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モラル

作者: 遠山海月
掲載日:2011/07/03

それに気付いたのはつい最近だ。

俺の家は10階建てのマンションの1階、エントランスに一番近い場所に位置している。

その、俺の家の玄関前が黒く変色しているのだ。

たまたま出しなに閉めた鍵を落として、拾い上げるときに気付いた。

一度気になると以後注意して見るようになる。

なんだろう?

ある日強く降った雨がマンションのエントランスに吹き込むのを見てようやくそれが水濡れによるものだと気付いた。

水濡れは決まって早朝に起きて、昼頃には乾いてしまうのだろう。

だから昼に出勤して深夜に帰宅する俺は気付かなかったのだ。

コンクリートの床の黒い変色は水濡れが長期にわたって繰り返されていることを物語っている。

始めはどこか水道管でも壊れて水漏れしているのかと思った。

しかし天井から水の漏れた様子はまるでない。

やがてかすかだが異臭を感じるようになって、どうやらこの水がただの水でないことに気付いた。

と、同時に原因にも思い当たった。これは動物の尿だ。マーキングってやつか。

とはいっても入口が自動ロックされているマンションに野生の動物が毎日忍び込んでくるのは無理だろう。と、なれば犯人はマンションの中にいる。

ペット飼育禁止のマンションだが、隠れて室内で犬や猫を飼っている住人がいるのは知っていた。

2階に住む女と最上階に住む爺さんだ。

2階の女は夜の仕事らしくいつも朝方帰宅してくる。飼っているのはグレーの猫だ。回覧を届けるときに一度見た記憶がある。

最上階の爺さんが飼っているのはモップみたいな毛をした室内犬だ。キャンキャン吼える声が静かな夜には1階の俺の部屋にまで聞こえてくる。

朝に帰宅する女が早朝から猫を外に連れ出す可能性は限りなくゼロだ。

まして連れだって散歩させるには猫は気紛れすぎる。

一方爺さんは早起きだ。決まって朝早くから散歩に出かける。もちろん犬も一緒に。

おそらく犯人はこの犬だ。

もっともマンション内にこっそり住みついている野良の犬猫がいないとも限らないけれど・・・。

ともかく証拠もなしに文句をいうわけにもいかない。

ようは現行犯で現場を押さえればいいんだ。

ちょっと我慢して早起きすれば問題は解決するんだから。

今にみてろよ。それが習性とはいえ、他人の玄関先に粗相をさせるとは非常識にも程がある。ペットを飼ううえでのモラルというものを教えてやる。


現在の時刻、5時30分。

爺さんと犬が連れだって散歩に出る様子を玄関ドアの覗き穴から確認して30分が過ぎている。

眠い。眠気覚ましに何かをしたいところだが、気を逸らせた隙に事が終ってしまっていたら意味がない。

俺だって張り込みの真似ごとを毎日できるほど暇じゃない。

じっと玄関ドアに張り付いてひたすら帰りを待つ・・・眠い・・・

駄目だ、瞼が重い。いよいよ意識が睡魔に乗っ取られそうになったとき入口のドアが開く音がした。誰かが入ってきたようだ。続いてキャンキャンと甲高い鳴き声。犬と爺さんだ。

まだ寝てる人も大勢いるってのに、まったく迷惑この上ない犬だ。

ぺチぺチとにくきゅうの弾む音が近づいてきた。そして俺の家の前に近づいたと思われる位置で足音が止んだ。

続いてピシャピシャと水滴が地面に撥ねる音がする。

覗き穴からは犬と爺さんの姿が確認できる。近過ぎて何をやっているのか判らないが、間違いない。犯人はやはりこの犬だ。

驚かして逃げる気勢もそいでやろうと、勢いよく玄関ドアを開ける。

「うひゃ!」

爺さんがドアの開く勢いに押されてスッ転んだようだ。興奮した犬がその場でクルクル回りながら一層高く吼える声がマンションの壁に響いている。

俺の目の前にはズボンのチャックを全開にしたまま股間を濡らして座り込む爺さんがいた。

アンタだったのか・・・












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― 新着の感想 ―
[一言] すごく申し訳のない事ですが、あらすじにあるマーキングの一文字によって、オチが丸見えです。 違うオチを期待して読ませて頂きましたが……。 本当に、申し訳ありませんでした。
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