第6話 軽い依頼のはずだった
掲示板の前で、ミアは腕を組んでいた。
「……ねえ、アレン」
「はい」
「この依頼、どう思う?」
指さしたのは、討伐依頼の中でも一番下の方。
報酬も控えめで、初心者向けと書かれている。
【草原の魔獣一体・注意喚起レベル】
「軽そうですね」
「うん、“普通なら”ね」
ミアは強調するように言った。
「だから、今日は様子見。
無理そうなら引く。いい?」
「分かりました」
即答。
その返事が、妙に信用できてしまうのが怖い。
街を出て、草原に入る。
風が強く、背の高い草がざわついていた。
「気配、あるわね」
ミアが声を落とす。
「はい。右前方です」
「……もう分かってるの?」
「音と、匂いで」
ミアは一瞬、黙った。
(やっぱり、おかしい)
しばらく進むと、魔獣が姿を現した。
猪に似た体躯。突進力が売りの個体だ。
「アレン、距離を――」
言い終わる前に、アレンが一歩前に出た。
「避けますね」
「え?」
次の瞬間。
魔獣の突進が、紙一重で空を切る。
アレンは横に流れるように動き、短剣を一閃。
動きは、驚くほど無駄がない。
魔獣はそのまま、崩れ落ちた。
「……終わり?」
ミアの口から、間の抜けた声が出る。
――――――
【レベルが上昇しました】
――――――
アレンは、いつも通り表示を閉じる。
「素材、回収しますね」
「……ちょっと待って」
ミアは、倒れた魔獣とアレンを交互に見た。
「今の、何?」
「突進を避けて、急所を狙いました」
「それは見てた!」
思わず声が大きくなる。
「初心者向け依頼よ!?
なんで、あんな動きができるの!?」
アレンは、少し考えた。
「……歩いてるうちに、身につきました?」
「意味が分からない!」
ミアは頭を抱える。
魔獣の素材を回収し、帰路につく。
道中、ミアは何度もアレンを盗み見た。
(今の、完全に上位冒険者の動きだった)
それも、実戦慣れしているタイプ。
ギルドに戻り、報告を済ませる。
「……ねえ、アレン」
帰り際、ミアが真顔で言った。
「今日の依頼、“軽い”って言ったの、覚えてる?」
「はい」
「取り消す。
あなたと一緒にやる依頼は、
もう全部“様子見”にする」
「分かりました」
また即答。
ミアは、深くため息をついた。
「……私、前衛じゃないんだけど」
「知ってます」
「なのに、今ので一番引いてるの、私だからね」
アレンは少し困ったように笑った。
「すみません」
「謝られても困る!」
それでも。
胸の奥に、変な高揚感がある。
(この人となら、
見たことない景色を見られるかもしれない)
ミアは、アレンの背中を見ながら思った。
――軽い依頼のはずだった。
だが、どうやら基準が違いすぎたらしい。
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