第41話 いなくても、回った
レンバート冒険者ギルドが、少しざわついたのは朝だった。
掲示板の中央。
珍しく、依頼書が一枚だけ大きく貼られている。
【広域案件】
・街道三路の同時不具合
・複数支部連携
・仮判断必須
「……これ」
ミアが、腕を組む。
「まあまあ大きいわね」
「はい」
アレンは、素直に答えた。
「距離も、範囲もあります」
「で」
ミアが横目で見る。
「あなたは?」
「行きません」
即答だった。
ミアは、一瞬だけ驚き、
すぐに小さく笑った。
「……そう言うと思った」
---
昼前。
ギルドの会議室では、
複数の冒険者と職員が集まっていた。
「まず、各地点の状況を共有する」
「判断は?」
「仮でいい。
線を引くことを優先する」
誰かが言う。
「全部は無理だ。
優先順位を決めよう」
別の誰かが続ける。
声は落ち着いている。
怒鳴る者はいない。
だが、全員が考えていた。
---
現地。
東の街道では、
冒険者がこう書いた。
【仮判断】
・崩落箇所は通行止め
・迂回路を明示
南では。
【仮判断】
・夜間のみ制限
・昼間は注意喚起
西では。
【仮判断】
・当面現状維持
・二日後再確認
判断は、揃っていない。
だが、混乱もなかった。
---
夕方。
報告が、次々とギルドに戻る。
「事故なし」
「大きな滞留もなし」
「不満は出ているが、
暴発はしていない」
ハロルドは、深く息を吐いた。
「……回ったな」
支部長が、静かにうなずく。
「回った」
---
その話を、
宿でミアがアレンに伝えた。
「聞いた?」
「はい」
「あなた、呼ばれてない」
「はい」
「それで、成功」
ミアは、じっとアレンを見る。
「……どう思う?」
アレンは、少し考えてから言った。
「安心しました」
「悔しくない?」
「いいえ」
穏やかに、首を振る。
「僕がいない方が、
続きます」
ミアは、しばらく黙っていた。
「……本当に、
変な冒険者ね」
「そうですか?」
「誉めてる」
---
同じ頃。
別の街の宿で、
ガルドは報告を読んでいた。
「……あの案件」
「成功したらしいな」
エリスが言う。
「しかも、
“あの人”抜きで」
ガルドは、静かに紙を置いた。
「……ようやくだ」
「何が?」
「追いかける背中が、
見えなくなった」
それは、諦めではない。
別の道を、
歩き始めた証だった。
---
レンバートの夜。
アレンは、灯りを落とす。
彼がいなくても、
判断は残り、
線は引かれ、
世界は回る。
それでいい。
**誰かが抜けても、
止まらない世界。**
それが、
彼がずっと望んでいた形だった。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




