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役に立たないと追放された主人公が、 実は“行動=経験値”という規格外成長で、 世界の基準そのものを置き去りにしていく話  作者: 蒼井テンマ


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第23話 やらなかった場所で

 翌日。


 レンバート冒険者ギルドは、いつもより少し騒がしかった。


「……あれ?」


 ミアが周囲を見回す。


「なんか、落ち着きないわね」


「そうですね」


 アレンも、空気の違いを感じ取っていた。


 受付の前で、数人の冒険者が集まっている。

 声は荒くないが、どこか困った様子だ。


「何かあったんですか?」


 ミアが声をかけると、

 若い冒険者が振り返った。


「ああ……昨日の見張り小屋の近くだ」


 ミアの肩が、わずかに動く。


「何かあったの?」


「柵、覚えてるだろ?」


「……ええ」


「夜のうちに、一部崩れた」


 ミアは、息を詰めた。


「怪我人は?」


「いない」


 即答だった。


「ただ、家畜が一頭逃げたくらいだ」


 ミアは、胸をなで下ろす。


「……それだけ?」


「それだけ」


 冒険者は、苦笑した。


「正直、

 “あの人たちが直してくれるだろ”って、

 誰も手を出さなかった」


 沈黙。


 その場にいた全員が、言葉を失う。


 アレンが、静かに言った。


「……それは」


 言葉が、続かない。


「あなたのせいじゃないわ」


 ミアが、即座に言った。


「誰も、あなたに頼んでない」


「はい」


「でも」


 一拍置く。


「頼るつもりでは、いた」


 それが、一番厄介だった。


 支部長が、奥から出てきた。


「状況は?」


「軽微です」


 ハロルドが答える。


「被害は最小限」


「そうか」


 支部長は、全体を見渡す。


「……これは、いい例だな」


 ミアが、顔を上げる。


「いい例?」


「ああ」


 支部長は、穏やかに言う。


「“便利”に慣れすぎると、

 動かなくなる」


 アレンは、支部長を見る。


「自分が、行くべきでしたか?」


「違う」


 即答だった。


「行かない選択は、正しい」


「……?」


「お前が全部やれば、

 誰も考えなくなる」


 ミアは、静かにうなずく。


「昨日、止めて正解だった」


 支部長は、続ける。


「だが、

 “代わり”を用意しなかったのは、

 ギルド側の落ち度だ」


 ハロルドが、はっとする。


「……確かに」


 その日の午後。


 ギルド内で、簡単な打ち合わせが行われた。


 大げさな会議ではない。

 立ち話に近い。


「今後」


 支部長が言う。


「“要現地判断”案件については」


 一拍置く。


「まず、複数人で見に行く」


「複数人?」


「アレン基準を、

 共有するためだ」


 ミアは、思わず言った。


「それって……」


「真似する」


 支部長は、はっきり言った。


「一人に頼らない」


 アレンは、少し驚いた顔をした。


「……それで、いいんですか?」


「理想だ」


 支部長は、笑った。


「お前がいなくても、

 世界が回るようにする」


 ミアは、胸の奥が少し軽くなるのを感じた。


(……ちゃんと、大人がいる)


 夕方。


 宿へ戻る道で、ミアが言った。


「ねえ、アレン」


「はい」


「今日の件、

 気にしてる?」


「……少し」


 正直な答えだった。


「でも」


 続ける。


「全部やらない方が、

 長く続きます」


 ミアは、にやりと笑った。


「その答え、

 昨日のあなたなら出なかったわよ」


「そうですか?」


「そう」


 アレンは、空を見上げた。


「……世界、少しだけ難しいですね」


「そうね」


 ミアは、肩をすくめる。


「でも、

 少し不便な方が、

 ちゃんと回る」


 やらなかった場所で、

 小さな問題が起きた。


 だが、それは失敗ではない。


 依存しすぎないための、必要な揺れだった。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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