第45話 歩かない日
その日は、予定がなかった。
掲示板を見ても、
呼び出しはない。
相談も、ない。
「……珍しいわね」
ミアが言う。
「はい」
アレンは、うなずいた。
「歩かなくていい日です」
「それ、前は喜んでたわよね」
「はい」
「今は?」
アレンは、少し考えた。
「……落ち着きません」
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午前。
アレンは、宿の一階に降りただけだった。
地図も広げない。
靴も履かない。
代わりに、窓の外を見る。
人が歩く。
荷車が通る。
誰かが立ち止まり、話す。
以前なら、
その中に入っていた。
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昼前。
ギルドから、簡単な報告が届く。
「旧街道、問題なし」
「山道、仮判断更新済み」
ミアが、紙を読み上げる。
「……あなたの出番、なし」
「はい」
「寂しい?」
アレンは、少しだけ考えてから言う。
「……少し」
正直だった。
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午後。
宿の裏庭で、
アレンは木箱に腰を下ろした。
何もしていない。
だが、考えている。
「……歩かないと」
自分に言い聞かせる。
「見えないことも、ある」
今まで、
“動いて分かること”ばかりを選んできた。
今日は、逆だ。
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夕方。
ミアが、二つのカップを持ってきた。
「はい」
「ありがとうございます」
並んで座る。
「ねえ」
「はい」
「あなたがいなくても、
今日は静かだった」
「はい」
「それって」
一拍置く。
「成功よね」
アレンは、うなずいた。
「はい」
そして、少し間を置いて続ける。
「でも」
「?」
「……僕がいなくて、
誰も困らなかったのは」
「うん」
「嬉しいです」
「……うん」
「でも」
アレンは、カップを見つめる。
「**少し、怖いです**」
ミアは、何も言わなかった。
それが、
今の彼に必要な距離だと分かっていたから。
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夜。
アレンは、日記に一行だけ書いた。
> 歩かなかった
> 問題は起きなかった
> それでも、考えた
ペンを置く。
今日は、
前に進んだのか。
止まったのか。
まだ、分からない。
だが。
**選ばなかったことを、
自分で選んだ日**だった。
それだけで、
十分な一日だった。
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