第14話 最近、楽すぎる
レンバート近郊の草原。
三人組の冒険者パーティが、警戒しながら進んでいた。
「……なあ」
前を歩く剣士が、低い声で言う。
「今回、簡単すぎないか?」
「分かる」
後ろの弓使いが即答した。
「魔物の気配、薄い。
罠も、見えやすすぎる」
「前は、ここ通るの嫌だったのに」
魔法使いが首をかしげる。
依頼内容は、草原の簡易警戒。
初心者向けでも中級向けでもない、地味な仕事だ。
だが。
「……あ」
剣士が立ち止まり、地面を指さした。
「足跡、古いな」
「昨日じゃないわね」
「最低でも、三日は前だ」
弓使いが周囲を見渡す。
「ってことは……
最近、魔物来てない?」
「そんなわけないだろ」
魔法使いは言いつつも、納得しきれていない。
「ここ、通り道だったはずだぞ」
少し進むと、開けた場所に出た。
視界が、妙に良い。
「……草、刈られてない?」
「誰かやったのか?」
「こんな場所、依頼出てたっけ?」
三人は顔を見合わせる。
「知らない」
「俺も」
「私も」
剣士は、剣を収めた。
「まあ、助かるけどな」
それは本音だった。
視界が良ければ、不意打ちは減る。
足場が安定していれば、疲労も少ない。
結果。
警戒は、何事もなく終わった。
ギルドへ戻り、報告を済ませる。
「……以上です」
ハロルドが書類に目を通し、うなずいた。
「被害なし。
問題ありません」
「なあ」
剣士が、少し気になった様子で聞く。
「最近、他の依頼もこんな感じか?」
「え?」
「いや、その……」
言葉を探す。
「簡単、というか。
危険が少ないというか」
ハロルドは、一瞬だけ視線を泳がせた。
「……たまたま、でしょう」
「だよな」
弓使いが笑う。
「運がいいってやつだ」
「最近、運いいよね」
三人は特に深く考えず、ギルドを後にした。
ただ。
背中越しに、魔法使いがぽつりと呟く。
「……前は、もっと緊張してた気がする」
「気のせいだろ」
「そうだよな」
誰も、否定しなかった。
同じ頃。
ギルドの奥で、支部長が腕を組んでいた。
「……事故報告が、減っているな」
「はい」
ハロルドが答える。
「軽傷も、迷子も、
ほぼ出ていません」
「理由は?」
「……分かりません」
正確には、分かっている。
だが、それを一言で説明できない。
支部長は、しばらく考え込んだ後、静かに言った。
「原因がないなら、
対策は要らん」
「……はい」
「だが」
支部長は、窓の外を見た。
「この“楽さ”、
長くは続かんかもしれん」
「なぜですか?」
「理由が分からないままだからだ」
ハロルドは、思わず言いかけた。
――理由なら、いる。
だが、名前を出すのは、まだ早い。
「……記録は、続けます」
「ああ」
支部長は短くうなずいた。
その日の夕方。
宿の食堂で、冒険者たちが雑談していた。
「最近、楽だよな」
「分かる」
「稼ぎは変わらないのに、疲れない」
「最高じゃん」
誰も、不満はない。
誰も、疑問を深めない。
ただ一つだけ、共通した感想があった。
「……なんか、世界が優しくなった気がする」
その“理由”が、
毎日どこかを歩き回っている一人の冒険者だとは、
誰も知らないまま。
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