第58話 歩く理由
朝。
アレンは、いつもより早く目を覚ました。
呼び出しはない。
依頼もない。
相談もない。
完全に、静かな朝だった。
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宿の窓を開ける。
冷たい空気が入る。
「……今日も、何もないですね」
「ええ」
ミアは、荷物をまとめていた。
「どうする?」
「どう、とは」
「ここにいる理由、もうないわよ」
一拍。
「困ってる人、いない」
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アレンは、ゆっくりと座る。
考える時間は、十分にあった。
「……歩きます」
「依頼は?」
「受けません」
「同行は?」
「しません」
「じゃあ、何しに?」
少しだけ、意地悪な問い。
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アレンは、穏やかに答える。
「見に行きます」
「何を」
「困っていない街を」
ミアは、目を細める。
「……面白い答えね」
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「今までは」
アレンは、続ける。
「困っている場所を探していました」
「うん」
「でも、今は違います」
一拍。
「困っていないか、確かめたい」
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昼前。
ギルドに立ち寄る。
「出るのか?」
支部長が、短く聞く。
「はい」
「呼ばれたか?」
「いいえ」
支部長は、少しだけ笑った。
「そうか」
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セラが、小さく頭を下げる。
「記録、使われています」
「ありがとうございます」
「また、増えます」
「はい」
それだけで、十分だった。
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街の外れ。
荷物は軽い。
以前より、さらに軽い。
「寂しくない?」
ミアが聞く。
「少し」
「怖くない?」
「少し」
一拍。
「でも」
「?」
「**自分で選びました**」
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道は、静かに続いている。
誰にも呼ばれず、
誰にも求められず、
それでも歩く。
今度は、
役目のためではない。
評価のためでもない。
ただ。
**歩く理由を、自分で選んだから。**
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あと数話で完結となります。
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