第8話 少し背伸びした依頼
朝の冒険者ギルドは、いつもより騒がしかった。
掲示板の前に人だかりができ、依頼書を覗き込んでいる。
ミアはその様子を遠目に見て、足を止めた。
「……ねえ、アレン」
「はい」
「今日は、ちょっとだけ“軽くない”依頼を見せる」
「大丈夫ですか?」
「それ、私が言うセリフだから」
そう言いながら、ミアは掲示板を指さした。
【交易路付近の魔物増加・原因調査】
【討伐推奨:中級以上】
報酬はそこそこ。
だが、内容が曖昧だ。
「原因調査って書いてある時点で、面倒なのよ」
「確かに」
「でも、放置されてる。
つまり、誰も手を出したがらない」
ミアは、ちらりとアレンを見る。
「……あなたなら、どう思う?」
「調べるだけなら、問題ないと思います」
即答だった。
ミアは小さく息を吐く。
「よし。
じゃあ今日はこれ」
依頼を剥がし、受付に向かった。
街を出て、交易路へ向かう。
道は整備されているが、人の気配が少ない。
「商人が通らなくなった理由、分かる?」
「魔物、ですね」
「正解。
でも、種類が分からない」
ミアは警戒しながら周囲を見渡す。
「だから、今日は慎重に――」
「足跡、あります」
「え?」
ミアが言い終わる前に、アレンがしゃがみ込んでいた。
「数は……三、いえ、四。
大型ではないですが、統率があります」
「……それ、見ただけで分かるもの?」
「歩き方と、間隔で」
ミアは一瞬、言葉を失った。
(前衛でも、そこまで分からない人多いのに……)
交易路を外れ、草むらへ入る。
少し進んだ先で、壊れた荷車が見えた。
「ここ、襲われた跡ね」
「はい。
でも、戦闘は短時間です」
「どうして?」
「抵抗する前に、逃げています」
ミアは背筋に、薄く冷たいものを感じた。
「……つまり?」
「魔物が、慣れてます」
その直後。
草が揺れ、魔物が姿を現した。
狼型。四体。
「連携してくる!」
ミアが魔法を構えた瞬間、
アレンが一歩、前に出た。
「右から来ます」
「分かってる!」
だが、アレンの動きの方が早い。
一体目の動きを止め、
二体目の進路を塞ぎ、
三体目の跳躍を誘導する。
戦っているというより、
配置を崩している。
「……え、何それ」
ミアが呆然とする間に、
四体目が逃げようとした。
「逃げますね」
アレンがそう言って、短剣を投げる。
正確に、急所。
残った魔物も、ほどなく倒れた。
「……終わり?」
ミアは、周囲を見回した。
「はい。
原因は、この群れですね」
「原因“調査”の依頼よ?」
「調査、できました」
ミアは、しばらく黙っていた。
そして、ぽつりと言う。
「……これ、中級以上向けって書いてあるんだけど」
「そうなんですね」
「あなた、今の動き、完全に上級冒険者のそれだから」
アレンは、少し考える。
「……歩いてるうちに、慣れました?」
「だからそれ何なの!」
思わず叫びそうになり、ミアは慌てて口を押さえた。
帰り道。
ミアは依頼書を握りしめながら言った。
「ねえ、アレン」
「はい」
「これから、依頼選び――
私が少しだけ、背伸びしてもいい?」
「問題ないと思います」
即答。
ミアは、苦笑した。
「……あなた基準で“少し”って言うの、怖いんだけど」
それでも。
胸の奥に、確かな手応えがあった。
(この人となら)
(今まで行けなかった場所に、行ける)
掲示板の“中級以上”が、
もう低く見え始めていることに、
ミアは気づいていた。
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