第21話 一日一件のはずでした
そのルールが決まった翌朝。
レンバート冒険者ギルドは、いつもより少し静かだった。
掲示板の前で、ミアが腕を組んでいる。
「……よし」
「何がですか?」
「今日は“一日一件”」
念を押すように言う。
「昨日、支部長が言ったでしょ」
「はい」
「相談案件は、一日一件まで」
「分かっています」
アレンは、素直にうなずいた。
その返事に、ミアは一抹の不安を覚える。
(分かってる=守る、とは限らないのよね……)
受付のハロルドが、そっと声をかけてくる。
「……おはようございます」
「おはよう」
「今日は、こちらを」
差し出されたのは、一枚の紙。
【郊外・古い見張り小屋】
【最近、誰も使っていないが気になる】
「はい、一件目」
ミアは即座に言った。
「これで終わりね」
「はい」
アレンも即答。
ハロルドは、少しだけ申し訳なさそうに視線を逸らす。
「……実は」
「まだ何かある?」
「“まとめた相談”が」
ミアは、ぴたりと止まった。
「……まとめた?」
「はい。
三件分を、一件に」
「それは、一件じゃない」
「書類上は、一件です」
ミアは、ゆっくりハロルドを見る。
「あなた、今すごく悪い顔してる」
「仕事です」
「言い切った!」
郊外の見張り小屋は、確かに使われていなかった。
扉は歪み、周囲の草も伸び放題。
「……理由は、はっきりしてるわね」
ミアが言う。
「床、抜けかけ」
「屋根も、風通しが良すぎます」
「それ、言い換えると崩壊寸前」
アレンは、小屋の中を一周する。
「でも、修理すれば使えます」
「“でも”で済ませないで!」
数十分後。
床は補強され、
屋根も最低限整えられていた。
――――――
【スキル《環境整備》の熟練度が上昇しました】
――――――
「……はい、一件終了」
ミアは、腕を組む。
「これで終わりよ?」
「はい」
その時。
外から、声がかかった。
「すみませーん!」
ミアの肩が、ぴくりと動く。
「……誰?」
現れたのは、若い衛兵だった。
「見張り小屋、直してくれたって聞いて」
「聞いてない」
「助かります!
ついでに、少し先の柵も――」
「ついで禁止!」
ミアは即座に遮る。
衛兵は、きょとんとした。
「え?」
アレンが、少し困った顔で言う。
「柵、危ないですか?」
「はい。
このままだと、夜に崩れるかも」
「……ミア」
じっと見られる。
「……一件よ?」
「はい」
「でも」
ミアは、深く息を吸った。
「“同じ場所”だからね」
「ありがとうございます」
「喜ばないで!」
夕方。
二人がギルドに戻ると、
ハロルドがすでに待っていた。
「……どうでした?」
「一件、終わったわ」
「本当に?」
「本当!」
ミアは強調する。
「見張り小屋と、柵だけ」
ハロルドは、書類を確認する。
「では……」
一拍置く。
「こちらは、明日に回します」
差し出された紙は、五枚。
ミアは、無言で天井を仰いだ。
「……一日一件、とは」
「“受ける数”です」
「詭弁!」
アレンは、紙を覗き込む。
「明日、歩く距離が増えますね」
「増えすぎよ!」
だが、止められない。
一日一件ルールは、
すでに形を変え始めていた。
一日一件(ただし中身は問わない)
それが、新しい現実だった。
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