第35話 関わらない、という選択
レンバート冒険者ギルドの朝は、いつも通りだった。
掲示板。
依頼書。
ざわめき。
だが、その一角に、少し妙な紙が貼られていた。
判断を現地に委ねるため、当案件は調査のみとする
「……これ」
ミアが指をさす。
「増えてない?」
「はい」
アレンは、素直に答えた。
「“調査のみ”案件」
「あなたの影響ね」
「……そうですか?」
「そうよ」
ミアは腕を組む。
「皆、“決めない方がいい”って、
勘違いし始めてる」
その日の昼。
ギルドに、一件の報告が入った。
「調査を終えたが、
判断できなかった」
「……また?」
ハロルドが、眉をひそめる。
「三件目です」
内容は、似ている。
危険ではない
でも放置すると困る
だから“判断を委ねた”
結果、
誰も決めていない。
ミアは、アレンを見る。
「……どうする?」
アレンは、少し考えてから言った。
「行きません」
はっきりと。
ミアは、少し驚いた。
「今回は?」
「はい」
「呼ばれてるわよ?」
「だからです」
アレンは、静かに続ける。
「ここで行くと、
“決めない理由”になります」
ミアは、言葉を失った。
(……そこまで見えてる)
夕方。
ハロルドと支部長が、二人の前に立った。
「……本当に、行かないのか」
「はい」
アレンは、うなずく。
「今回の件は、
僕が行かない方がいいです」
「理由は?」
「判断を避けているからです」
支部長は、しばらく黙った。
やがて、深く息を吐く。
「……分かった」
「え?」
ミアが、思わず声を漏らす。
「これは、
ギルド側の課題だ」
支部長は、穏やかに言った。
「お前が出る場面じゃない」
その後。
ギルド内で、小さな方針変更がなされた。
調査のみ案件でも、
仮の判断を必ず記すこと
派手ではない。
だが、意味は大きい。
夜。
宿で、ミアがぽつりと呟く。
「……あなた、
今日、何もしてない」
「はい」
「でも」
一拍置く。
「一番、効いたかも」
アレンは、少しだけ笑った。
「動かないのも、
判断です」
「……ほんとにね」
同じ頃。
別の街のギルドで、
元パーティの一人が、話を聞いていた。
「……名前のない基準が、
広がりすぎてる」
「制御、難しいですね」
「でも」
一拍置く。
「元になった人は、
ちゃんと“線”を引いてる」
それが、
彼らにはまだできないことだった。
レンバートの夜は、静かだった。
名前のない影響は、
時に、誤解を生む。
だが。
関わらない、という選択もまた、
世界を前に進める。
アレンは、今日も歩かなかった。
それで、十分だった。
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