第43話 都合のいい考え方
噂が、少しずつ形を変え始めていた。
「判断は現地で」
「正解は一つじゃない」
「仮でいいから、線を引く」
それらは、本来“考えるため”の言葉だった。
だが――。
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レンバートから離れた交易都市、ノーゼン。
商人組合の会合で、男が声を張った。
「つまりだ。
危険かどうかは、冒険者が判断する」
「責任は?」
「仮判断だろ?
後で修正できる」
数人が、顔を見合わせる。
「……それを理由に、
安い依頼を投げられるな」
沈黙。
否定する者はいなかった。
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数日後。
ギルドに、妙な依頼が増え始めた。
【要現地判断】
【詳細未定】
【仮判断必須】
「……内容、薄くない?」
ミアが、紙を指で弾く。
「はい」
アレンは、静かに答えた。
「判断を、丸投げしています」
「しかも」
ミアは、眉をひそめる。
「失敗しても、
“仮だった”で済ませる気」
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受付のハロルドも、気づいていた。
「同じ発注元です」
「商人組合?」
「はい。
責任を、判断側に寄せています」
支部長が、低く言う。
「……都合よく、使われ始めたな」
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その夜。
宿で、ミアがアレンを見る。
「ねえ」
「はい」
「あなたの考え方、
便利すぎたかも」
アレンは、少し考えてから言った。
「便利なのは、
使う人の都合です」
「……逃げないわね」
「逃げません」
穏やかに、だがはっきり。
「**考える責任まで、
譲るつもりはありません**」
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翌日。
ギルドは、静かに動いた。
新しい紙が、
掲示板に貼られる。
> 仮判断は、
> 発注側の責任免除を意味しない
短いが、鋭い一文だった。
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ノーゼンの商人組合。
「……依頼、戻ってきた?」
「はい。
条件が付いて」
男は、舌打ちした。
「面倒になったな」
“使える思想”が、
使いにくくなった瞬間だった。
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レンバートの夕方。
ミアが、肩をすくめる。
「さすがに、
これは止めたわね」
「はい」
アレンは、空を見上げる。
「考え方は、
刃にもなります」
「怖くない?」
「怖いです」
一拍置いて、続ける。
「だから、
手放しません」
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夜。
灯りを落としながら、
アレンは思う。
考え方は、広がる。
歪められる。
利用もされる。
それでも。
**使い方を選ぶのは、
人だ。**
自分は、
歩く場所を選ぶだけ。
世界がどう使うかまでは、
決めない。
それでいい。
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