第54話 残すもの
翌朝。
ギルドの奥の机で、セラが書類を整えていた。
几帳面な手つきで、報告書を束ね、
仮判断の更新履歴をまとめている。
「……多いですね」
アレンが、横から覗いた。
「はい」
セラは、顔を上げて微笑む。
「あなたが関わった案件です」
机の上には、見覚えのある地名が並んでいた。
北の街道。
東の村。
南の水路。
どれも、彼が“決めなかった”場所だ。
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「お願いがあります」
セラは、少しだけ真面目な声になる。
「あなたの記録を、残せませんか」
「記録、ですか」
「正解ではなくていいんです」
一拍。
「迷いと、修正と、
どうやって線を引いたのか」
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アレンは、書類の束を見る。
そこにあるのは、完成形ではない。
途中の判断。
訂正の跡。
誰かの手書きの修正。
「……役に立ちますか」
「立ちます」
迷いのない声だった。
「今は、あなたを呼ばなくなりました」
「はい」
「でも、考え方は残ります」
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宿に戻る。
ミアが、すぐに察する。
「頼まれた?」
「はい」
「記録ね」
「はい」
ミアは、椅子に座り直す。
「嫌?」
「……少し」
「歩けなくなる気がする?」
図星だった。
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夜。
机の上に、白い紙を広げる。
何を書けばいいのか。
正解か。
最適解か。
失敗例か。
違う。
ペンを持ち、ゆっくりと書き出す。
> 迷った
> 決めなかった
> それでも、動いた
それが、最初の一行だった。
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翌日。
セラに、数枚の紙を渡す。
「完成していません」
「完成しなくていいです」
「正解も、ありません」
「それでいいです」
セラは、大事そうに受け取る。
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帰り道。
ミアが、空を見上げる。
「歩かなくなる?」
「いいえ」
一拍。
「歩き方が、変わります」
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夜。
日記に書く。
> 残すことにした
> 完成させないまま
正解を残さなかった。
だから、続く。
それが、今の線だった。
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