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追放されたけど、歩いてるだけで世界が楽になるらしい ~追放=失敗だと思ってたら、 一人になった瞬間から成長速度がおかしくなった件~  作者: 蒼井テンマ


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第17話 直接、お願いしてもいいですか

 レンバート冒険者ギルドの昼下がり。


 掲示板の前には人がまばらで、

 カウンター周りも落ち着いていた。


 ――その静けさを破ったのは、

 控えめなノック音だった。


「……あの」


 振り返ると、

 少し年配の男性が、遠慮がちに立っていた。


 服装からして商人ではない。

 農夫に近い。


「冒険者の方を、探していまして」


 ハロルドが応対する。


「依頼ですか?」


「いえ……正式な依頼ではなくて」


 ミアが、ぴくりと反応した。


(来た)


 男性は、周囲を気にしながら続ける。


「ここ最近、

 畑の端で“何も起きない”場所がありまして」


「……何も起きない?」


「はい。

 本来なら、水が溜まるはずなのに、溜まらない。

 作物も、妙に育ちがいい」


 ミアは、思わずアレンを見る。


「……それ、問題?」


 男性は困ったように笑った。


「良いこと、なんですが……

 理由が分からないと、逆に不安で」


 ハロルドが、少し困った顔をする。


「それは……」


 依頼にしにくい。

 被害もない。

 でも放っておくのも、落ち着かない。


 典型的な“困りごと”だ。


 男性は、意を決したように言った。


「……山道を直してくれた人がいると、聞きまして」


 ミアの肩が、わずかに跳ねた。


「旧水路も、あの人だと」


「噂、早いわね……」


 男性は、アレンを見る。


「あなたが……?」


「はい」


 即答。


「見てみますか?」


 男性の目が、ぱっと明るくなった。


「いいんですか?」


「困っているなら」


 ミアは、思わず口を挟む。


「ちょっと待って」


「?」


「それ、依頼じゃないわよ?」


「分かってます」


「報酬も、決まってない」


「はい」


「……ほんと、基準ズレてる」


 でも、止めなかった。


 畑は、街から少し離れた場所にあった。


 確かに、一角だけ様子が違う。


「……ここだけ、乾いてますね」


「はい」


「地下、水路があるかも」


 アレンは地面を軽く踏み、耳を澄ます。


「……水、逃げてます」


「逃げてる?」


「古い排水溝が、部分的に繋がってますね」


 男性は、目を丸くした。


「そんなの、聞いたことも……」


「昔、使われていたのかもしれません」


 アレンは、土を少し掘り返し、

 崩れかけた石を整える。


「これで、流れが安定します」


――――――

【スキル《環境整備》の熟練度が上昇しました】

――――――


 畑を見渡すと、

 水の巡りが均等になっていた。


「……おお」


 男性は、何度も頭を下げる。


「ありがとうございます……!」


「いえ」


 アレンは、特に誇る様子もない。


 男性は、懐から袋を取り出した。


「少ないですが……」


「それは“お礼”です」


 ミアが先回りして言う。


「受け取っていい」


「はい」


 アレンは、素直に受け取った。


 帰り道。


 ミアが腕を組んで歩く。


「……ついに来たわね」


「何がですか?」


「依頼主が、

 ギルドを通さずに直接来る段階」


「それは、まずいですか?」


「ううん」


 ミアは首を振る。


「むしろ、自然」


 一拍置いて、続ける。


「“困りごと”って、

 最初はこうやって伝染するの」


 アレンは、空を見上げた。


「歩く距離、増えそうですね」


「そうよ」


 ミアは、苦笑する。


「でも――」


 アレンを見る。


「あなたの場合、

 歩いた分だけ世界が楽になる」


 ギルドに戻ると、

 ハロルドが事情を察した顔で言った。


「……また、直接ですか?」


「はい」


 ハロルドは、ため息と一緒に笑った。


「記録、どう書けばいいんだろうな……」


 ミアは、肩をすくめる。


「もう諦めたら?」


 こうして。


 依頼になる前の困りごとが、

 正式に“流れ始めた”。


 誰も命令していない。

 誰も制度を変えていない。


 ただ、

 一番楽な道を選んだ結果だった。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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