズが外れ一緒に探していたから、などおいしい話ではない。
毎朝恒例のおにぎりを頬張っている小学生の男に出会い頭に衝突し、尻餅をつき、しばらく動けなかったから、くらいである。
そして盛大に高らかに大きな声で笑ってくる顔がトラウマになりそうだ。
だからあの小学生のせいで遅刻しているのだ。
しかしあの小学生、毎日待ち構えているように体当たりしてくるが、それは気のせいだろう。
そして俺は先生から『遅刻の悪魔』と言われるが、悪魔は言い過ぎだと思う。
せめて遅刻マニアにしてほしい。
自分の遅刻の回数を数えて一人で喜ぶ人かな。
それにしても、ここ私立錦鯉高校の階段は長い。そして険しい。
田舎の高校はみんなこんな階段なのかな。
俺のクラスの3-6は二階に行き、そして左に曲がり、四個目の教室だ。
二階だから早いと思うが、ここの階段は、目的地まで段数が180段。傾斜は60 度ある。
正直言うと馬鹿だろ。
生徒の足をマラソンランナー並みにしたいのだろうか。
生徒の健康のためと言いつつも、この階段で年間27人倒れている。
それに比べ教師共はエレベーターという機械に頼っている。当然生徒は使用禁止だ。
そんな頼るとのび太になるぞ。
ドラえもんは金と権力の強い者の味方なんだな。汚い奴等め。
そんな化け物のような階段を俺は上らなければならない。のび太にはならないためにも、ジャイアンになるためにも、上りきってみせる。
ジャイアンはある意味ツンデレだと思う。
いつもはガキ大将という迷惑極まりない称号をぶら下げ、人に嫌われる役を引き受けている。しかし、いざ頼りになるのはジャイアンなのだ。自分の命で仲間を守る、あの一心に俺は惚れた。
だからジャイアン王に俺はなる。
と、下らない話をしているうちに上りきった。
足が震えているが時間が時間だ。堪えて行くしかないだろう。
足がふらついているあまり思うように動かない。千鳥足のように廊下を歩いているととても長く感じてしまう。
自分のクラスに近づくと、教室内が騒がしい。
何かやっているのだろうか。
俺は足に最後の力を振り絞り、3-6の扉まで来た。
「よく頑張ってくれた、俺の足。お前はいつまでも俺の親友だ」
足は感動したのか震え始めてきた。
「可愛いな。お前は俺が必要で俺はお前が必要だ。以心伝心、一心同体だ!」
俺は誰もいない廊下で親愛なる足と語り始めた。
独り言ではない!会話だ!
だって、誰も見ないし誰も言わないぜ?きっと。
「・・・なにしてんだ新名賀?大丈夫か?」
「はい大丈夫です。心配ご無用でお願い致します」
ドアが開いており、中から担任のバリコが凄惨な目で言ってきた。
「ま、まあ、入れよ?」
「入らさせて戴きます。」
俺は教室内の人間から冷めて痛い視線浴びながら、自分の席についた。
足の疲れが和らいでくる。幸せな一時だな。
あまり触れたくないが、今俺は死にたいと、本気で思った瞬間だった。
「新名賀ー、また遅刻か?遅刻ばっかして困るのはお前だぞ」
ああ、困っているよ、あの小学生には。俺も大人の高校生だ。あんなちびっこ相手に全力で逃げようとも思わないから、わざとやられてるのさ。やられまくっているが。
それはそうと、俺の自己紹介がまだだった。
新名賀蓮。高校三年生。以上。
「俺が困るのは知ってるよ。しかしな?パンを加えた美少女と出会い頭に衝突し、その子のコンタクトレンズが外れ一緒に探していたから遅れたんだ。困るのは俺もあの子も一緒じゃないか。だから不可抗力だよ」
「しかしどうせ、おにぎりを頬張っている丸っこい小学生に出会い頭に衝突し、尻餅をつき、しばらく動けなかった。とかだろ?」
「バリコはエスパーかよ!なんか怖いよ!」
引きに引いた。ドン引きだ。
心なら読まれても仕方ないが、地の文はきついぞ。
「あぁー、気にするな」
「読心術?!」
バリコ恐るべし!
もう語れねーよ!この話し終わったよ!語ったらバリコに分かっちゃうよ!
とりあえず、落ち着くため深呼吸をしよう。
スゥーーーー、ハァーーーー。
よし、それでは今まで俺がバリコ、バリコと言っていた、この担任は笹川冷子。
特徴は、腰まである茶金の髪。整った顔立ち。短気。独身。八方美人。
いくら特徴挙げたところで彼女を説明なんかできないだろう。
彼女には世話になった。
今日、九月十八日。今から丁度二ヶ月前の七月十八日のあの日から。
俺はバリコに、笹川冷子に命を救ってもらった。
救ってもらってはいないな。やはり、世話になった。
だから話そう。
あの二ヶ月間の話を。
二ヶ月前からの地獄を。
二ヶ月間の恋愛を。
二ヶ月間の友情を。
全てを話そう。
みんな忘れている。それでいいんだ。あんなのは記憶に残してはいけない。
また誰かが作ったら壊しに行く。そして、忘れさせる。
その繰り返しだ。
俺が本当に死ぬまで。
一生背負い続けてやる。俺が皆に迷惑かけた代償だ。
学校の一日は長い。十分だろう。
あ、最後に、俺は
『ゾンビ』だ。