第5話 それを普通だと思ってるの、あなただけだから
――おかしい。
ギルドを出てからずっと、ミアの頭の中はそれで埋まっていた。
隣を歩くアレンは、相変わらずのんびりしている。
人混みでも、石畳でも、呼吸一つ乱れない。
(……何なの、この人)
さっきの荷運びを思い出す。
あの倉庫。
中級前衛二人がかりでも半日はかかる量だ。
それを一人で、しかも淡々と。
「ねえ、アレン」
「はい」
「……さっきの荷物、本気で重くなかった?」
「そうですね。まあ、持てる範囲でした」
“持てる範囲”。
その言い方が、妙に引っかかる。
「私、前衛と何人も組んできたけどね」
歩きながら、ミアは言う。
「あなたより楽そうに運んだ人、見たことない」
「そうですか」
アレンは特に誇る様子もなく、首をかしげただけだった。
ギルド前の広場で、数人の冒険者が模擬戦をしている。
ミアはちらりと視線を向けた。
「あの人たち、ランク的には中堅どころよ」
「そうなんですね」
「多分、あなたより弱い」
はっきり言った。
アレンは一瞬だけ考えてから、困ったように笑う。
「それは、さすがにないと思います」
(あるのよ)
ミアは心の中で即答した。
自覚が、ない。
それが一番厄介だ。
「……ステータス、見せてもらってもいい?」
「いいですよ」
即答。
警戒ゼロ。
(普通、嫌がるでしょ……)
ミアは半ば呆れながら、ウィンドウを覗き込んだ。
そして、固まった。
「…………」
数字が、合わない。
一つ一つは、見たことのある範囲。
でも、全部合わせると、明らかにおかしい。
「……ねえ」
「はい」
「これ、どのくらいの頻度で更新されてる?」
「えっと……歩くたび、ですかね」
冗談だと思った。
だが、アレンの顔は真剣だった。
「仕事しても上がりますし。
休憩しても、少しずつ」
「……は?」
ミアは思わず足を止めた。
「ちょっと待って。
戦ってない時間も?」
「はい」
否定の余地がないほど、自然な返事。
ミアは額を押さえた。
(なにそれ。聞いたことない)
スキル成長は、基本的に戦闘か、反復訓練だ。
生活行動だけで、ここまで伸びるなんて。
「アレン」
「はい」
「自分が、ちょっと変だって思ったことない?」
少し、言葉を選んだ。
アレンは考え込む。
「……言われてみれば、最近は伸びが早い気がします」
「“気がする”じゃないから!」
思わず声が出た。
通行人がちらっとこちらを見る。
ミアは咳払いして、声を落とした。
「ねえ。これ、はっきり言うね」
真剣なトーンで続ける。
「あなた、今のまま一人で動いてたら、
そのうち絶対トラブルに巻き込まれる」
「そうですか?」
「そう!」
即答だった。
「強すぎるのに、自覚がない人って、
一番目をつけられるから」
貴族、騎士団、ギルド上層。
面倒な連中の顔が、いくつも浮かぶ。
アレンは少し困ったように笑った。
「でも、今のところは平和ですよ」
「今のところ、ね」
ミアはため息をついた。
……なのに。
(でも)
隣を歩くこの人は、不思議と嫌じゃない。
自慢しない。
威張らない。
自分の強さを、振りかざさない。
ただ、普通に生きているだけだ。
「……しばらく、組む話」
「はい」
「冗談じゃないからね」
ミアは念を押す。
「私は、あなたを観察する」
「観察、ですか」
「そう。危険だから」
アレンは少し考えてから、うなずいた。
「分かりました」
あっさり。
ミアは小さく笑ってしまった。
「ほんと……変な人」
でも、悪くない。
そう思ってしまった自分に、ミアは気づいていた。
この人の“普通”が、
どこまで世界を壊すのか。
それを一番近くで見る役を、
自分が引き受けてしまったのだと。
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