第13話 ついでに消えたもの
旧水路の件が片付いてから、三日ほど経った。
レンバート冒険者ギルドは、相変わらず忙しい。
ただし――どこか、空気が違っていた。
「……最近、静かじゃない?」
掲示板の前で、ミアが首をかしげる。
「そうですか?」
「うん。
“騒ぎ”が少ない」
以前なら、誰かが駆け込んできては、
魔物だ、事故だ、トラブルだと騒いでいた。
今は、それがない。
「平和なのは、いいことですよ」
アレンは、いつも通りの感想を口にする。
ミアは、じっと彼を見た。
(……原因、目の前にいる気がするんだけど)
その時、受付のハロルドが顔を出した。
「あ、ちょうどいいところに」
「何ですか?」
「正式な依頼じゃないんですが……」
ミアが、半目になる。
「また?」
「ええ、またです」
ハロルドは苦笑いしながら、続けた。
「旧水路の下流で、
“最近ネズミが出なくなった”って話がありまして」
「……それ、問題?」
「問題、ではないんですが」
ハロルドは言葉を選ぶ。
「以前は、異臭と一緒にネズミが増えていたので。
急に消えると、逆に不安だと」
ミアは、思わずアレンを見る。
「……心当たり、ある?」
「水が流れ始めましたから」
「だよね!」
即答だった。
「原因がなくなれば、結果もなくなります」
「それを“ついで”で済ませるのが問題なのよ……」
ハロルドは、軽く咳払いをした。
「他にも、似た話がありまして」
「まだあるの?」
「山道の件以降、
“馬が怖がらなくなった”とか」
「……ああ」
ミアは、額を押さえた。
「あれ、足場整えた影響ね」
「風向きと、音も変わりました」
「説明しないでいいから!」
アレンは、きょとんとする。
「悪いことでは、ないですよね?」
「悪くはない。
悪くはないんだけど……」
ミアは言葉に詰まる。
(問題が、連鎖的に消えてる)
ハロルドは、書類を一枚めくった。
「実はもう一つ。
昨日、別の冒険者さんから言われたんです」
「何て?」
「“最近、依頼が楽だ”と」
ミアは、ぴたりと動きを止めた。
「……それ、本人に聞いた?」
「はい。
理由は分からない、と」
アレンは、少しだけ考えた。
「たぶん、準備が整っているんだと思います」
「準備?」
「道が通りやすくて、
視界が良くて、
危険が減っているなら」
淡々と続ける。
「結果として、楽になります」
ミアは、ゆっくり息を吐いた。
「……ねえ、アレン」
「はい」
「あなた、
“困りごと”を一つ解決してるつもりでしょ」
「はい」
「実際はね」
ミアは、ギルドの中を見回した。
「三つも四つも、まとめて消してる」
アレンは、少し驚いたように瞬きをした。
「そうなんですか?」
「そう!」
その時、別の冒険者がカウンターにやって来た。
「なあ、ハロルド」
「はい?」
「最近、この辺りの依頼、楽じゃないか?」
ミアは、思わず吹き出しそうになるのをこらえた。
「前より、事故が少ないし。
変なトラブルも減った」
「そうですね」
ハロルドは、ちらりとアレンを見る。
「……たまたま、でしょうか」
「運がいいよな」
冒険者は、そう言って笑い、去っていった。
アレンは、その背中を見送りながら言う。
「よかったです」
「何が?」
「みんな、楽そうで」
ミアは、しばらく黙っていた。
そして、小さく笑う。
「……ほんと、ズルい人」
「そうですか?」
「そう。
でも――」
ミアは、肩をすくめた。
「こういうの、嫌いじゃない」
アレンは、特に意味を考えずにうなずいた。
「次は、どこに行きますか?」
ハロルドが、間髪入れずに答える。
「……実は、もう一件」
ミアは、天井を仰いだ。
「ほら来た」
「内容は?」
「“何も起きてないけど、不安”です」
アレンは、少し考えてから言った。
「見に行きましょう」
「でしょうね」
こうして。
一つの依頼を片付けた結果、
周囲の問題まで静かに消えていく。
それを誰も“功績”とは呼ばない。
ただ――
最近、世界が少し楽になっている。
それだけだった。
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