第28話 正しいのに、正解じゃない
レンバート近郊、分岐の多い旧街道。
アレンとミアは、簡易調査という形でそこに立っていた。
「……ここ、前にも来たわね」
ミアが周囲を見回す。
「はい」
アレンはうなずいた。
「通りやすくなった場所です」
道は整っている。
足場も安定し、視界も悪くない。
一見すると、問題はない。
「じゃあ、今回は何が“困りごと”なの?」
「……意見が、割れています」
ハロルドから聞いた内容を、ミアが思い出す。
「商人は、もっと整えてほしい。
狩人は、これ以上触らないでほしい」
「はい」
どちらも、もっともだ。
少し歩くと、二人の人物が言い争っていた。
「だから言ってるだろ!」
荷車を引いた商人が、声を荒げる。
「この道、もっと真っ直ぐにすれば、
往復が早くなる!」
「それをやると困るんだ!」
狩人が、即座に言い返す。
「獣が全部逃げる。
この辺り、狩場なんだぞ!」
ミアは、そっと息を吐いた。
「……来たわね」
アレンは、二人の話を遮らずに聞いていた。
「整えれば、事故は減る」
「整えすぎれば、生態が変わる」
どちらも、正しい。
だが、同時には成立しない。
「で?」
ミアが、小声で言う。
「あなたなら、どうする?」
アレンは、すぐには答えなかった。
道を見る。
草を見る。
足跡を見る。
「……判断は、できません」
「え?」
「どちらが“正しいか”は、
決められません」
ミアは、少し意外そうに彼を見る。
「あなたでも?」
「はい」
アレンは、静かに続ける。
「ここを整えると、
誰かは楽になります」
「でも」
「誰かは、困ります」
当たり前の話。
だが、今まで避けてきた話だった。
商人が、二人に気づいた。
「おい、あんたたち!」
「はい」
「この道、直してくれ!」
狩人が、即座に被せる。
「触らないでくれ!」
ミアは、反射的にアレンを見る。
だが、アレンは前に出なかった。
代わりに、穏やかに言う。
「……ここを使うのは、
あなた方だけですか?」
二人が、言葉に詰まる。
「他にも、通る人はいますよね」
「……いる」
「狩りをする人も、
商いをする人も」
アレンは、道の先を指す。
「どこまで整えるか、
決めるのは」
一拍置いて、続けた。
「使う人たちです」
ミアは、はっとした。
(答え、出してない)
アレンは、道の端に、小さな杭を立てた。
「ここから先は、
あまり触らない方がいいです」
「なぜだ?」
「獣の通り道が、
重なっています」
次に、反対側を指す。
「こちらは、
もう少し整えても大丈夫です」
「……分ける?」
「はい」
完全な解決ではない。
誰も、百点ではない。
だが。
「選べる」
狩人が、ぽつりと言った。
「……話し合えるな」
商人も、腕を組む。
「全部じゃないが……
使える」
ミアは、内心で深くうなずいた。
(これが、次の段階)
帰り道。
「ねえ、アレン」
「はい」
「さっきの、
あなたの答え」
「答えてません」
「そう」
ミアは、笑った。
「でも、
“考える場所”は作った」
アレンは、少しだけ照れたように言う。
「決めるのは、
現地の人がいいと思って」
「……ほんと、厄介」
だが、その声は、どこか誇らしげだった。
その夜。
ギルドの簡易指針に、
新しい一文が追加された。
判断が分かれる場合は、
“選択肢”を残すこと
誰の名前も、書かれていない。
だが、それは確実に、
世界の使い方を一段、進めていた。
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