第39話 重ねた判断
レンバートの外れにある小さな集落、リュカ村。
ここでは最近、冒険者の出入りが少し増えていた。
理由は単純だ。
「……判断、出しやすい」
若い冒険者が、そう呟いた。
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問題は、村の裏手を流れる細い川だった。
普段は穏やかだが、雨が降ると増水する。
橋を作るほどではない。
だが、放っておくと危ない。
「前なら、“様子見”だったな」
「今は?」
仲間が聞く。
冒険者は、少し考えてから答えた。
「仮判断を書く」
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【仮判断】
・通常時:渡渉可
・雨天時:通行注意、夜間は非推奨
それだけだ。
工事も、補強もない。
だが、その紙は村にも渡された。
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数日後。
雨が降った夜、村人の一人が言った。
「今日は、向こう岸に行くのやめとくか」
「書いてあったな」
「無理しなくていい」
誰も不満を言わなかった。
結果、事故は起きなかった。
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翌週。
同じ場所で、少しだけ手が加えられた。
滑りやすい石が、端に寄せられただけ。
誰かが勝手にやったわけではない。
話し合って、決めた。
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「……あれ?」
冒険者は、再訪して首をかしげた。
「前より、良くなってないか?」
村人が、照れくさそうに言う。
「仮判断があったから、
考えやすかった」
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ギルドへの報告書。
【判断修正】
・雨天時も昼間は注意すれば通行可
・夜間は引き続き非推奨
ハロルドは、それを見てうなずいた。
「……判断が、育ってる」
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その話を聞いて、ミアが笑った。
「ねえ、アレン」
「はい」
「もう完全に、
あなたがいなくても回ってる」
「はい」
アレンは、穏やかに答える。
「仮判断が、
積み重なっています」
「それって」
ミアは、少しだけ真面目な声になる。
「“経験”よね」
「はい」
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一方。
別の街道で、ガルドたちは依頼を受けていた。
【要現地判断/仮判断必須】
ガルドは、紙を握りしめる。
「……逃げられないな」
「出すしかない」
エリスが言う。
「間違ってもいい」
その言葉が、やけに重かった。
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ガルドは、現場を見回した。
危険はある。
だが、完全な解決策は見えない。
そして、ペンを取る。
【仮判断】
・現状維持
・問題が顕在化した場合、再調査
書き終えた瞬間、
胸の奥が、少しだけ軽くなった。
「……これでいいのか」
「いいかどうかは、
後で分かる」
エリスは、静かに言った。
「でも、
決めたのは確か」
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レンバートの夜。
アレンは、窓を開けて外を見ていた。
仮の判断。
未完成な選択。
何度でも修正できる決断。
それが、世界を動かしている。
**正解じゃなくていい。
続けられることが、強さになる。**
アレンは、そう確信し始めていた。
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