第55話 未完成の記録
セラは、受け取った紙を丁寧に綴じていた。
表紙も、装飾もない。
ただの束だ。
「題名は、どうしますか」
「題名は、いりません」
アレンは、首を振る。
「……では、仮題を」
セラは、小さく書き添えた。
――判断の痕跡。
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ギルドの一角に、小さな棚が作られた。
依頼書でも、規則でもない。
その棚だけ、少し静かだ。
若い冒険者が、恐る恐る手に取る。
「……答え、書いてない」
ページをめくる。
> 迷った
> 迷ったまま進めた
> 後で修正した
「なんだこれ」
隣の仲間が、肩をすくめる。
「役に立つのか?」
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数日後。
北の街道で、小さな問題が起きた。
規模は小さい。
だが、判断に迷う。
「……どうする」
若い冒険者が、棚の本を思い出す。
ページを開く。
> 正解が見えないときは
> 何を守るかだけ決める
「……何を守るか」
呟く。
「通行か、安全か」
一拍。
「……安全だ」
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ギルドに報告が戻る。
【仮判断】
・一時封鎖
・再確認三日後
セラは、静かにその紙を綴じる。
未完成の記録の横に。
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宿。
「使われてるわよ」
ミアが、笑う。
「そうですか」
「嬉しくない?」
「……少し」
アレンは、窓の外を見る。
誰かが、自分のいない場所で迷っている。
そして、自分で決めている。
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夜。
日記に書く。
> 未完成のまま渡した
> 未完成のまま使われた
完成しないから、
考える。
答えがないから、
選ぶ。
それで、いい。
記録は、正解ではなく、
背中になり始めていた。
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