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追放されたけど、歩いてるだけで世界が楽になるらしい ~追放=失敗だと思ってたら、 一人になった瞬間から成長速度がおかしくなった件~  作者: 蒼井テンマ


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第9話 書類の数字が合わない

 冒険者ギルド・レンバート支部。


 昼過ぎのカウンターは落ち着いていた。

 依頼報告の波が一段落し、職員たちは書類整理に追われている。


「……ん?」


 受付の職員、ハロルドは手を止めた。


 今朝受け取った報告書。

 交易路付近の魔物増加・原因調査。


 内容は簡潔だ。

 魔物の種類、数、行動範囲、討伐結果。


「処理時間……短すぎないか?」


 目を細めて、前の報告と見比べる。

 同じ依頼内容で、過去に提出されたもの。


 どれも“調査のみで撤退”。

 もしくは“原因特定に至らず”。


 今回だけが、違う。


「調査完了、原因排除……?」


 思わず声に出た。


 討伐数は四体。

 被害なし。

 依頼完了までの所要時間――半日未満。


「……中級以上向け、だよな」


 ハロルドは、奥の机に声をかけた。


「支部長、ちょっといいですか」


 呼ばれて出てきたのは、白髪交じりの男だった。

 長年この支部を任されている、ベテランだ。


「どうした」


「この依頼なんですが……」


 書類を差し出す。


 支部長は黙って目を通し、眉をひそめた。


「……担当は?」


「二人組です。

 登録名は……アレン・クロウと、ミア」


「聞いたことは?」


「ありません。

 少なくとも、常連ではない」


 支部長は、しばらく考え込んだ。


「ミアは?」


「中堅ランク。

 突出した実績はありません」


「……じゃあ、アレンだな」


 ハロルドは、うなずいた。


「昨日も、妙だったんです」


「ほう」


「薬草採取と倉庫整理。

 内容は初心者向けなのに、

 処理速度が……おかしい」


 言葉を選びながら続ける。


「数値で見ると、

 “余裕がありすぎる”というか」


 支部長は、腕を組んだ。


「ステータス測定は?」


「しました。

 ただ……」


「ただ?」


「表示が、少し特殊で」


 ハロルドは声を落とした。


「レベル表記が、安定しないんです」


 一瞬、空気が変わる。


「水晶の不具合では?」


「確認しました。

 水晶は正常です」


 支部長は、ゆっくりと息を吐いた。


「……最近、こういう例が増えているわけではないな?」


「いいえ。

 この二日で、彼だけです」


 沈黙。


 書類の束が、やけに重く見えた。


「過剰に注目するな」


 支部長が言った。


「だが、記録は残せ」


「記録、ですか」


「ああ。

 依頼内容、処理時間、被害、同行者」


 淡々と続ける。


「“異常”と断定するには早い。

 だが、“例外”として見る価値はある」


 ハロルドは、背筋を正した。


「了解しました」


 支部長は、最後にもう一度書類を見た。


「……アレン・クロウ、か」


 名前を口にしただけで、

 なぜか引っかかるものがあった。


「目立たず、静かに」


 支部長は言う。


「だが、見失うな」


 その夜。


 支部の記録棚に、新しい札が一枚追加された。


【経過観察対象】


 それが、

 後に“もっとも意味のない分類”になることを、

 この時点で知る者はいなかった。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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