第60話 線
それから、いくつかの街を歩いた。
困っている場所もあれば、
そうでない場所もあった。
呼ばれることは、なかった。
それでよかった。
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ある街の酒場で、噂を耳にする。
「昔、変わった冒険者がいたらしい」
「答えを言わない奴だろ?」
「決めないくせに、残るとか」
笑い声が混じる。
「結局、何者だったんだ?」
「さあな。
でも、あいつの後から、
判断が増えた」
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アレンは、隅の席で静かに水を飲む。
ミアが、横目で見る。
「聞こえた?」
「はい」
「名乗らないの?」
「いいえ」
短い答え。
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夜。
街の外れの道。
星が、淡く瞬く。
「ねえ」
ミアが、立ち止まる。
「あなた、何を残したと思う?」
アレンは、少し考えた。
「正解は、残していません」
「うん」
「名前も、残していません」
「うん」
一拍。
「線、です」
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風が、静かに吹く。
「線?」
「はい」
「迷ったときに、
何を守るか考える線」
それだけだった。
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遠くの街で、
誰かが迷い、
誰かが決める。
そこに、自分はいない。
それでも、
判断は出る。
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「満足?」
ミアが、少しだけ笑う。
「……はい」
迷いはない。
「正解を残さなかった」
「うん」
「だから、続いた」
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道は、まだ続いている。
困っている場所があれば、
立ち止まるかもしれない。
何もなければ、
そのまま歩くだけだ。
呼ばれなくても、
必要とされなくても、
歩く理由は、
自分で選べる。
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星空の下。
アレンは、ゆっくりと歩き出す。
後ろに残るのは、
足跡ではない。
**見えない線。**
それで、十分だった。
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございました。
この物語は、
「強い主人公が全部解決する話」ではなく、
「いなくても回る世界を作る話」を書きたいと思って始めました。
正解を出す人よりも、
迷いながら決められる人が増えるほうが、
きっと世界は強くなる。
そんな物語でした。
正直に言うと、
派手な展開も、大きな戦いもありません。
それでも、ここまで付き合ってくださった皆さんがいることが、
この物語にとって一番の救いです。
アレンは特別な英雄ではありません。
名前も残さず、正解も残しませんでした。
でも、線は残った。
もしどこかで迷ったとき、
「何を守るかだけ決める」
そんな一歩を思い出してもらえたら、作者として嬉しいです。
ここまで本当にありがとうございました。
また、別の物語でお会いできれば幸いです。




